ヒネクレモノ

亜衣藍

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「分かってます! だったらなおさら、オレの言う事を聞いてください!」

 ユウが強い口調で言うと『少し待ってろ』と返答が返ってきた。
 どうやら、ユウとのやり取りの為に場所を移動したらしい。
 しばらくの沈黙の後、聖の嘆息が聞こえた。

『もう、いいぞ。……話せ』

「頼むから、これ以上オレに恥をかかせないでくれ。そこまで聖さんに出張られたら、オレは自分じゃ何も出来ないクズだと証明するようなもんだ。それじゃあ、あまりに情けないよ」

『なにが情けないだと? お前はオレの特別なんだ。それを痛めつけるなんざ言語道断だ。相手が誰だろうと、決してただじゃあ置かねぇ!』

「聖さんがオレのことを大切に思っているのは充分解ってる! だけど、ダメだ! 何回も言わせないでくれ」

『ユウ……』

「聖さん、頼む。そいつには手を出さないでくれ」

『……しょうがねぇな……でも、これから仕事だろう? こいつはどうする?』

 聖の問いに、ユウはたどたどしい言葉を紡ぐ。

「それは……まさか、殴ったり蹴ったりはまだしてないですよね? 未成年に手を出したら、いくら聖さんでもヤバイですよ。だいたい、彼は他社のアイドルでしょう? 暴力を振るったら、誤魔化しはさすがに利かないですよ」

『オレはプロだ。そんなヘマはしない』

 怖い答えだが、ひとまず安心していいだろう。
 ホッと息をつくと、ユウはこれから零のことをどうしようかと思案する。
 しかし、どうするもなにも、本音を言えばもう全部投げ捨てて逃げ出してしまいたいというのが本音だ。
 ジェネレーションギャップなのか、何なのか、零とはまったく会話が成立しそうもない。
 よく分からない言いがかりのような難癖をつけられ、一方的に力で押さえられ、ひどい屈辱を味わわされた。
 こちらの捨て身の反撃で難を逃れたようだが、記憶のない内にパジャマに着替えされられ、ベッドに運ばれたという赤っ恥は忘れられない。
 もう絶対に零とは会いたくないし、昨日の事は不幸な事故だったと思って忘れたい。

 本当に、二度と思い出したくもない。
 全て無かったことにして、記憶を封じたい気分だ。

(あいつ、マジでいったい何だったんだ? 突然マンションに来たと思ったら、オレが色仕掛けで聖さんに取り入ったかのような気持ち悪い妄想をぶち上げて……枕営業だ何だと言い出すし、意味がわからない)

 物思いに沈むユウに、電話の向こうから声が掛かる。

『どうした?』
「いえ――」

 ふと考え、ユウは顔を上げると、電話ではなく運転席にいる真壁の方へ問いかけた。
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