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Tender criminal

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「それを言うなら、オレだって――――オレだって、そうだよ……」

 策を弄してまで、采の『番』になろうとしていた。

 それは、将来や世間体を考えての打算ではなく、本当に采の事が好きになってしまったからだ。

 だが、こんなに愛しているのに、采の心の中には自分の存在は希薄だ。

 眩いばかりに美しい大輪の薔薇。

 あの綺麗な結城達実が、ずっと采の心を支配しているから。

――――正直に言うなら、林檎は達実の存在が邪魔だ。

 ライバルどころか、敵だと感じている。

 心底、達実に消えて欲しいと思う。

 だから、この尊大な態度のアレンという外人が、達実をそのまま外国へ攫ってしまえばいいと思っていた。

 しかし……。

「采は――あんたが、これから達実だけを愛してくれるのか心配していたよ。他に愛人を囲わないかとか、番を作るんじゃないかとか……そんな事ばかり心配している。オレを番にするって言ったクセに、オレのことなんか全然眼中にない」

 林檎に対して、そんなぞんざいな扱いをするなど以ての外だ。

 しかしそれを恨むでもなく、ただ寂しそうに言う林檎を見遣り、アレンはポツリと訊く。

「――――憎くはないのか? 」

「憎い? 」

 その質問に、林檎は苦笑を浮かべる。

「憎いより、悲しいよね。オレの想いは、どうしたって采には届かないってことを思い知ったからな」

『憎いより、悲しい』

 その言葉に、アレンはギュッと胸が締め付けられた。

「――――そうだな。……それは、よく分かる気がする」

「? 意外だな。あんたみたいなセレブは、そういう一般人の感覚なんて知らないと思ってた」

…………そうだ、つい最近まで知らなかった。

 アレン・シン・アウラと聞けば、誰もが畏怖と尊敬の眼差しを向ける。

 または、下らない打算と嫉妬。

……そして、どぎついばかりの欲望を。

『獅子王』の異名を持つアレンのアルファとしての力は絶大で、皆が平伏した。

 そして、そのおこぼれ・・・・にあり付こうと、貧富も階級も種族も関係なく、どいつもこいつも尻尾を振って媚びて来る。


――――しかし、達実だけは違う。


 眩しいばかりに無垢ピュアな彼は、打算も何もなく、ただ真っ直ぐにアレンを正面から見る。

 彼の前では、百戦錬磨の筈のアレンが、どうしようもなくイノセントな少年のような有様に陥ってしまう。

――――身体さえ繋げれば、いずれは心も手に入れることが出来ると、アレンは簡単に考えていた。

 実際、先日は言葉巧みに飲酒させ、酩酊させる事に成功し――――あと一歩のところまで行ったのだ。

 そして今度こそは……と、思っていた。

 だが、こうして達実を手中にしてしまうと、逆に手が出せなくなってしまっていた。

 憂い顔で、ポツンとカウチに座っている姿を見るだけで、アレンの心は引き絞られるようだ。


 どうか、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。

 いつものように、美しく艶やかな薔薇のように、華やかに微笑んでほしい。


 悄然とした達実を目の当たりにして、アレンは今、掛ける言葉も見つからないでいる。

 こんな萎れた状態の達実を口説こうとするなど、そんな愚かで浅ましい真似など出来ない。

(私は……自分が考えていた以上に、タツミのことが大切になっていたようだ)

 今までは、自分の意思を無理にでも押し通すことが、全ての優先順位のトップだったのに。
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