74 / 83
7-15
しおりを挟む
八王子で、あまりいい雰囲気ではない嫌な別れ方をしてから、一週間が経っていた。
頭を下げる浅田の前に座りながら、尾上は無表情のまま、デスクの上へタブレットを広げる。
「本日は編集部までご足労頂きありがとうございます。早速ですが、先生が先日おっしゃっていたデザインの件に関しての代案を用意しました。リリ・タケというブランドですが……」
そう言い、ぱっぱっと画面を検索する尾上であるが、浅田はめげずに謝罪の言葉を口にする。
「正直に言うよ。せめて応援したくて、君のブランドの名前をオレの漫画で使いたいと思ったんだ。まさか本人が、文夏社の編集部にいたとは、本当に最初は知らなかったんだ」
てっきり、尾上はデザイナーO,Nとして、華々しくはないが、それなりにやっているんだろうと思っていた浅田だ。
だから『尾上』という名の新人編集者を、顔合わせに八王子に連れて行くと甲斐から連絡を受けた時は、“まさか”という気分だった。
そうして、いざ本人を目の前にしてすっかり動揺した浅田は、咄嗟に“平良”の仮面を被って対応してしまった。
我ながらなんという臆病な男だと、今は猛烈に後悔している。
「……もちろん、何をしても過去の清算になる訳じゃないという事は知っているが……」
『シザービラ』は、自分に対しての皮肉のつもりで付けたタイトルだった。
今でこそ漫画家として生活できているが、ここに至るまでは浮浪者のような有様だった浅田だ。
当時、家を出たはいいが浅田には行く先もなく、知り合いの家に転がり込んではそこもまた追い出され。日雇いの仕事をしながら、その日暮らしのネカフェ難民のような状態だった。
だが、どうにかアシスタントとして、週刊連載で忙しかった漫画家の家へ住み込むことに成功し、そこからやっとまともに生活して行けるようになった。
とにかく、スタートの遅かった浅田はその分、プロを目指して毎日をガムシャラに頑張った。
いつか尾上の元を訪れて謝罪するのだと心に誓いながら、ズルズルと後回しにして、ずっと漫画を描いていた。
だが、自分の描きたい内容は今の出版社では描けないと限界を感じた浅田は、文夏社に誘われたことも重なり移籍を決断した。
頭を下げる浅田の前に座りながら、尾上は無表情のまま、デスクの上へタブレットを広げる。
「本日は編集部までご足労頂きありがとうございます。早速ですが、先生が先日おっしゃっていたデザインの件に関しての代案を用意しました。リリ・タケというブランドですが……」
そう言い、ぱっぱっと画面を検索する尾上であるが、浅田はめげずに謝罪の言葉を口にする。
「正直に言うよ。せめて応援したくて、君のブランドの名前をオレの漫画で使いたいと思ったんだ。まさか本人が、文夏社の編集部にいたとは、本当に最初は知らなかったんだ」
てっきり、尾上はデザイナーO,Nとして、華々しくはないが、それなりにやっているんだろうと思っていた浅田だ。
だから『尾上』という名の新人編集者を、顔合わせに八王子に連れて行くと甲斐から連絡を受けた時は、“まさか”という気分だった。
そうして、いざ本人を目の前にしてすっかり動揺した浅田は、咄嗟に“平良”の仮面を被って対応してしまった。
我ながらなんという臆病な男だと、今は猛烈に後悔している。
「……もちろん、何をしても過去の清算になる訳じゃないという事は知っているが……」
『シザービラ』は、自分に対しての皮肉のつもりで付けたタイトルだった。
今でこそ漫画家として生活できているが、ここに至るまでは浮浪者のような有様だった浅田だ。
当時、家を出たはいいが浅田には行く先もなく、知り合いの家に転がり込んではそこもまた追い出され。日雇いの仕事をしながら、その日暮らしのネカフェ難民のような状態だった。
だが、どうにかアシスタントとして、週刊連載で忙しかった漫画家の家へ住み込むことに成功し、そこからやっとまともに生活して行けるようになった。
とにかく、スタートの遅かった浅田はその分、プロを目指して毎日をガムシャラに頑張った。
いつか尾上の元を訪れて謝罪するのだと心に誓いながら、ズルズルと後回しにして、ずっと漫画を描いていた。
だが、自分の描きたい内容は今の出版社では描けないと限界を感じた浅田は、文夏社に誘われたことも重なり移籍を決断した。
11
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺(紗子)
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる