22 / 116
Liar and liar
14
しおりを挟む
進退窮まり、逃げ場はない。
だが、この後に及んでも、うっとりしてしまう。
――――なんて綺麗な男なんだと。
「――お前が……」
「? 」
「お前があんまり綺麗だから、つい魔が差してキスをした。それだけだ」
「それだけ? 」
「ああ、そうだ」
本当は、違う感情が芽生えているのを感じている。
日々美しく育つ達実に、いつしか采は心を奪われていた。
だが、自分はアルファである。
そして相手もアルファであり、しかも義理とはいえ弟だ。
感情のままに思いを口にするには、采はあまりに歳を取り過ぎた。
もしもまだ、それこそ達実と同じ十代であったなら。
せめて、二十代であったなら。
本能のままに行動を起こし、とっくに一線を越えていたかもしれない。
フゥと息を吐くと、次に采は、年長者らしく諭すように言った。
「――さぁ、もういい加減にテーブルから降りろ。ったく、行儀が悪いヤツだ。クリーニングも呼ばないと……」
と、話をはぐらかそうとしたところ、達実は采の襟首を掴んだままグイッと身を寄せた。
「オメガフェロモンに感化されたからっていう言い訳なら成立するけど、アルファ相手に魔が差してキスをしたなんて通じないよ。采は、嘘をついている」
「嘘なんか、言ってない」
「嘘だ! 」
「――――じゃあ、何て言えば納得するんだっ」
さすがに腹が立ってきて、今度は、采が達実を睨み付ける。
「言えよ、お前はオレに何を期待しているんだ? 」
「き、期待なんて……」
采の逆襲に、今度は達実の方が言い淀む。
――――いま、采にいってほしい言葉は『達実が好き』という一言だ。
達実はアルファだけど、オメガなんかよりもずっと好きだと。
その言葉が、達実は聞きたい。
本当は、ずっとずっと昔から采に言って欲しかった。
でも、顔を合わせれば、いつも采は達実のことを憎々し気に睨んで来る。
それがどんなに、悔しくて悲しかった事か!
(僕が、もっと可愛かったら)
何度もそう思った。
誰もが口を揃えて“あなたは美しい”“あなたは綺麗だ”とは言ってくれるが、可愛いなんて――――母の奏と、義父の凛、そして幼馴染の三人だけしか言ってくれない。
達実のことを『可愛い』と、采が言ったことは一度もない。
それが本当に腹立たしくて、仕方がない。
「あのオメガは……あんたの眼から見て『可愛い』のか? 」
「なに? 」
「可愛いと思うから、愛人にしているのか……? 」
「そりゃあ、まぁ――そういうことになるが……」
「じゃあ、僕は? 」
「? 」
「僕は、可愛くないから好きじゃないのか? 」
「好きって――あのな、お前は義理とはいえ……」
「でも、采は僕にキスをしたじゃないか! いったいあれは、何だったんだよ!! 」
達実は采の言葉を遮ると、掴んでいた襟元をグイッと引っ張る。
息が詰まって反応の遅れた采の唇へ、達実は自分から唇を重ねた。
「――! 」
驚いた采は、腕を突っ張って達実の身体を離す。
「何をする! 」
「なにをするって――キスのお返しだよ。今度は、僕の番だ」
達実はそう言うと、獲物を狙う虎のように翠玉色の瞳を眇めて、采を睨む。
だが、この後に及んでも、うっとりしてしまう。
――――なんて綺麗な男なんだと。
「――お前が……」
「? 」
「お前があんまり綺麗だから、つい魔が差してキスをした。それだけだ」
「それだけ? 」
「ああ、そうだ」
本当は、違う感情が芽生えているのを感じている。
日々美しく育つ達実に、いつしか采は心を奪われていた。
だが、自分はアルファである。
そして相手もアルファであり、しかも義理とはいえ弟だ。
感情のままに思いを口にするには、采はあまりに歳を取り過ぎた。
もしもまだ、それこそ達実と同じ十代であったなら。
せめて、二十代であったなら。
本能のままに行動を起こし、とっくに一線を越えていたかもしれない。
フゥと息を吐くと、次に采は、年長者らしく諭すように言った。
「――さぁ、もういい加減にテーブルから降りろ。ったく、行儀が悪いヤツだ。クリーニングも呼ばないと……」
と、話をはぐらかそうとしたところ、達実は采の襟首を掴んだままグイッと身を寄せた。
「オメガフェロモンに感化されたからっていう言い訳なら成立するけど、アルファ相手に魔が差してキスをしたなんて通じないよ。采は、嘘をついている」
「嘘なんか、言ってない」
「嘘だ! 」
「――――じゃあ、何て言えば納得するんだっ」
さすがに腹が立ってきて、今度は、采が達実を睨み付ける。
「言えよ、お前はオレに何を期待しているんだ? 」
「き、期待なんて……」
采の逆襲に、今度は達実の方が言い淀む。
――――いま、采にいってほしい言葉は『達実が好き』という一言だ。
達実はアルファだけど、オメガなんかよりもずっと好きだと。
その言葉が、達実は聞きたい。
本当は、ずっとずっと昔から采に言って欲しかった。
でも、顔を合わせれば、いつも采は達実のことを憎々し気に睨んで来る。
それがどんなに、悔しくて悲しかった事か!
(僕が、もっと可愛かったら)
何度もそう思った。
誰もが口を揃えて“あなたは美しい”“あなたは綺麗だ”とは言ってくれるが、可愛いなんて――――母の奏と、義父の凛、そして幼馴染の三人だけしか言ってくれない。
達実のことを『可愛い』と、采が言ったことは一度もない。
それが本当に腹立たしくて、仕方がない。
「あのオメガは……あんたの眼から見て『可愛い』のか? 」
「なに? 」
「可愛いと思うから、愛人にしているのか……? 」
「そりゃあ、まぁ――そういうことになるが……」
「じゃあ、僕は? 」
「? 」
「僕は、可愛くないから好きじゃないのか? 」
「好きって――あのな、お前は義理とはいえ……」
「でも、采は僕にキスをしたじゃないか! いったいあれは、何だったんだよ!! 」
達実は采の言葉を遮ると、掴んでいた襟元をグイッと引っ張る。
息が詰まって反応の遅れた采の唇へ、達実は自分から唇を重ねた。
「――! 」
驚いた采は、腕を突っ張って達実の身体を離す。
「何をする! 」
「なにをするって――キスのお返しだよ。今度は、僕の番だ」
達実はそう言うと、獲物を狙う虎のように翠玉色の瞳を眇めて、采を睨む。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
わるいこ
やなぎ怜
BL
Ωの譲(ゆずる)は両親亡きあと、ふたりの友人だったと言うα性のカメラマン・冬司(とうじ)と暮らしている。冬司のことは好きだが、彼の重荷にはなりたくない。そんな譲の思いと反比例するように冬司は彼を溺愛し、過剰なスキンシップをやめようとしない。それが異常なものだと徐々に気づき始めた譲は冬司から離れて行くことをおぼろげに考えるのだが……。
※オメガバース。
※性的表現あり。
【完結】もう一度恋に落ちる運命
grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。
そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…?
【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】
※攻め視点で1話完結の短い話です。
※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる