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Depressed rose
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じつを言うと、この質問をしたのはこれが初めてだった。
ずっと前から気になっていたのだが……訊いてはいけないタブーのような気がして。
――――この世界において、体外受精は今尚、成功例がない。
つまり奏と七海は、互いにオメガでありながらも実際に性交したことになる。
そして七海が“父”となり、奏が“母”となった。
「でも七海パパは、ダディの番だったんでしょう? それなのに、奏と……なんて」
『――――普通じゃないって思う? 』
「うん……」
『そうだね――この話を聞いた人は、たいてい何とも言えないような複雑な表情になっちゃうね。フフ、簡単な話なんだけど』
「簡単? 」
『そう、簡単な話なんだ。九条さんは七海先輩を本当に愛していたけれど、七海先輩はもう長く生きることが不可能な身体になっていた。迫って来る命の期限を遅らせることは、どうしてもできない状態だったんだよ。そして七海先輩は、番の片割れを失って生きることになる九条さんを本当に愛して――そして心配していた』
長い人生を、絶望に囚われながら無為に過ごすことは耐え難い地獄だろう。
ならば、どうにかして希望を残して逝きたい。
そう願った七海に、奏は提案したのだ。
自分達はオメガだ。
子を宿す奇跡を願って、自分と性交しようと。
『あのね、それは七海先輩と九条さんに、同情したっていうだけじゃないんだよ』
「え? 」
『僕も、七海先輩が大好きだったんだ。僕を助けて味方になってくれたのは、達実の言うアイツらじゃなくて、いつだって七海先輩だったしね。七海先輩は、僕にとって頼りになる憧れの人だった』
綺麗で聡明で、意志が強くて光り輝くような人だった。
こんな人になりたいと、奏が心から願うような。
『そんな憧れの先輩が、このままだと何も残さずに跡形も無くいなくなってしまう……そんな事は、僕は絶対に嫌だった。だって、本当に僕は七海先輩が大好きだったんだから』
七海と九条とは違う形で、七海と奏は強い絆で結ばれていた。
子を宿して出産する事は、並大抵のことではない。
それでも、七海の命を繋ぎたかった――――何としても!
『たとえ九条さんの存在がなくても、僕は七海先輩に……そうだね、誘惑していたと思うよ。どうか、この世にあなたの形見を残してくださいって』
「奏は、パパを――――愛してたんだね」
『そうだね。僕は、七海先輩を愛していたよ。そしてそれ以上に、大好きだった。だから、達実が産まれときは……本当に嬉しかった』
愛には、色々な形がある。
先程、奏の言っていた言葉を思い出して、達実はふぅと息をついた。
「……ねぇ、奏。どうして僕が考古学者になりたいって思ったか知ってる? 」
『? それは――映画の影響じゃなかったの? 』
「違うよ」
フッと笑い、達実は言う。
「それはね、愛の起源を知りたかったからさ」
『それは随分、ロマンチックな話だね』
達実の言葉をバカにすることなく、真面目な声音でコメントを返す奏に――――達実は、また微笑んだ。
ヴィラプトロサウルスという名の恐竜化石の話を聞いたのが、そもそも考古学に興味を持つ切っ掛けだった。
その恐竜は、円形に綺麗に並べた自分の卵の上へ、腕を広げて覆いかぶさるような格好のまま、卵と一緒に化石になって発見されたのだ。
今から8900~7000万年前もの恐竜が、自分の卵を護ろうとしていた?
どうして、化石になったのか?
砂嵐から護ろうとしたのか? 火山爆発から護ろうとしたのか?
翼のある恐竜だった事は、研究結果から判明している。
現在の鳥と同じだけの飛行能力があったかは定かではないが、それにしても、命の危機を感じる程の非常事態にありながら、その恐竜は――――飛んで逃げることも走って逃げることもせずに、ただ、自分の卵を護ろうと翼を広げて絶命したのだ。
そこに、達実は――――強力な意志と純粋な“愛”を感じた。
果たして愛とは、いったい何時から存在するのか?
