67 / 116
La Vie en rose
3
しおりを挟む
「――――どちらにせよ、九条のアルファである嫡出子が番を娶るとなったら、どんなに本人が拒否しようとも必ずオメガの妊娠経過は調べられるだろう。リンゴのウソが発覚するのは時間の問題なんだ」
「でも、それじゃあ采は……だまされて、あの場でOKした事になる。後で判る嘘なら、尚更ひどいじゃないか! すぐに采に教えてやらないとっ! 」
「彼は、リンゴのついたウソを承知で、首を縦に振ったのだと思うよ。私は、そう解釈した」
「う――嘘だ! 」
達実はそう言うと、激しく動揺した様子でパッと立ち上がった。
「采のヤツ、僕よりずっと年上のクセに抜けているところがあるから、あのオメガの言うことを言葉通りに受け取ってしまった可能性だって、あるじゃないか! 」
「タツミ……」
「僕、これからすぐに采のマンションに行ってくる! そうして、あのオメガの言っている事が全部ウソだって教えて来るよ! 」
「ウソ? 」
達実の言葉尻を捕らえて、アレンは問い掛ける。
「君は、リンゴの言っていたことが全てウソだというのか? 」
「だ、だって、妊娠したなんて嘘なんだろう? だったら、采がだまされてあいつの項を噛んでしまったら大変じゃないか! オメガの項なんか噛んだら、それこそ双方一生付き纏う問題になるんだ。僕の母親は、番の『血の盟約』による拒絶反応を防ぐ薬は開発したけれど――――まだ実用化までは漕ぎ着けてないし。だったら直ぐに行って、采が過ちを犯す前に教えてやらないと、大変なことになるんじゃないのか!? 」
息せき切ってそれだけ言うと、達実は直ぐに部屋を出て行こうとする。
だがその背中に、アレンの冷静な声が投げ掛けられた。
「だからミスター・サイは、君が日本を発ったタイミングで、改めてリンゴに番になろうと言ったのではないかな? 」
「え……」
「『今は色々と周囲も騒がしいから、あと二週間程経って少し落ち着いたら番になろう』と、サイは口にしていた。それはつまり、タツミが日本を出国したタイミングだろう? 」
それは、つまり――――達実というお邪魔虫が消えたら、その時こそ『番』になろうという事だ。
アレンのその指摘に、達実は顔色を無くす。
「そんな……」
「バカげた話だ、と――――思うかい? 」
「……」
無言になる達実に、アレンは諭すように言葉を掛ける。
「サイは、リンゴのウソを百も承知で、それでも妻に迎え入れて構わないと決断したのだろう。つまり彼は、リンゴに対してそれなりに愛情を持っているんだよ。番にしても良いという位はね」
「でも!! あいつの狙いは、九条の財産に決まっているじゃないか! 采は――」
すると、アレンは首を振った。
ジッと達実を見つめながら、アレンなりに林檎から感じ取った事を告げる。
「リンゴは、確かに大ウソつきだ。アルファに寄生する、よくいるタイプの性悪オメガだよ。しかし――――リンゴは一つだけ本当の事を言ったんだ」
「え……」
「『采を愛している』とね。それだけは、真実だろう」
「あ、愛……」
「そう、リンゴは本当にサイを愛しているんだ。運命の番ではないが……でも彼は、本気でサイを愛している」
そのセリフに、達実は凍り付いたように瞠目した。
――――それでは、采は林檎の嘘に踊らされたのではなく、リンゴの本当の気持ちを汲んで番になる事を承知したのか? 達実のことは、やはり愛してはいないのか――――?
