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「はいはい、ユウの言いたいことは分かるよ。CDジャケットのパターンを幾つも変えて全種買いを誘導したり、握手券だのハグだの、特典満載でチートしたって言いたいのだろう? でも、彼らは努力しているぞ。ユウよりずっと!」
「そんなのは邪道だろう」
「彼らは、笑顔で握手、それを何時間も続けるんだぞ? そうとうな忍耐力だ。それだけで僕は脱帽するけどね」
「……」
「ユウは昔の、それこそ昭和の歌手を目指しているのか? 決して手の届かない星のような、ファンに一方的に無償の愛を求めるような、そんなスターを」
「……そうじゃない、そういうワケじゃないんだ。笹山さん、昔オレをスカウトした時を忘れたか?」
「君は、路上で一人で歌っていたよね」
ユウの悄然とした声に、笹山マネージャーは優しい口調に戻った。
「高架下の路上で、赤ぎれの指でギターを弾きながら、足を止めて聴いてくれた僅か二人の観客の為に、天使の声を響かせていた。僕はそんな君に一目惚れして、スカウトした。あの時の君は、歌うのが本当に楽しそうで……それなのに、これは久しぶりの地上波の歌番組だというのに、どうしてこの仕事を嫌がるんだ?」
「オレは、こんなバラエティじゃなくて、本当に歌を聴いてもらえる仕事がしたいだけなんだ!」
そう言うと、ユウは今度こそ立ち上がり、笹山マネージャーに背を向けた。
「――――でも、一応この仕事は受けるよ。あんたの顔もあるだろうしね。それに、落ち目だってのは、オレだって充分解っているんだ。でもさ、あんたはオレの気持ちを知っていると思っていたから……ガッカリしたよ」
「ユウ……」
やり場のない怒りを滲ませながら去って行く、かつてのトップ・スターを、笹山は困り果てたような眼差しで見送った。
「そんなのは邪道だろう」
「彼らは、笑顔で握手、それを何時間も続けるんだぞ? そうとうな忍耐力だ。それだけで僕は脱帽するけどね」
「……」
「ユウは昔の、それこそ昭和の歌手を目指しているのか? 決して手の届かない星のような、ファンに一方的に無償の愛を求めるような、そんなスターを」
「……そうじゃない、そういうワケじゃないんだ。笹山さん、昔オレをスカウトした時を忘れたか?」
「君は、路上で一人で歌っていたよね」
ユウの悄然とした声に、笹山マネージャーは優しい口調に戻った。
「高架下の路上で、赤ぎれの指でギターを弾きながら、足を止めて聴いてくれた僅か二人の観客の為に、天使の声を響かせていた。僕はそんな君に一目惚れして、スカウトした。あの時の君は、歌うのが本当に楽しそうで……それなのに、これは久しぶりの地上波の歌番組だというのに、どうしてこの仕事を嫌がるんだ?」
「オレは、こんなバラエティじゃなくて、本当に歌を聴いてもらえる仕事がしたいだけなんだ!」
そう言うと、ユウは今度こそ立ち上がり、笹山マネージャーに背を向けた。
「――――でも、一応この仕事は受けるよ。あんたの顔もあるだろうしね。それに、落ち目だってのは、オレだって充分解っているんだ。でもさ、あんたはオレの気持ちを知っていると思っていたから……ガッカリしたよ」
「ユウ……」
やり場のない怒りを滲ませながら去って行く、かつてのトップ・スターを、笹山は困り果てたような眼差しで見送った。
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