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All for lovers

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「とにかく、今すぐに取り次いでもらいたい! 」

 采はそう言うと、平身低頭で謝罪を繰り返す侍従の肩に手を置き、ガクガクと揺さぶった。

 その剣幕に腰の引けた侍従に替わり、今度は巌のような顔をしたSPが、堅牢な壁のように采の前に立ち塞がる。

「ミスター。どうかお下がりください」

「だから、お前達の主人をここに連れて来いと言っているんだ! 」

「主人は只今外出しております」

「では、達実だけでも返してもらおうか」

「主人は、タツミさまと一緒に外出しております」

「――――行き先は!? 」

「私はそれを告げる立場にありません」

 始終、この通りだ。

 埒が明かないと思った采は、後ろに控えていた弁護士に一つ頷くと、強引に前に出る。


「結城達実はオレの弟であり、まだ未成年の子供だ! 日本の法律にのっとって、ヤツを保護する権利がオレには有る。邪魔をするなら警察に通報するまでだ」

 そう言われては、強引に排除する事も出来ない。

 侍従とSPは采にどう接したらいいのか計りかねて、困惑する。

 すると、

「どうした、何の騒ぎだ? 」

 と、彼等の主人が姿を現した。

「アレン様! あの、……」

 誰も通すなと言われていた侍従は激しく動揺するが、アレンの方は、采の姿を見ると『フッ』と笑った。

「――ああ、そろそろ来る頃だと思っていたよ」

「貴様に話がある。今日は弁護士にも同伴してもらった」

 采が連れてきた弁護士は、海外の法律に明るい国際弁護士だ。

 達実の『番』としての権利を護ろうと、采が苦心して捜した弁護士である。

 何といっても、達実はアルファだ。

 オメガのように、子を身籠る可能性は0である。

 アレンがそれを理由に、愛人や妻を外に作って、達実を悲しませるような事態になっては大変だ。

 そんな事は、何としても避けたい。

 達実を大切に思う者としては、断じて認める訳にはいかない。

 采はキッと眦を吊り上げると、強い口調で告げる。

「……今回の件で、書類を制作してきた。まずは、こちらに目を通してもらいたい」

 そう言い、采はブリーフケースから用意してきた書類を取り出そうとするが、それより先にアレンが口を開いた。

「あなたの考えは察している。大方、タツミの『番』としても地位を保証するよう、私文書でも制作してきたのだろう? 」

「――そうか、予期していたか。だったら話は早い」

 そう言いながら、采は書類を差し出す。

「これは、アメリカ側の法律に照らし合わせて制作したものだ。ここに書いてある項目に違反した場合は、即刻賠償責任が発生する。看過できないと判断した場合は、達実とも即離縁していただく。内容を確認して、サインしてもらおう」

「ふ……ん? 」

 アレンは軽く鼻で笑うと、采の差し出した書類を無視して踵を返した。

「これは、こんなエントランスで立って話す内容ではないな。こちらのゲストルームへ来て頂きたい」

「――分かった」

 采は弁護士と頷き合うと、その後ろに従った。
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