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Liar and liar
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そんな状況であるので、結局は九条を正式に継ぐのは、直系でアルファの采かと思っていたが――――どうやら、そんな古めかしい前時代的な考え方をしていたのは、達実だけであったらしい。
恵美と、その甥である采の間では、何のわだかまりも無く話は付いているようだ。
ならば、もう達実が口を出す問題ではない。
「そうか……じゃあ、采はオメガと番になって子供を儲けるとか、そういう事は……真剣には考えていなかったんだな――」
達実の伺うような問い掛けに、采は『そんな訳でもないが』と返事をした。
「オレだって、今からオメガに本気で惚れたら、それこそ番になろうと熱烈に求婚するかもしれないぞ。四十路とか関係なくな」
「――じゃあ、さっきのオメガは? 」
「あいつか……? 今の所は考えてないな」
采は正直に答えると、ボーイの運んできたドリンクとサンドイッチを達実の前のテーブルへ置いた。
「ま、せっかくだから食っとけ。親父の法要っていっても、メインの葬式は終わっているワケだから前回よりは気も楽だ。そんなに緊張しなくてもいいさ。客も半分以下になるからな」
達実がここへ来たのはその要件だろうと思っているので、采は法要の事を説明する。
「お前は知り合いもほとんどいない中で法要に出なきゃあならんから心細いかもしれないが、何も難しい事はない。安心しろ。本当は――奏も来ればよかったんだが……」
「奏は、学会が忙しいから今回はどうしても無理だったんだ。だから、僕は自分から――」
「ああ、分かってるさ。お前一人でも来てくれて嬉しいよ。それに、親父も喜んでいるだろうさ。なんせ、親父はお前が大のお気に入りだったからな……」
達実は、最愛のオメガが、自分の為に後輩へ託した命の結晶だ。
七海の生き写しのように育った達実は自分の胤を受け継いではいないが、そんな事は九条にとってはどうでもいい事だった。
何といっても、七海の血は確実に達実が継いでいるのだから。
故に九条は、達実を目に入れても痛くないくらいに可愛がっていた。
日本にいる時はもちろん、離れていても同様に。
『私は、君のことが一番可愛いよ』
それが、達実に対する九条の口癖だった。
彼にとって達実は、最も愛した最愛の息子であったのだ――――采ではなく、達実こそが。
「正直に言うと、オレは今でもその事を許せないでいるが……」
采はフゥと息を吐き、達実の対面のソファーにドスっと腰を下ろす。
「――でも、ガキでもあるまいし、今更お前に当たり散らしても意味がないからな。これで、お前が九条の財産に執着するようなヤツだったら遠慮なくオレも恨めるんだが……」
「まだそんなこと言ってるんだ? 僕も奏も、九条の財産なんか興味ないよ。全部放棄するから、そっちで勝手に分ければいいさ」
前途洋々のアルファである達実と、己の才覚で財産を築き上げた奏にとっては、他人の金など興味もない。
その潔さに、かえって采は苛立ちを感じてしまう。
「……とか何とか言って、後になって後悔しても知らねぇぞ」
「要らないものはいらないよ。それより――――どうしても訊きたい事があって、今日はここに来たんだ」
「ん? 法要の事だろう? 」
「……本当は、違うんだ」
「違う? なにが? 」
「だから――」
達実は言い淀むと、キュッと唇を噛んで俯いた。
そんな要領を得ない様子に、采は眉をひそめる。
「いったいお前は何の用があって、わざわざオレのマンションまで押しかけたんだ? おかげで、せっかく来ていたオメガが帰ったんだぞ。今日は、食事でも行こうかと考えていたのに――」
と、言い掛けたところで、達実が怒りの表情を浮かべてギロっと采を睨んできた。
そのあまりの迫力に、采の舌は凍り付いたようになる。
「な、なん……だよ? 」
「――――どうして、僕にキスをしたんだ? 」
恵美と、その甥である采の間では、何のわだかまりも無く話は付いているようだ。
ならば、もう達実が口を出す問題ではない。
「そうか……じゃあ、采はオメガと番になって子供を儲けるとか、そういう事は……真剣には考えていなかったんだな――」
達実の伺うような問い掛けに、采は『そんな訳でもないが』と返事をした。
「オレだって、今からオメガに本気で惚れたら、それこそ番になろうと熱烈に求婚するかもしれないぞ。四十路とか関係なくな」
「――じゃあ、さっきのオメガは? 」
「あいつか……? 今の所は考えてないな」
采は正直に答えると、ボーイの運んできたドリンクとサンドイッチを達実の前のテーブルへ置いた。
「ま、せっかくだから食っとけ。親父の法要っていっても、メインの葬式は終わっているワケだから前回よりは気も楽だ。そんなに緊張しなくてもいいさ。客も半分以下になるからな」
達実がここへ来たのはその要件だろうと思っているので、采は法要の事を説明する。
「お前は知り合いもほとんどいない中で法要に出なきゃあならんから心細いかもしれないが、何も難しい事はない。安心しろ。本当は――奏も来ればよかったんだが……」
「奏は、学会が忙しいから今回はどうしても無理だったんだ。だから、僕は自分から――」
「ああ、分かってるさ。お前一人でも来てくれて嬉しいよ。それに、親父も喜んでいるだろうさ。なんせ、親父はお前が大のお気に入りだったからな……」
達実は、最愛のオメガが、自分の為に後輩へ託した命の結晶だ。
七海の生き写しのように育った達実は自分の胤を受け継いではいないが、そんな事は九条にとってはどうでもいい事だった。
何といっても、七海の血は確実に達実が継いでいるのだから。
故に九条は、達実を目に入れても痛くないくらいに可愛がっていた。
日本にいる時はもちろん、離れていても同様に。
『私は、君のことが一番可愛いよ』
それが、達実に対する九条の口癖だった。
彼にとって達実は、最も愛した最愛の息子であったのだ――――采ではなく、達実こそが。
「正直に言うと、オレは今でもその事を許せないでいるが……」
采はフゥと息を吐き、達実の対面のソファーにドスっと腰を下ろす。
「――でも、ガキでもあるまいし、今更お前に当たり散らしても意味がないからな。これで、お前が九条の財産に執着するようなヤツだったら遠慮なくオレも恨めるんだが……」
「まだそんなこと言ってるんだ? 僕も奏も、九条の財産なんか興味ないよ。全部放棄するから、そっちで勝手に分ければいいさ」
前途洋々のアルファである達実と、己の才覚で財産を築き上げた奏にとっては、他人の金など興味もない。
その潔さに、かえって采は苛立ちを感じてしまう。
「……とか何とか言って、後になって後悔しても知らねぇぞ」
「要らないものはいらないよ。それより――――どうしても訊きたい事があって、今日はここに来たんだ」
「ん? 法要の事だろう? 」
「……本当は、違うんだ」
「違う? なにが? 」
「だから――」
達実は言い淀むと、キュッと唇を噛んで俯いた。
そんな要領を得ない様子に、采は眉をひそめる。
「いったいお前は何の用があって、わざわざオレのマンションまで押しかけたんだ? おかげで、せっかく来ていたオメガが帰ったんだぞ。今日は、食事でも行こうかと考えていたのに――」
と、言い掛けたところで、達実が怒りの表情を浮かべてギロっと采を睨んできた。
そのあまりの迫力に、采の舌は凍り付いたようになる。
「な、なん……だよ? 」
「――――どうして、僕にキスをしたんだ? 」
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