ヒネクレモノ

亜衣藍

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「そう、怖い人なんだ。業績が低迷していたジュピタープロダクションの社長に就任するや否や、一気に経営を立て直した凄腕で有名だけど、同時に、手段を択ばない事でも有名な人なんだ。御堂社長に身包み剝がされて、業界から消えた芸能人が何人もいるんだよ。一見すると、そんな荒事からは縁遠そうな、スタイリッシュでオシャレでスマートな業界人だけどね。僕のようにコニカで二万円スーツじゃなくて、きちんとテーラーメイドのスーツしか着ないし。まぁ社長だからね、そこは当たり前か」

「……岸本さんは格の違いに気圧されての『怖い』なのか?」

「いやいや、それもあるけど、今言った通りにとにかく本当に怖いんだよ。薄い色つき眼鏡の奥から突き刺すような目で睨まれると、こっちは蛇に睨まれたカエルの気分になる」

 どうやら、実体験のようだ。
 零は、探りを入れる。

「手段を択ばないって言ってたよね? 岸本さんは、御堂社長に睨まれるような事があったの?」

 すると岸本は、隠しておくことでもないと思ったのか、正直に話した。

「ああ、実はそうなんだ。以前、ウチのタレントがあの事務所のグラドルと揉めてね。一度、話し合いに立ち会った時があるんだよ。ジュピタープロの系列で、エンジェル企画って会社があるんだけど、あの社長どっちも代表を兼任しているんだ。で、初めてご対面した時に震えあがったワケだ」

「震え上がった?」

「うん。ハッキリ言って、カタギじゃないね。僕らはエンジェル企画の方のオフィスに通されたんだけど、季節が夏だったのが悪かった……シャツを腕まくりしたり、ノーネクタイで上の釦を外したラフな格好のスタッフがいたんだけど、チラチラと見えちゃうわけよ、もんもんってやつが。御堂社長はどうだか知らないけど、そんな恐ろしいスタッフがいる事務所、どう考えても普通じゃないだろう? 話し合いでは、別に向こうからは恫喝されたわけじゃないけど、ただただ怖くてこっちは言われるままに頭を下げるしかなかったね。下手に逆らったら何をされるか。あそこは、やっぱり反社と繋がっているとしか思えないよ」

 どうやら、美央の姉情報は正しいようだ。
 しかし、本当にそうなのか? 

「でも、昔はどうだったか知らないですが、現在も反社と繋がりがあるなんて考え過ぎじゃないですか? ジュピタープロダクション、業界じゃあ中堅の老舗じゃないですか。メジャーな芸能事務所が、今でもそんな――」

「それがねぇ……あそこの芸能事務所は元々天黄会っていう地回りが、明治期に、天黄興行って名前で興した会社だからさ。昭和に入って社名をジュピタープロダクションに替えて、表向きは健全な芸能事務所って事にはなってるけどさ」

 だが、看板を替えただけで中身は変わってないだろうと岸本は言う。

「いざトラブルとなると、今でもソチラの方々が係わってきそうで本当に怖いんだよ。誰も家に火なんて点けられたくないでしょ? でも、芸能プロとしては列記とした老舗だから、芸能界ではそれなりに力が強い」

 美央も同じ事を言っていた。
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