ヒネクレモノ

亜衣藍

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 ユウは嘆息すると、零の入室を許可した。

   ◇

 かつて、ダブルミリオンを達成し、紅白にも出演したことのある華やかな歌手の住まいにしては、ユウのマンションは実に質素な内装だった。
 家具は少なく、床に分厚い藍色の絨毯が広く敷いてあり、室内は裸足で歩き回れるようになっている。
 スリッパなども用意していないようだ。

「どうぞ、靴を脱いでそのまま上がっていいよ」
「すみません、お邪魔します……」

 広い1LDKの、あまりモノのない室内をキョロキョロと見回すと、零は、そっと壁に手を触れた。

「あ、壁が……この質感、まるでスタジオみたいですね。もしかして防音なんですか?」

「そうだよ。このマンションは元々防音だけど、やっぱり完全ではないからね。ギターを弾いたりして作曲もするから、そこはこだわってカネをかけたんだ。もちろん床も天井も防音壁に改築しているよ。このマンションを買う時にこだわったのは、その防音壁の設備工事くらいかな。あとは……まぁ、オレには、そんなに執着するようなモノもないし……」

「いえ、ミュージシャンらしいこだわりだと尊敬します。お部屋もゴテゴテしてなくて、とてもシンプルで良いと思いますよ」

 そう言うと、零は手土産のワインを差し出した。

「これ、そんなに高価な代物じゃないけど、ネットで美味いって口コミのワインです。マネージャーに頼んで買ってもらったんで、ユウさん飲んでみてください」

「ありがとう。あとで頂くよ」

 そう言うと、ユウは渡されたワインをサイドボードに置き、一人掛けのソファーに座った。
 零には、対面の二人掛けソファーを促す。
 そもそも、この部屋には、ソファーはこの二脚しか置いていない。
 あと家具らしいのは、小さなローテーブルと、パーテーションで仕切っただけの簡単な寝室にシングルサイズのベッドと、小スペースの書斎くらいだろう。
 広い空間が、殊更広く感じられる造りになってる。
 もしかしたらユウは、狭い場所が苦手なのかもしれない……そんな事を考えていたら、向こうの方から声を掛けてきた。

「――それで、いったい今日はどんな用があって来たんだ? オレたちは元々、それ程深い交流もないはずだが?」

 不思議そうな面持ちで、ユウは問い質す。
 最もな疑問に、零は相槌を打つ。

「そうですね。オレたち、そもそも事務所も違うし歳も離れている。テレビでもそうそう共演する機会もない。現に今まで、二回しか共演してませんし。考えてみれば、オレたちロクに接点もないですね。ユウさんの不思議に思う気持ちは分かります」
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