今日くらい泣けばいい。

4-5

　その後ろには、これまた公家のように気品のある綺麗な青年が立っている。
　全く違うタイプの美形二人に、尾上はどちらからも目が離せず陶然となった。
　だが、すぐにハッと我に返る。

（うわ……ヤバいな。あまり見ていたら不審に思われるぞ）

　己の性癖を晒して恥をかくのは、一度でたくさんだ。
　尾上は、自身が男しか愛せない同性愛者であることを悟られぬよう、慌てて視線を逸らせた。

　しかし、ふと気づく。
　そもそもここは、BL編集部だ。

　ならば、別に男が好きだろうと何だろうと、ここではそれほど奇異の目で見られることは無いのではなかろうかと。

（これ以上ビクビクして過ごすのは嫌だし、いっそのこと、勇気を出してカミングアウトするか？　だが、昨日の今日でいきなりそんな宣言をされても、絶対みんな困るよな）

　そんな事を考えていたら、件くだんの美形二人がこっちに気付いて声を上げた。

「おーい、中河、岸さん！　聞いてくれよ！　この石頭がまた無茶苦茶なことを言い出して参ってんだよ！」

「誰が石頭だ。僕はマサルの気持ちを代弁しているだけだ。テツヤは無神経にもマサルに対して暴言を吐いたんだぞ？　なのに、『仲直りセックス』で解決だと、どの口が言ってるんだ！」

「お前、漫画はページ数も決まってるんだぞ!?　一言一句小説のセリフを入れるなんて無理だし、ストーリー展開も考えてくれよ！」

「マサルはそれが嫌だと言ってるんだ!!」

　美形二人で何やら激しく言い合っているが、尾上には何が何だか分からない。
　だが、この二人が何者であるかは察した。
　岸に視線を送ると、それを肯定するように小さく頷き返される。

「右のスレンダーな方が右近涼真先生、左の長身の方が左文字先生だ。――先生方、今日はご足労頂きありがとうございます。ついでに、新人を紹介させてください。これからQuartzでファッション特集を担当する事になった尾上です」

　岸に促され、尾上は深々と頭を下げる。