ヒネクレモノ

亜衣藍

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 今から三十年前、東北の寒村に、愚かで優しい女と家庭環境に恵まれぬ少年がいた。

 女は中学校の教師をしており、少年はその女の教え子で、わずか十二の少年だった。

 担任である女は、不幸な身の上の少年に対して最初から同情心を寄せていた。
 それは次第に愛へと変わっていき、少年もまた、寂しい心を癒してくれる女へ恋情を抱くようになって行く。

――――やがて二人は、決して許されぬ禁忌を犯してしまう。

 二人は男と女の関係になり、一度だけの逢瀬を重ねてしまったのだ。
 それが全ての間違いであり、始まりだった。

 なんと女は、その一度だけで子を身籠ってしまったのである。

 母親は、わずか十二の教え子と通じてしまった己の罪が露呈するのを恐れるあまり、堕胎する時期を逃し、結果として、赤子を産まざるを得ない状態になってしまった。

 何とかして彼女はそれを隠そうとしたが、それは不可能だった。

 これは、とんでもないスキャンダルだ。
 だが、母親の実家が地元の名士だった為に、この事は力づくで伏せられた。
 しかし、それこそ田舎町だ。
 人の口に戸は立てられぬ。

 とくに、極端に狭いコミュニティーにあって、秘密など守られるワケがなかった。

 普段、特別な話題も無い人々は、地元のスキャンダラスなニュースで、所かまわず下世話に盛り上がった。

『あそこの娘さん、中学校の先生なんだけど――知ってっか?』
『知ってる知ってる! 教え子の男の子に手ぇ出して妊娠しちまったってぇ?』
『相手、まだ子供だよ~十二だって! こないだまで小学生だった子に、ねぇ~』
『たまげたもんだねぇ!』

 こんな具合に、常に話のネタにされ、好機の目で見られることに耐えられなくなった母親は、身重の体のまま町から去った。

 父親だった少年もまた、町から消えた。
 元々少年は、養護施設に出たり入ったりの不安定な環境にいた。

 少年の父親は出稼ぎに出たまま失踪して戻らず、母親は少年を家に置いて愛人の家を渡り歩くような状態であったのだ。

 頼りになる親族も他におらず、少年を取り巻く環境は常に冷淡で過酷であった。

 その荒み切った中にあって、唯一彼に優しく声を掛けてくれたのが、担任の女教師だったのだ。

 優しい女教師に心を寄せた少年を責めるのは、幾ら何でも酷というものであろう。

 それが罪と言えば、罪なのだろうが。
 しかし、無責任に騒ぎ立てて罰を与える権利が、何者にあるだろうか? 

 だが、地元の名士の娘を陥れる原因となった少年に対して、世間の風当たりは強すぎた。
 追い出されるようにして、少年も居心地の悪いだけだった故郷を捨てて上京した。

 養護施設を飛び出し、少年はたった一人で生きて行くのだと決心したのだ。
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