ヒネクレモノ

亜衣藍

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「う……」

 言葉を詰まらせる元木の横で、美央が嘆息した。

「あ~あ。オレ、アラサーのおっさんじゃなくて巨乳ちゃんが良かったな……」

 美央の本音に、その場にいた全員が毒気を抜かれてプッと吹き出す。

「……まぁ、他は、新人のクルミちゃんが出演するのは変更無しだから、そこは勘弁してよ。それじゃあ、大体はいつも通りの流れでいくんで……アドリブもどんどん入れてオッケーだから、楽しく盛り上げてちょうだいよ。畠山ユウがチョンボしたら、こっちも判断して上手く編集するから。あ、それから今回の収録の件は、まだ漏らさないようスタッフに念押ししてるけど、君らも外部に漏らしちゃ絶対ダメだからね。そこは全員、お口にチャックで頼むよ」

(外部に漏らしたらダメだって?)

 何故だろうと訝しむ零であったが、口を挟む隙も無く、元木は手を差し出す。

「とにかく、生放送ってわけじゃないし。収録だから安心してよ」

 元木プロデューサーはTriangleメンバーと調子よく握手を交わすと、忙しそうな様子で退出した。

 それを見遣り、零は溜め息をもらす。

「マイルド女子倶楽部は、インフルか……じゃあユウさんの出演、本当に突然決まったんだな。多分これ、ユウさん本人も直前まで知らなかったパターンっぽいですね」

「ちょっと、岸本さんー」

 美央、零、明の非難するような視線を受け、岸本マネは肩をすくめた。

「ボクも事務所が違うからよくは知らないけど、最近は七虹プロの笹山マネが必死になって畠山ユウの営業を掛けているらしいよ。畠山ユウは生粋の歌手で、歌以外の露出は本当に今まで無かったんだけど――」

「念のために訊いておきますが、これまで畠山ユウが出た歌番って、ガチのヤツだけですか?」

「うん。歌以外にトークが入るような演出なら、最初から全て断っていたらしい」

「マジで!?」

 今時、そんな大昔の昭和の歌手みたいなシンガーがいたとは驚きだ。

 驚く三人に向かい、岸本は自分の知る畠山ユウの情報を口にした。

「畠山は、今までバラエティどころか、映画やドラマ、それにCMのオファーもことごとく断っていたんだ。七虹プロも当時から必死になって畠山を売り出そうと、あれやこれやと手を尽くしたらしいが、本人が決して首を縦に振らなかったらしい。あの綺麗なルックスを宣伝材料にしようと、ファンの間で呼ばれていた『雪姫』という愛称を世間に広めようとしたが、その時も本人がとにかく嫌がって相当揉めたと聞いたことがある」

 歌で真剣勝負していると自負していたのに、勝手にヘンな名前を付けてイロモノのように売り出すのは気分が悪いという事か?

 その気持ちは分からんでもない。

 零達三人も、事務所から妙なキャッチフレーズを付けられた事があったので、そこは同情はするが。

 しかし、人気商売とは元々そういうものではないのか?
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