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零ならずとも、いつまでもそんな悠長なことを言っている場合ではないと思うのだが。
だが、いずれにせよ、タレントを在籍させたままロクに営業まで面倒を見ない事務所も多い中、ジュビタープロはずいぶんユウの為に熱心に動いているのは間違いない。
七虹プロから移籍したはいいものの、ジュピタープロが、美央が言っていたように曰くつきの芸能プロダクションだったらどうしようと気を揉んでいた零としては、まずまず安心できた。
しかし、自社の役者を交替とはいささか強引ではある。
何はともあれ、ユウの復帰に積極的に取り組んでいることは喜ぶべきか。
(本当によかった……正式にマネージャーも付いているようだし。美央がAVもあるなんて言っていたから、すごく心配してたんだ。もしそれが本当だったら、ウチの社長に直談判してライジング・プロを紹介しようと思っていたけど、これなら大丈夫そうだな)
まぁ、突然役者をクビにするなんて、あまり褒められたもんじゃないけど。
苦笑いをすると、次に、ユウの傍に立つ黒づくめの男を見遣る。
180近い零より、男はさらに十センチばかり身長が高い。
年齢はまだ若く、三十代前半のようだ。ヒョロリとほっそりして見えるが、よく観察すると、意外と胸板が厚いのが分かった。全身にみっしりとした筋肉が付いていそうだ。
マネージャーというよりも、要人のボディガードといった方がしっくりくる。
そのマネージャーとユウは、小声で言い争いを続けていた。
「さぁ、あなた自慢の歌声を少し披露するだけですからっ」
「真壁さん、でも……」
「社長の命令は絶対です。それに、言わせて頂きますが――わざわざユウさんのために役を空けさせたんですから、それに応えないと社長の顔に泥を塗ることになるんじゃないですか?」
「……」
「第一、普通ならプロの役者である山内をあてがうところに、ユウさんを抜擢するんですから。もっとあなた自身が積極的になって、社長の期待に応えるよう頑張らないと。これを拒否するのなら、幾らなんでもちょっと我儘が過ぎますよ」
「我儘……か……」
「そうです。ユウさんが社長の大切な方だとしても、これは譲れません。私も、社長の秘書という本来の仕事を離れて、直接あなたのマネージャーをしているのだし。社長の指示には従ってもらわないと」
――――大切な方?
その言い回しに、聞き耳を立てていた零はピクリと反応した。
二人は、それからもしばらく押し問答をしていたが、とうとうユウはマネージャーに押し切られたようだ。
一つ嘆息すると、大人しく撮影現場へ入っていった。
しばらくして、ギターの音と高音の美しい声が響く。
それにうっとりしながらも、零は強張った顔で真壁というマネージャーを凝視していた。
だが、いずれにせよ、タレントを在籍させたままロクに営業まで面倒を見ない事務所も多い中、ジュビタープロはずいぶんユウの為に熱心に動いているのは間違いない。
七虹プロから移籍したはいいものの、ジュピタープロが、美央が言っていたように曰くつきの芸能プロダクションだったらどうしようと気を揉んでいた零としては、まずまず安心できた。
しかし、自社の役者を交替とはいささか強引ではある。
何はともあれ、ユウの復帰に積極的に取り組んでいることは喜ぶべきか。
(本当によかった……正式にマネージャーも付いているようだし。美央がAVもあるなんて言っていたから、すごく心配してたんだ。もしそれが本当だったら、ウチの社長に直談判してライジング・プロを紹介しようと思っていたけど、これなら大丈夫そうだな)
まぁ、突然役者をクビにするなんて、あまり褒められたもんじゃないけど。
苦笑いをすると、次に、ユウの傍に立つ黒づくめの男を見遣る。
180近い零より、男はさらに十センチばかり身長が高い。
年齢はまだ若く、三十代前半のようだ。ヒョロリとほっそりして見えるが、よく観察すると、意外と胸板が厚いのが分かった。全身にみっしりとした筋肉が付いていそうだ。
マネージャーというよりも、要人のボディガードといった方がしっくりくる。
そのマネージャーとユウは、小声で言い争いを続けていた。
「さぁ、あなた自慢の歌声を少し披露するだけですからっ」
「真壁さん、でも……」
「社長の命令は絶対です。それに、言わせて頂きますが――わざわざユウさんのために役を空けさせたんですから、それに応えないと社長の顔に泥を塗ることになるんじゃないですか?」
「……」
「第一、普通ならプロの役者である山内をあてがうところに、ユウさんを抜擢するんですから。もっとあなた自身が積極的になって、社長の期待に応えるよう頑張らないと。これを拒否するのなら、幾らなんでもちょっと我儘が過ぎますよ」
「我儘……か……」
「そうです。ユウさんが社長の大切な方だとしても、これは譲れません。私も、社長の秘書という本来の仕事を離れて、直接あなたのマネージャーをしているのだし。社長の指示には従ってもらわないと」
――――大切な方?
その言い回しに、聞き耳を立てていた零はピクリと反応した。
二人は、それからもしばらく押し問答をしていたが、とうとうユウはマネージャーに押し切られたようだ。
一つ嘆息すると、大人しく撮影現場へ入っていった。
しばらくして、ギターの音と高音の美しい声が響く。
それにうっとりしながらも、零は強張った顔で真壁というマネージャーを凝視していた。
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