ずっと前から気になっていたのだが……訊いてはいけないタブーのような気がして。
――――この世界において、体外受精は今尚、成功例がない。
つまり奏と七海は、互いにオメガでありながらも実際に性交したことになる。
そして七海が“父”となり、奏が“母”となった。
「でも七海パパは、ダディの番だったんでしょう? それなのに、奏と……なんて」
『――――普通じゃないって思う? 』
「うん……」
『そうだね――この話を聞いた人は、たいてい何とも言えないような複雑な表情になっちゃうね。フフ、簡単な話なんだけど』
「簡単? 」
『そう、簡単な話なんだ。九条さんは七海先輩を本当に愛していたけれど、七海先輩はもう長く生きることが不可能な身体になっていた。迫って来る命の期限を遅らせることは、どうしてもできない状態だったんだよ。そして七海先輩は、番の片割れを失って生きることになる九条さんを本当に愛して――そして心配していた』
長い人生を、絶望に囚われながら無為に過ごすことは耐え難い地獄だろう。
ならば、どうにかして希望を残して逝きたい。
そう願った七海に、奏は提案したのだ。
自分達はオメガだ。
子を宿す奇跡を願って、自分と性交しようと。
『あのね、それは七海先輩と九条さんに、同情したっていうだけじゃないんだよ』
「え? 」
『僕も、七海先輩が大好きだったんだ。僕を助けて味方になってくれたのは、達実の言うアイツらじゃなくて、いつだって七海先輩だったしね。七海先輩は、僕にとって頼りになる憧れの人だった』
綺麗で聡明で、意志が強くて光り輝くような人だった。
こんな人になりたいと、奏が心から願うような。
『そんな憧れの先輩が、このままだと何も残さずに跡形も無くいなくなってしまう……そんな事は、僕は絶対に嫌だった。だって、本当に僕は七海先輩が大好きだったんだから』
七海と九条とは違う形で、七海と奏は強い絆で結ばれていた。
子を宿して出産する事は、並大抵のことではない。
それでも、七海の命を繋ぎたかった――――何としても!
『たとえ九条さんの存在がなくても、僕は七海先輩に……そうだね、誘惑していたと思うよ。どうか、この世にあなたの形見を残してくださいって』
「奏は、パパを――――愛してたんだね」
『そうだね。僕は、七海先輩を愛していたよ。そしてそれ以上に、大好きだった。だから、達実が産まれときは……本当に嬉しかった』
愛には、色々な形がある。
先程、奏の言っていた言葉を思い出して、達実はふぅと息をついた。
「……ねぇ、奏。どうして僕が考古学者になりたいって思ったか知ってる? 」
『? それは――映画の影響じゃなかったの? 』
「違うよ」
フッと笑い、達実は言う。
「それはね、愛の起源を知りたかったからさ」
『それは随分、ロマンチックな話だね』
達実の言葉をバカにすることなく、真面目な声音でコメントを返す奏に――――達実は、また微笑んだ。
ヴィラプトロサウルスという名の恐竜化石の話を聞いたのが、そもそも考古学に興味を持つ切っ掛けだった。
その恐竜は、円形に綺麗に並べた自分の卵の上へ、腕を広げて覆いかぶさるような格好のまま、卵と一緒に化石になって発見されたのだ。
今から8900~7000万年前もの恐竜が、自分の卵を護ろうとしていた?
どうして、化石になったのか?
砂嵐から護ろうとしたのか? 火山爆発から護ろうとしたのか?
翼のある恐竜だった事は、研究結果から判明している。
現在の鳥と同じだけの飛行能力があったかは定かではないが、それにしても、命の危機を感じる程の非常事態にありながら、その恐竜は――――飛んで逃げることも走って逃げることもせずに、ただ、自分の卵を護ろうと翼を広げて絶命したのだ。
そこに、達実は――――強力な意志と純粋な“愛”を感じた。
果たして愛とは、いったい何時から存在するのか?
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