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すると平良は、おもむろに語り出した。
「オレが匡平にイメージしたのは、濃紺一色のシャツだ。とてもシンプルだけどよく見ると繊細な作りをしている服で……そうそう、袖とか襟とか、そんな場所に黒糸で細かい刺繍のラインが入ってるって、ここのシーンでも描いてたな」
そう言いながら差し出された原稿には、確かにそれらしき絵が描かれてあった。
それを視界に収めた一瞬、尾上の顔に緊張が走った。
だが、彼は直ぐに顔を伏せたので、平良と甲斐の二人は尾上の顔色に気付かない。
尾上はタブレットを操作し、淡々と口を動かした。
「カフスと剣ぼろ、スリットですね。前立ても?」
「オレはそこまで詳しい名前は知らないけど……」
「いいです、分かりましたから」
そこで言葉を切ると、尾上は顔を上げた。
感情を失ったような、そんな能面のような顔で一言告げる。
「該当するデザインの服は、現在作られていません。この匡平というキャラクターの服飾は全て架空であると素直に発表すべきでしょうね」
「おいおい、そんなマジに考えるなって。ちょっと似ているようなので良いんだからよ」
「無いものはないです」
「あのな、何のためにお前を連れてきたと思ってるんだよ」
「お力になれず残念です」
無下にあしらう尾上に、平良がぽつりと言った。
「一度だけだけど、セレクトショップで売られているのを見たことがある。見た目は地味でシンプルなのに、近くで見ると繊細な刺繍が入っていることに気付いた。その時は収入が不安定だったから買えなかったが……」
「ファッションは常に入れ替えがありますからね。買い手のつかないシャツなんて、セレクトショップでも半月と置いてないでしょう」
尾上はそう言うと、話はこれで終わりとばかりにイスから立ち上がった。
この態度に、甲斐が不愉快そうに舌打ちをする。
「あのな。平良先生は『見たことがある』って言ってるんだ。お前の知っている範囲でいいから、答える努力をしろよ」
「……デザイナーはO,Nという人物でしょう。しかし、もうそのデザイナーはこの世にいません」
「オレが匡平にイメージしたのは、濃紺一色のシャツだ。とてもシンプルだけどよく見ると繊細な作りをしている服で……そうそう、袖とか襟とか、そんな場所に黒糸で細かい刺繍のラインが入ってるって、ここのシーンでも描いてたな」
そう言いながら差し出された原稿には、確かにそれらしき絵が描かれてあった。
それを視界に収めた一瞬、尾上の顔に緊張が走った。
だが、彼は直ぐに顔を伏せたので、平良と甲斐の二人は尾上の顔色に気付かない。
尾上はタブレットを操作し、淡々と口を動かした。
「カフスと剣ぼろ、スリットですね。前立ても?」
「オレはそこまで詳しい名前は知らないけど……」
「いいです、分かりましたから」
そこで言葉を切ると、尾上は顔を上げた。
感情を失ったような、そんな能面のような顔で一言告げる。
「該当するデザインの服は、現在作られていません。この匡平というキャラクターの服飾は全て架空であると素直に発表すべきでしょうね」
「おいおい、そんなマジに考えるなって。ちょっと似ているようなので良いんだからよ」
「無いものはないです」
「あのな、何のためにお前を連れてきたと思ってるんだよ」
「お力になれず残念です」
無下にあしらう尾上に、平良がぽつりと言った。
「一度だけだけど、セレクトショップで売られているのを見たことがある。見た目は地味でシンプルなのに、近くで見ると繊細な刺繍が入っていることに気付いた。その時は収入が不安定だったから買えなかったが……」
「ファッションは常に入れ替えがありますからね。買い手のつかないシャツなんて、セレクトショップでも半月と置いてないでしょう」
尾上はそう言うと、話はこれで終わりとばかりにイスから立ち上がった。
この態度に、甲斐が不愉快そうに舌打ちをする。
「あのな。平良先生は『見たことがある』って言ってるんだ。お前の知っている範囲でいいから、答える努力をしろよ」
「……デザイナーはO,Nという人物でしょう。しかし、もうそのデザイナーはこの世にいません」
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