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Liar and liar

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「は? 」

「さっき、下でオメガの男とかち合った」

 采を、ジッと睨み付けるように見上げながら、達実はポツリと言う。

「――――何なんだよ、あのオメガは」

「ん……もしかして、何か言われたのか? 」

 采は、先程のオメガの事は、幾人か囲っている自身の愛人の一人だと思っている。

 だから、そのオメガが達実に向かって宣戦布告をしたなんて夢にも思わないが……だが、達実の様子から、何かしらあったと察っした。

 これに、達実は苦虫を嚙み潰したような表情になりながら口を開く。

「バカって、言われた」

「は? 」

「オメガと張り合うなって、妙なケンカを売られた」

「張り合うな……? 何の事だ? 」

 言葉の意味が分からず首を傾げる采を睨みつけながら、達実は怒り心頭と言った様子で続ける。

「采はあのオメガに、僕の事を何て言ったんだ!? 」

「いや、なにも――」

「まるで、采を取り合うライバルみたいな言い方をしていたぞっ! 」

「な、なにぃ!? 」

――――そういえば、つい……

『アルファが、アルファに惹かれるなんて――――そんな事が、果たしてあるものなのかな……』

 と、そんな独り言を口にしてしまった事を思い出す。

 もしやそれで、あのオメガは達実をライバルだと勘違いして、ケンカでも吹っ掛けたんだろうか?

 それに思い至り、采はガクリと項垂れた。

「…………どうやらオレに原因があったようだ。悪い」

「だから、なんて言ったんだよ? 」

「う……」

 それは、なかなか口にしづらい。

 代わりに采は、別の事を口にした。

「あいつは、愛人を生業なりわいにしているオメガなんだ。あの業界はライバルも多いから、つい過敏に反応したんだろう。あいつに何か言われても、そう本気に取るな」

 その答えに、達実は呆れたように息をつく。

「愛人業のオメガ、か――――まだ、そんなのいたんだ」

「まぁ、元々それがオメガの専売特許だったんだが――」

 オメガフェロモンを鎮静化させる安心安全で安価な薬が開発されてから、オメガに対する性暴力は激減した。それから時を置かずに、オメガフェロモンに感応しない・・・・・薬もアルファやベータ用に開発され、一昔前まで横行していたオメガに対する偏見と差別もほぼ根絶されたワケだが。

 しかし、未だに性を売り物にするオメガが多いのは変わらない現状だ。

 本能のままに気持ちのいいセックスして金が手に入るのだから、それに依存していたオメガは、どんなに発情を止める安価な薬が出回ったとしても、結局変わろうとはしなかったのだ。

 彼らは、オメガフェロモンの甘い匂いを垂れ流し、それに惹かれて近寄るアルファやベータに性を売って生活をしている。

 いづれはアルファの正式な『番』になり、楽をして栄耀栄華にあり付きたいと思っているワケだ。

 オメガをヒエラルキーの底辺から救うべく奮闘した結城奏ゆうきかなで博士の努力を嘲笑うかのような現状に、達実の気は晴れない。

 その結城奏博士こそが、達実最愛の母であり、尊敬してやまない男性であるからだ。

「……なんだか、残念なオメガだよな」

「ん? なにがだ? 」

「夢はアルファの番だなんてさ。いつの時代のオメガだよ……なんか、ミジメだ」

 勿論そういったオメガは少数だが――――それを0にしようと奮闘した奏まで否定されたような気がして、達実はますます先程のオメガの評価を下げた。

「同じオメガでも、奏と全然違うよね。さっきのヤツ、本当に底辺って感じだ」

 達実は俯いて、更に吐き捨てるように言う。

「最低だよ、あんなオメガなんて」

「――おい」

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