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Liar and liar

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 進退窮まり、逃げ場はない。

 だが、この後に及んでも、うっとりしてしまう。

――――なんて綺麗な男なんだと。

「――お前が……」

「? 」

「お前があんまり綺麗だから、つい魔が差してキスをした。それだけだ」

それだけ・・・・? 」

「ああ、そうだ」

 本当は、違う感情が芽生えているのを感じている。

 日々美しく育つ達実に、いつしか采は心を奪われていた。

 だが、自分はアルファである。

 そして相手もアルファであり、しかも義理とはいえ弟だ。

 感情のままに思いを口にするには、采はあまりに歳を取り過ぎた。

 もしもまだ、それこそ達実と同じ十代であったなら。

 せめて、二十代であったなら。

 本能のままに行動を起こし、とっくに一線を越えていたかもしれない。

 フゥと息を吐くと、次に采は、年長者らしく諭すように言った。

「――さぁ、もういい加減にテーブルから降りろ。ったく、行儀が悪いヤツだ。クリーニングも呼ばないと……」

 と、話をはぐらかそうとしたところ、達実は采の襟首を掴んだままグイッと身を寄せた。

「オメガフェロモンに感化されたからっていう言い訳なら成立するけど、アルファ相手に魔が差してキスをしたなんて通じないよ。采は、嘘をついている」

「嘘なんか、言ってない」

「嘘だ! 」

「――――じゃあ、何て言えば納得するんだっ」

 さすがに腹が立ってきて、今度は、采が達実を睨み付ける。

「言えよ、お前はオレに何を期待しているんだ? 」

「き、期待なんて……」

 采の逆襲に、今度は達実の方が言いよどむ。

――――いま、采にいってほしい言葉は『達実が好き』という一言だ。

 達実はアルファだけど、オメガなんかよりもずっと好きだと。

 その言葉が、達実は聞きたい。

 本当は、ずっとずっと昔から采に言って欲しかった。

 でも、顔を合わせれば、いつも采は達実のことを憎々し気に睨んで来る。

 それがどんなに、悔しくて悲しかった事か!

(僕が、もっと可愛かったら)

 何度もそう思った。

 誰もが口を揃えて“あなたは美しい”“あなたは綺麗だ”とは言ってくれるが、可愛いなんて――――母の奏と、義父の凛、そして幼馴染の三人だけしか言ってくれない。

 達実のことを『可愛い』と、采が言ったことは一度もない。

 それが本当に腹立たしくて、仕方がない。

「あのオメガは……あんたの眼から見て『可愛い』のか? 」

「なに? 」

「可愛いと思うから、愛人にしているのか……? 」

「そりゃあ、まぁ――そういうことになるが……」

「じゃあ、僕は? 」

「? 」

「僕は、可愛くないから好きじゃないのか? 」

「好きって――あのな、お前は義理とはいえ……」

「でも、采は僕にキスをしたじゃないか! いったいあれは、何だったんだよ!! 」

 達実は采の言葉を遮ると、掴んでいた襟元をグイッと引っ張る。

 息が詰まって反応の遅れた采の唇へ、達実は自分から唇を重ねた。

「――! 」

 驚いた采は、腕を突っ張って達実の身体を離す。

「何をする! 」

「なにをするって――キスのお返しだよ。今度は、僕の番だ」

 達実はそう言うと、獲物を狙う虎のように翠玉色の瞳をすがめて、采を睨む。
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