18 / 116
Liar and liar
10
しおりを挟む
「は? 」
「さっき、下でオメガの男とかち合った」
采を、ジッと睨み付けるように見上げながら、達実はポツリと言う。
「――――何なんだよ、あのオメガは」
「ん……もしかして、何か言われたのか? 」
采は、先程のオメガの事は、幾人か囲っている自身の愛人の一人だと思っている。
だから、そのオメガが達実に向かって宣戦布告をしたなんて夢にも思わないが……だが、達実の様子から、何かしらあったと察っした。
これに、達実は苦虫を嚙み潰したような表情になりながら口を開く。
「バカって、言われた」
「は? 」
「オメガと張り合うなって、妙なケンカを売られた」
「張り合うな……? 何の事だ? 」
言葉の意味が分からず首を傾げる采を睨みつけながら、達実は怒り心頭と言った様子で続ける。
「采はあのオメガに、僕の事を何て言ったんだ!? 」
「いや、なにも――」
「まるで、采を取り合うライバルみたいな言い方をしていたぞっ! 」
「な、なにぃ!? 」
――――そういえば、つい……
『アルファが、アルファに惹かれるなんて――――そんな事が、果たしてあるものなのかな……』
と、そんな独り言を口にしてしまった事を思い出す。
もしやそれで、あのオメガは達実をライバルだと勘違いして、ケンカでも吹っ掛けたんだろうか?
それに思い至り、采はガクリと項垂れた。
「…………どうやらオレに原因があったようだ。悪い」
「だから、なんて言ったんだよ? 」
「う……」
それは、なかなか口にしづらい。
代わりに采は、別の事を口にした。
「あいつは、愛人を生業にしているオメガなんだ。あの業界はライバルも多いから、つい過敏に反応したんだろう。あいつに何か言われても、そう本気に取るな」
その答えに、達実は呆れたように息をつく。
「愛人業のオメガ、か――――まだ、そんなのいたんだ」
「まぁ、元々それがオメガの専売特許だったんだが――」
オメガフェロモンを鎮静化させる安心安全で安価な薬が開発されてから、オメガに対する性暴力は激減した。それから時を置かずに、オメガフェロモンに感応しない薬もアルファやベータ用に開発され、一昔前まで横行していたオメガに対する偏見と差別もほぼ根絶されたワケだが。
しかし、未だに性を売り物にするオメガが多いのは変わらない現状だ。
本能のままに気持ちのいいセックスして金が手に入るのだから、それに依存していたオメガは、どんなに発情を止める安価な薬が出回ったとしても、結局変わろうとはしなかったのだ。
彼らは、オメガフェロモンの甘い匂いを垂れ流し、それに惹かれて近寄るアルファやベータに性を売って生活をしている。
いづれはアルファの正式な『番』になり、楽をして栄耀栄華にあり付きたいと思っているワケだ。
オメガをヒエラルキーの底辺から救うべく奮闘した結城奏博士の努力を嘲笑うかのような現状に、達実の気は晴れない。
その結城奏博士こそが、達実最愛の母であり、尊敬してやまない男性であるからだ。
「……なんだか、残念なオメガだよな」
「ん? なにがだ? 」
「夢はアルファの番だなんてさ。いつの時代のオメガだよ……なんか、ミジメだ」
勿論そういったオメガは少数だが――――それを0にしようと奮闘した奏まで否定されたような気がして、達実はますます先程のオメガの評価を下げた。
「同じオメガでも、奏と全然違うよね。さっきのヤツ、本当に底辺って感じだ」
達実は俯いて、更に吐き捨てるように言う。
「最低だよ、あんなオメガなんて」
「――おい」
「さっき、下でオメガの男とかち合った」
采を、ジッと睨み付けるように見上げながら、達実はポツリと言う。
「――――何なんだよ、あのオメガは」
「ん……もしかして、何か言われたのか? 」
采は、先程のオメガの事は、幾人か囲っている自身の愛人の一人だと思っている。
だから、そのオメガが達実に向かって宣戦布告をしたなんて夢にも思わないが……だが、達実の様子から、何かしらあったと察っした。
これに、達実は苦虫を嚙み潰したような表情になりながら口を開く。
「バカって、言われた」
「は? 」
「オメガと張り合うなって、妙なケンカを売られた」
「張り合うな……? 何の事だ? 」
言葉の意味が分からず首を傾げる采を睨みつけながら、達実は怒り心頭と言った様子で続ける。
「采はあのオメガに、僕の事を何て言ったんだ!? 」
「いや、なにも――」
「まるで、采を取り合うライバルみたいな言い方をしていたぞっ! 」
「な、なにぃ!? 」
――――そういえば、つい……
『アルファが、アルファに惹かれるなんて――――そんな事が、果たしてあるものなのかな……』
と、そんな独り言を口にしてしまった事を思い出す。
もしやそれで、あのオメガは達実をライバルだと勘違いして、ケンカでも吹っ掛けたんだろうか?
それに思い至り、采はガクリと項垂れた。
「…………どうやらオレに原因があったようだ。悪い」
「だから、なんて言ったんだよ? 」
「う……」
それは、なかなか口にしづらい。
代わりに采は、別の事を口にした。
「あいつは、愛人を生業にしているオメガなんだ。あの業界はライバルも多いから、つい過敏に反応したんだろう。あいつに何か言われても、そう本気に取るな」
その答えに、達実は呆れたように息をつく。
「愛人業のオメガ、か――――まだ、そんなのいたんだ」
「まぁ、元々それがオメガの専売特許だったんだが――」
オメガフェロモンを鎮静化させる安心安全で安価な薬が開発されてから、オメガに対する性暴力は激減した。それから時を置かずに、オメガフェロモンに感応しない薬もアルファやベータ用に開発され、一昔前まで横行していたオメガに対する偏見と差別もほぼ根絶されたワケだが。
しかし、未だに性を売り物にするオメガが多いのは変わらない現状だ。
本能のままに気持ちのいいセックスして金が手に入るのだから、それに依存していたオメガは、どんなに発情を止める安価な薬が出回ったとしても、結局変わろうとはしなかったのだ。
彼らは、オメガフェロモンの甘い匂いを垂れ流し、それに惹かれて近寄るアルファやベータに性を売って生活をしている。
いづれはアルファの正式な『番』になり、楽をして栄耀栄華にあり付きたいと思っているワケだ。
オメガをヒエラルキーの底辺から救うべく奮闘した結城奏博士の努力を嘲笑うかのような現状に、達実の気は晴れない。
その結城奏博士こそが、達実最愛の母であり、尊敬してやまない男性であるからだ。
「……なんだか、残念なオメガだよな」
「ん? なにがだ? 」
「夢はアルファの番だなんてさ。いつの時代のオメガだよ……なんか、ミジメだ」
勿論そういったオメガは少数だが――――それを0にしようと奮闘した奏まで否定されたような気がして、達実はますます先程のオメガの評価を下げた。
「同じオメガでも、奏と全然違うよね。さっきのヤツ、本当に底辺って感じだ」
達実は俯いて、更に吐き捨てるように言う。
「最低だよ、あんなオメガなんて」
「――おい」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる