31 / 116
Cross-purposes of the love
2
しおりを挟む
可能な限りいじらしい素振りで言うと、青年は上目遣いになって采を見上げる。
「ねぇ、もう少しだけ一緒にいようよぉ」
「――悪いが……」
断りかけるところを、すぐさま縋りついてそれを阻止する。
「お願い! ね、ね、いいでしょう? 」
そう甘く囁き、青年は婀娜っぽく髪を掻きあげた。
オメガフェロモンは、項から濃厚に放たれる。
青年は、意図的に発情抑制剤を飲んでいない。
そして、数日後にはヒートの周期がやって来る……最高潮ではないが、それでも十分に現在オメガフェロモンは発散されている筈だ。
誘惑するように、ピンク色の舌を出して己の唇をゆっくりと舐めてみせながら、伺うように言う。
「……采だって――――そんな面倒臭い弟の世話なんて、本心では嫌なんでしょう? 怖い叔母さんの命令? 」
「まぁ……それもあるが」
「そんなの、無視してもいいんじゃないのぉ? だって采はアルファなんだよ? オメガの叔母さんに命令されて従うのは変だよ」
「――」
「采は、皆に寄ってたかっていいようにこき使われているようにオレからは見えるよ。そんなの、アルファの沽券に係わる問題じゃないの」
青年の言葉は、上手い事、采のアルファとしてのプライドを刺激する。
恵美から一ヵ月の休暇を言い渡され、義弟の達実の面倒を見てやれと命令された。
しかし肝心の達実は、父である九条凛の法要にはとうとう顔を出さずに、皆が引き払った後にのこのこと墓を訪れたらしい。
どこかの、知らない外人男性と一緒に。
大輪の薔薇の花束を持って。
残って墓周りの片付けの手伝いをしていた恵美の部下が、それを見たそうだ。
――――その外人は、一目でアルファと分かる堂々とした体躯の青年だったらしい。
時を置かず、采の元へ情報が届いた。
その青年の名はアレン・シン・アウラ。
アメリカの大財閥であるアウラ一族の御曹司で、将来間違いなくアウラを率いると目されている男だ。
年齢はまだ23歳だが、大学に通いながら、既に会社を幾つか経営しているらしい。
達実との接点を調べたところ、達実がミドルスクールの夏季休暇の時に、何らかのフィールドワークとしてアリゾナを訪れた際に現地で知り合ったようだ。
その他の詳しい経緯までは分からなかったが、とにかく二人は5歳の年齢差をものともせずに、直ぐに意気投合して友人になったらしい。
その友人が急遽日本へ来日したので、達実はそちらを優先させて行動したようだ。
葬儀に続き、今度は四十九日だ次は一回忌だという話を聞かされても、外国育ちの達実にとっては困惑するばかりだったろう。
日本人ではあるが、外国育ちの達実は何とも不可解な習わしだと感じたかもしれない。
それこそ、慣れない土地にわざわざ来る友人を優先して迎えに行ったとしても、仕方がないと采も思う。
――――だが、こちらとしては、やはり父親の法要をもっと重要事と考えて行動してほしかった。
僧侶も関係者も帰った後になって、豪勢な花束を以って訪れるでは……九条としても格好がつかないではないか。
「……とにかく、オレはこれからあいつの首根っこを捕まえて説教しなけりゃならん。今日は帰れ」
誘惑には乗らずに、采はバスルームを出て行った。
その後ろ姿を、思いつめたような顔で、オメガの青年がジッと見つめていた事にはとうとう気付かずに。
「ねぇ、もう少しだけ一緒にいようよぉ」
「――悪いが……」
断りかけるところを、すぐさま縋りついてそれを阻止する。
「お願い! ね、ね、いいでしょう? 」
そう甘く囁き、青年は婀娜っぽく髪を掻きあげた。
オメガフェロモンは、項から濃厚に放たれる。
青年は、意図的に発情抑制剤を飲んでいない。
そして、数日後にはヒートの周期がやって来る……最高潮ではないが、それでも十分に現在オメガフェロモンは発散されている筈だ。
誘惑するように、ピンク色の舌を出して己の唇をゆっくりと舐めてみせながら、伺うように言う。
「……采だって――――そんな面倒臭い弟の世話なんて、本心では嫌なんでしょう? 怖い叔母さんの命令? 」
「まぁ……それもあるが」
「そんなの、無視してもいいんじゃないのぉ? だって采はアルファなんだよ? オメガの叔母さんに命令されて従うのは変だよ」
「――」
「采は、皆に寄ってたかっていいようにこき使われているようにオレからは見えるよ。そんなの、アルファの沽券に係わる問題じゃないの」
青年の言葉は、上手い事、采のアルファとしてのプライドを刺激する。
恵美から一ヵ月の休暇を言い渡され、義弟の達実の面倒を見てやれと命令された。
しかし肝心の達実は、父である九条凛の法要にはとうとう顔を出さずに、皆が引き払った後にのこのこと墓を訪れたらしい。
どこかの、知らない外人男性と一緒に。
大輪の薔薇の花束を持って。
残って墓周りの片付けの手伝いをしていた恵美の部下が、それを見たそうだ。
――――その外人は、一目でアルファと分かる堂々とした体躯の青年だったらしい。
時を置かず、采の元へ情報が届いた。
その青年の名はアレン・シン・アウラ。
アメリカの大財閥であるアウラ一族の御曹司で、将来間違いなくアウラを率いると目されている男だ。
年齢はまだ23歳だが、大学に通いながら、既に会社を幾つか経営しているらしい。
達実との接点を調べたところ、達実がミドルスクールの夏季休暇の時に、何らかのフィールドワークとしてアリゾナを訪れた際に現地で知り合ったようだ。
その他の詳しい経緯までは分からなかったが、とにかく二人は5歳の年齢差をものともせずに、直ぐに意気投合して友人になったらしい。
その友人が急遽日本へ来日したので、達実はそちらを優先させて行動したようだ。
葬儀に続き、今度は四十九日だ次は一回忌だという話を聞かされても、外国育ちの達実にとっては困惑するばかりだったろう。
日本人ではあるが、外国育ちの達実は何とも不可解な習わしだと感じたかもしれない。
それこそ、慣れない土地にわざわざ来る友人を優先して迎えに行ったとしても、仕方がないと采も思う。
――――だが、こちらとしては、やはり父親の法要をもっと重要事と考えて行動してほしかった。
僧侶も関係者も帰った後になって、豪勢な花束を以って訪れるでは……九条としても格好がつかないではないか。
「……とにかく、オレはこれからあいつの首根っこを捕まえて説教しなけりゃならん。今日は帰れ」
誘惑には乗らずに、采はバスルームを出て行った。
その後ろ姿を、思いつめたような顔で、オメガの青年がジッと見つめていた事にはとうとう気付かずに。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
わるいこ
やなぎ怜
BL
Ωの譲(ゆずる)は両親亡きあと、ふたりの友人だったと言うα性のカメラマン・冬司(とうじ)と暮らしている。冬司のことは好きだが、彼の重荷にはなりたくない。そんな譲の思いと反比例するように冬司は彼を溺愛し、過剰なスキンシップをやめようとしない。それが異常なものだと徐々に気づき始めた譲は冬司から離れて行くことをおぼろげに考えるのだが……。
※オメガバース。
※性的表現あり。
【完結】もう一度恋に落ちる運命
grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。
そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…?
【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】
※攻め視点で1話完結の短い話です。
※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる