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しおりを挟む「ユウは、自分の立場って理解している?」
「……」
マネージャーの詰問に、ユウと呼ばれた青年は憮然とした。
「……笹山さんに言われなくても、それくらい知ってますよ。オレだってこの業界長いんですから」
「それならさぁ~どうしてこの仕事を嫌がるの? 君の希望していた歌系の仕事だよ? 今どき歌番組なんて貴重なんだよ?」
「でも、これってメインはMCのジャリタレじゃないですか。歌なんて下手のクセに、いっぱしにオレと共演なんて生意気でしょ。それに、この内容じゃ……」
そう、この青年、畠山ユウはかつて新人賞や有線大賞も獲ったことがあるれっきとした歌手なのだ。
実力は折り紙付き、今なお歌唱力はそこらの連中とは段違いだ……と、本人は自負している。
高音のファルセットは天使の声だと、有名なセンセイに讃えられた事もある。
もちろん過去には、ダブルミリオンだって達成したこともある。
JRのCMソングに起用され、その年は紅白にも出場した。
誰もが一目置く、キャリアも長い実力派の歌手のハズなのに、それがどうして十代のジャリタレと共演し、しかもお笑い芸人のようなマネをできようか!
ユウは、そんな不満を込めて眼前のマネージャーを睨む。
「笹山さん、オレはいつも言っているじゃないか。もっと考えて仕事を持ってきてよ。せめて、フェスのゲストとか。それが、どうしてこんな……歌番組っていうより、ほとんどバラエティじゃないか? 第一、今日台本渡されて、収録も当日って急過ぎるじゃないですか?」
渡された台本を手に、ブツブツと文句を言うユウに、有能なマネージャーは冷酷な一言を投げかけた。
「君さ、自分が、アラサーだってこと理解している?」
「……」
「向こうはぴちぴちのアイドル。若いってだけで、十分将来性のある物件なの。それに比べ、ユウはどう? 三十の歌手が、いつまでも我儘言えると思っているの?」
耳に痛いことを言ってくれる。
ユウは、また憮然と押し黙った。
確かに、歌番組が激減している昨今、これは大変に貴重な仕事だ。
マネージャーの持ってきたこの仕事は、時間帯はゴールデンではないものの、そこそこ数字の取れている深夜帯の歌番組なのである。
――――しかし、ユウは気分が乗らない。
なぜなら、その歌番組の内容は、純粋に曲を歌えばいいというモノではなく、ビートルズも知らないような若いアイドルが司会をする中、なぜか無茶振りされるお題をクリアしながらタイムを稼ぎ、その稼いだ時間分、持ち歌を歌えるという内容だからだ。
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