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Depressed rose

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(僕が、こんなに自分勝手なヤツだったなんて――――初めて気づいた)

 いつだって、スッキリと竹を割ったような性格の、硬派なタイプだと自分では思っていた。

 でも、その自分がこんなに――――グジグジと悩むことになるとは。

 恋とは、人を別人のように変えるらしい。

 アレンを選ぶべきだと分かっているのに、どうしても采の事が諦めきれない心。

 達実はこのことに、生きながら炎に炙られるような辛い思いを味わっている。
ずっと、その苦しみに煩悶していた。

(僕は――)

 と、その時。

――――プルルル、プルルル……という、着信音が鳴った。

 この音は、達実が唯一無二に愛する相手。

 そう、母である結城奏からの着信を伝える音だ。

 達実はすぐに、携帯電話を手に取った。

「奏!? 国際電話なんて、どうしたの? 」

『どうしたって……ふふ、おかしいことを言うね。こっちでの引き付き作業や新居の家具搬入が終わったから、電話をしたんじゃないか。達実が日本に行くときに、準備が完了したら連絡するって言っただろう? 』

「そ、そうだったね……」

『そっちは、どう? 皆と仲良くやってる? 』

 久しぶりに聴く優しい声に、達実の涙腺は緩んだ。

「奏――」

 ポロポロと涙をこぼしながら、達実はか細い声で言う。

「あのね、僕……今まで奏の事が一番好きで……それは今でも変わってないんだけど。奏を思うのとは違う、好きっていう感情がある事に気付いちゃって――」

『采の事かな? 』

「う……」

 奏の言葉に、達実は無言になって俯いてしまう。

 これは電話だ。思いは言葉にして伝えなければならない。

 でも、言葉にならない。

 そんな達実の状態を察しているのか、奏は柔らかい声で語り掛けた。

『恋には、色々な形があるんだよ、達実』



「奏……」

『初めて会った時から燃えるような恋に落ちる時もあれば、長年連れ添って初めてこれが恋だったんだと気付く事もある。達実は……きっと、気が付いたら恋に落ちてたんだろうね』

「うん――」

『オメガもアルファも、ベータだって関係ないよ。好きなものは好きなんだ。僕も、そうだった』

 奏はそう告げると、電話の向こうで『ふふふ』と微笑む。

『僕のボディーガードもいいけれど、そろそろ自分の事を考えなよ。達実はもう18なんだ。自分の恋と真剣に向き合ってもいい頃だよ』

「でも――奏は僕の一番大好きで、大切なオメガなんだ。僕が護らないと……」

『おや? それは嬉しいけれど。僕も、達実の知らない所で自分の恋愛はちゃんとしてるんだよ? 』

 意外なセリフに、達実は仰天する。

「え、えぇ!? 」

『知らなかっただろう? 』

「知らないよ! そんなの、いつの間に!? あっ! さてはアイツらか!! 」

『ははは、達実は本当にピュアで可愛いね』

「奏……」

『あのね、僕も達実が一番大好きで、大切なんだよ』

 そう言うと、奏は続けた。

『だから、僕は――――達実には、誰よりも一番幸せになってもらいたいんだ。後悔するような生き方は、選んでほしくないんだよ』

「後悔……」

『多分、達実のことだから、何度か自分の気持ちを打ち明けたんじゃないかな? 』

 奏の問い掛けに、達実は無言になる。

 それは、事実だから。

 確かに、達実は采に向かって、正面から正直に告白したのだ。
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