林檎はオメガだ。それだけで、愛される理由は充分満たしている。
対して達実はアルファだ。采と同じ、アルファなのだ。
(でも僕だって、好きでアルファに生まれた訳じゃない! )
ギリッと奥歯を噛みしめ、達実は絞るように言葉を発した。
「……でも、采は、僕にキスをしたんだ……采は僕のことが本当は好きだから――だから、キスをしてきたんだと思っている。でも、それも全部、僕の勘違いだったっていうことなのか? 」
「でも、それじゃあ采は……だまされて、あの場でOKした事になる。後で判る嘘なら、尚更ひどいじゃないか! すぐに采に教えてやらないとっ! 」
「彼は、リンゴのついたウソを承知で、首を縦に振ったのだと思うよ。私は、そう解釈した」
「う――嘘だ! 」
達実はそう言うと、激しく動揺した様子でパッと立ち上がった。
「采のヤツ、僕よりずっと年上のクセに抜けているところがあるから、あのオメガの言うことを言葉通りに受け取ってしまった可能性だって、あるじゃないか! 」
「タツミ……」
「僕、これからすぐに采のマンションに行ってくる! そうして、あのオメガの言っている事が全部ウソだって教えて来るよ! 」
「ウソ? 」
達実の言葉尻を捕らえて、アレンは問い掛ける。
「君は、リンゴの言っていたことが全てウソだというのか? 」
「だ、だって、妊娠したなんて嘘なんだろう? だったら、采がだまされてあいつの項を噛んでしまったら大変じゃないか! オメガの項なんか噛んだら、それこそ双方一生付き纏う問題になるんだ。僕の母親は、番の『血の盟約』による拒絶反応を防ぐ薬は開発したけれど――――まだ実用化までは漕ぎ着けてないし。だったら直ぐに行って、采が過ちを犯す前に教えてやらないと、大変なことになるんじゃないのか!? 」
息せき切ってそれだけ言うと、達実は直ぐに部屋を出て行こうとする。
だがその背中に、アレンの冷静な声が投げ掛けられた。
「だからミスター・サイは、君が日本を発ったタイミングで、改めてリンゴに番になろうと言ったのではないかな? 」
「え……」
「『今は色々と周囲も騒がしいから、あと二週間程経って少し落ち着いたら番になろう』と、サイは口にしていた。それはつまり、タツミが日本を出国したタイミングだろう? 」
それは、つまり――――達実というお邪魔虫が消えたら、その時こそ『番』になろうという事だ。
アレンのその指摘に、達実は顔色を無くす。
「そんな……」
「バカげた話だ、と――――思うかい? 」
「……」
無言になる達実に、アレンは諭すように言葉を掛ける。
「サイは、リンゴのウソを百も承知で、それでも妻に迎え入れて構わないと決断したのだろう。つまり彼は、リンゴに対してそれなりに愛情を持っているんだよ。番にしても良いという位はね」
「でも!! あいつの狙いは、九条の財産に決まっているじゃないか! 采は――」
すると、アレンは首を振った。
ジッと達実を見つめながら、アレンなりに林檎から感じ取った事を告げる。
「リンゴは、確かに大ウソつきだ。アルファに寄生する、よくいるタイプの性悪オメガだよ。しかし――――リンゴは一つだけ本当の事を言ったんだ」
「え……」
「『采を愛している』とね。それだけは、真実だろう」
「あ、愛……」
「そう、リンゴは本当にサイを愛しているんだ。運命の番ではないが……でも彼は、本気でサイを愛している」
そのセリフに、達実は凍り付いたように瞠目した。
――――それでは、采は林檎の嘘に踊らされたのではなく、リンゴの本当の気持ちを汲んで番になる事を承知したのか? 達実のことは、やはり愛してはいないのか――――?
林檎はオメガだ。それだけで、愛される理由は充分満たしている。
対して達実はアルファだ。采と同じ、アルファなのだ。
(でも僕だって、好きでアルファに生まれた訳じゃない! )
ギリッと奥歯を噛みしめ、達実は絞るように言葉を発した。
「……でも、采は、僕にキスをしたんだ……采は僕のことが本当は好きだから――だから、キスをしてきたんだと思っている。でも、それも全部、僕の勘違いだったっていうことなのか? 」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
わるいこ
やなぎ怜
BL
Ωの譲(ゆずる)は両親亡きあと、ふたりの友人だったと言うα性のカメラマン・冬司(とうじ)と暮らしている。冬司のことは好きだが、彼の重荷にはなりたくない。そんな譲の思いと反比例するように冬司は彼を溺愛し、過剰なスキンシップをやめようとしない。それが異常なものだと徐々に気づき始めた譲は冬司から離れて行くことをおぼろげに考えるのだが……。
※オメガバース。
※性的表現あり。
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
【完結】もう一度恋に落ちる運命
grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。
そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…?
【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】
※攻め視点で1話完結の短い話です。
※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる