ヒネクレモノ

亜衣藍

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「オレ……やっぱり、あの人の歌は凄いって、改めて実感しちゃって……」

「えぇ?」

「あのハイトーンの声、ファルセット? あの曲がヒットしたのはもう十年以上前なのに、全然声が衰えてないのにはビックリだった。初めて聴いた時、女の人が歌っていると思った程の、あの綺麗な高音が今でも出せるなんて……やっぱり、凄いよ」

「ああ、ユキヒトヒラか。確かに、噂に違わず綺麗な歌声だったな。アラサーでも腐っても鯛、歌手は歌手なんだな。まぁ、オレたちも、あの人の歌なんてナマで聴いたのはこれが初めてだったが……うん、本当に凄かった。ちょっと、ワンフレーズだけというのは勿体なかったかもしれないな」

「だろう?」

「でもさぁ、仕方がないよ。『ゴーパラ』はそういう構成なんだもん。オレらが口出しできる立場でもないし。番組の構成にクレームを入れるなら、事務所を通してくれないと」

 美央のセリフに、不承不承零は頷く。

「うん――でも、さ……歌を聴いて鳥肌が立つなんて、初めてなんだ」

 三人とも、畠山ユウと同業だ。
 それだけに、彼の、歌手としての実力がどれだけのものか改めて分かってしまった。

――――ダンスとハーモニーがメインの自分達とは全然違う。

 彼は、生粋の歌手だった。

 あれだけ、歌手という仕事にこだわるのも頷ける程に。

 しかし、畠山ユウは、生来の人付き合いの悪さが祟って、他のアーティストとの交流が少ない。

 今どきのアイドルやバンドのゲストに呼ばれることも殆どないし、ユウ自身が頑なに仕事を選ぶことも敬遠されて、メディアに露出することもここ何年ほとんど無かった。

 十代の彼らアイドルにとっては、もはや前世紀の歌手になってしまう。
 その、畠山ユウの歌を、初めてちゃんと聞いた。
 わずかワンフレーズだけの旋律に、すっかり零は心を奪われてしまった。

――――もっと、ちゃんとフルで聴きたい。

 CDやプロモーションビデオでなら何度も聴いたが、やはり生の声の威力は凄い。
 ユウの歌声に感動さえ覚えて、零の心は震えた。
 それを聞き、明は肩をすくめる。

「物凄いベタ褒めだな。そんなに聴きたいなら、ネットで視聴すれば充分だろう? 今は、ライブ映像でも何でも上がっているじゃないか」

「いいや! オレ、絶対に生歌が聴きたい。ユウさん、予定ないのかな?」

 頬を紅潮させて言う零に、明は困惑する。

「……なんだ、ずいぶんと入れ込んだな。そういえば、お前は最初から畠山ユウのファンだと言ってたな」

「畠山ユウのチケだったらさ、岸本マネに聞けば分かるんじゃない? それより、打ち上げの場所押さえてるんだから、早く反省会してパパっと終わらせて移動しようってば!」

 美央の言葉に、零は後ろ髪を引かれる思いで踵を返した。
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