ヒネクレモノ

亜衣藍

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 家具も家電も量販店でセール品を買い、輸入家具のような高価な代物は一切ない。

 だだっ広いだけの、1LDKの味気ない一人暮らしの部屋の唯一のこだわりは、カネをかけてリフォームした防音設備くらいだろう。

 ユウのマンションは、スタジオ同等の完全防音だ。
 ユウはこの自分だけの城で、ギターを弾きながら、ずっと独りで歌っていた。
 十五年、毎日、誰に聞かせるでもなく歌っていた。
 それだけが唯一の、ユウの生きている証であったから。

「……今更、一般人には戻れないだろうな……」

 歌うためだけに、全てを捨てて故郷を後にして、芸能界で生きて来たのだ。

 そうなると、やはり引退はナシだ。
 ならば移籍か、独立か?

 しかし、自分ひとりでマネージメントをするとなると、現実問題として難しい。

 誰か一緒に……となると、長年世話になっている笹山マネージャーと共に個人事務所を立ち上げるか? 

「いやいや、それこそ無理だ。七虹プロダクションにとって、笹山さんは必要だ。オレに付き合わせるわけにいかないし……第一、誘っても首を縦に振るわけがない」

 落ち目の歌手が誘う泥船になど、誰が一緒に乗ろうとするものか。

「そうなると移籍、か……」

 ユウは疲れた様子で、冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、ゴクリと飲み込んだ。
 冷蔵庫には、強い酒類は一切ない。
 タバコも当然吸わない。
 加湿器は二十四時間稼働しているし、寝るときは必ずマスクをする。
 睡眠時間もしっかり守る。ボイストレーニングも決してサボらない。

 全て、喉の為だ。

 歌手という職業を大切にしているユウは、喉と声の維持の為にストイックに生活していた。
 しかし、それ故に、こういった事態になった時に頼れるツテというものも作れなかったのは、大いなる痛手なのは間違いない。

「オレの方から移籍すると、もし切り出したら……」

 七虹プロは、オレを引き留めないだろうか。

「おいおい、そんな都合のいい展開は流石に無理だろう」

 もしかしたら――なんて。
 そんな事を考えてどうする?

 ユウは、引き留めてくれるのを期待しそうになる自分の弱い心に、心底嫌気が差した。

〈トゥルル・トゥルルー〉

 呼び出し音に、ユウはバックから携帯電話を取り出す。
 電話の相手は、笹山マネージャーからだった。

「はい」

『あ、ユウ! 本当に一人で電車で帰ったのか? 君は一応芸能人なんだから、タクシーくらい乗らないと危ないじゃないか』
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