ヒネクレモノ

亜衣藍

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 床に押し付けられたままの零たち四人と、手下の男達と、所在なさげな女がその場で待機すること、時間にして僅か二、三分か。

 戻って来た聖は一転して、零たちの拘束を解くように命令を下した。
 ユウの説得が奏功した結果らしい。
 辛うじて、彼らはユウによって救われたようだ。

――――助かった……。

 そう思って胸を撫で下ろしたのは、実は、この場にいた全員だった。
 零たちは当然だが、聖に付き従っていた男達も同じだ。
 本音では、彼らもこんなカタギ連中とモメるのは不本意だったようだ。

 脅して透かして、上手に上前を撥ねるのが本来のやり方だ。
 こんな真似をしても一銭の得にもならないし、事と次第によっては、彼らがお縄になってしまうリスクが高い。

 だが、とにかく聖の怒りが組の上層部で優先されてしまい、その指示もあって、渋々彼らはここまで付き従ったのだ。
 それは聖も分かっていたようで、もう男達には無茶な命令はしなかった。
 聖は鋭い視線を一閃し、零たちに言質を迫る。

「お前らは纏めて、五体満足の状態でライジンブ・プロまで送り届けてやるよ。良かったなぁ?」
「――は、はい」
「だが、ここで起こった事は――分かってるな?」

『他言無用』

 全員がそれに恭順の意志を示し、不問にすると聖に誓約した。
 そこからの展開は早かった。
 聖は男達に指示を出し、手際よくライトバンを用意させる。
 そして、先に美央、明、岸本の三人をライトバンに乗せると、最後に一人残った零へ向かって近寄ってきた。
 聖は、零を射殺しそうな眼で睨みつけると、血の凍るような冷ややかな声で恫喝する。

「オレは、あいつを苦しめたお前だけは絶対に許さない。今は、あいつに免じて引いてやるが……必ずこの落とし前はつけてやる。二度と、あいつの前に顔を出すな!」

 ユウは『オレから連絡が行かない限り近寄るな』という伝言を聖に頼んだのだが、聖は薄汚い野良犬がユウの周囲をうろつくこと事態が業腹だったので、違う言葉で釘を刺す。

「あいつも、お前のツラなんか二度と見たくないってよ」

 全ての可能性を否定する決定的な言葉に、零は無言になった。
 そうして彼は聖に返事をしないまま、静かに背を向けて、三人の待つライトバンへと乗り込んだ。

(ユウさん……あんな失礼な事をしたオレを助けてくれたのは嬉しいけど……当たり前だけど、やっぱり嫌われたかな……)

 昨夜は、自分でもどうかしていたと思う。

 ただ、やっぱり――自分にとって特別な存在だったユウが、聖と強く繋がっている事実がどうしても受け入れられなくて。
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