8 / 116
Worrisome person
7
しおりを挟む達実は、美しい。
艶やかな大輪の薔薇と讃えられた七海達樹と同様に…………いいや、采の眼には、達実は七海より更に美しく華麗に映る。
長くは生きられぬ程に身体を壊した故に、七海は病人のように青白い顔をしていた。
それは、散り行く花のような面差しで麗しくもあったが――――采の好みではなかった。
対して達実は、陽光の下で力強く咲き誇る大輪の薔薇だ。
ギラギラと輝く太陽以上に生命力に溢れ、眩しく輝いているように見える。
采の眼には、達実こそが、最も美しく魅力的に映る。
どんなに嫋やかで可愛いオメガよりも、むしゃぶりつきたくなる程フェロモンを醸し出しているセクシーなオメガよりも。
この目の前の……アルファである達実こそが、誰よりも美しい。
無意識に、采はその唇へと触れていた。
そうすると、体験した事のない感覚が采の全身を包み込む。
(――なんだ、この……感情は? )
達実の唇は、とても柔らかいのに何処か硬質で、今まで口づけをしてきたどの相手とも違う。
それに、なんて芳しい香りがするんだろう。
ついさっきまで、ただひたすらに憎たらしいと思っていたのに――――違う感情が、心の奥底から湧き立つのを感じる。
意識を失ったまま小さな呼吸を繰り返している達実が、まるで眠り姫のように見えてくる。
――――達実は、オメガではない。
だが、オメガのフェロモン以上に、采は強烈に惹きつけられる。
訳が分からず、采は動揺する。
(なんだ? どうしてオレは、こんなに……)
こんなに、こいつが欲しくなってしまうのか?
その感情に、采は戸惑う。
だがもう、先の行為を止めることが出来なくなっている。
采は、達実へと更に深く口づけを落とし、その珊瑚色の舌を絡める。
「う……んぅ……」
低く呻くような声を漏らすと、達実は意識を取り戻したか、微かに瞼を震わせた。
「……? 」
身体に掛かる圧力に違和感を感じて薄く目を開くと、何と、自分に乗りかかるように何者かがいる。
その正体を知って、達実は仰天した。
なんと、采が覆いかぶさっているではないか!
達実は驚き過ぎて、逆に、思わず動きを停止させた。
(な、なんだ!? いったい何がどうしたんだ? )
猛烈に焦るが、なぜだか、上に覆い被さる采に気付かれないよう、達実は再び目を閉じた。
そうして、達実は再び気を失っているフリを継続した。
「達実? 」
「――」
「気のせいか……」
そう呟くと、采はまた行為を再開する。
柔らかいその頬を、まるで宝物でも扱うように両手で包み込み、情熱的な口づけを落とす。
達実の細く柔らかい髪が、まるで羽毛の方に采の額をくすぐる。
(なんと良い香りだ……)
心地いい感覚に、采はうっとりとなる。
舌を絡めてしゃぶるように啜ったところ、クチュっという水音が鳴り、唾液がつーっと滴り落ちた。
そこで、ようやく采はハッとしたようだ。
義理とはいえ、弟に対して……しかも、オメガでもない相手に対して自分は何という事をしているのか!?
(これ以上はさすがにヤバイ! )
采は慌てて身体を離すと、ポケットからハンカチを取り出して、達実の赤く色付いた唇をそっと拭ってやる。
「ん……」
微かに身じろいだ様子に慌て、采は急いで身体を起こすと、懐からカードを取り出した。恵美から渡された、あのカードだ。
采はそのカードを、達実のジーンズのポケットにスッと差し込むと、こけつまろびつ動転しながら部屋を出て行った。
それからしばらくして、
「――――なんだよ、あいつ……」
ゆっくりと身を起こしながら、達実はポツリと呟く。
その顔に浮かぶのは、怒りの表情ではなかった。
頬を染め、目を潤ませたその表情は――――まるで、恋に落ちた少年のようだった。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
わるいこ
やなぎ怜
BL
Ωの譲(ゆずる)は両親亡きあと、ふたりの友人だったと言うα性のカメラマン・冬司(とうじ)と暮らしている。冬司のことは好きだが、彼の重荷にはなりたくない。そんな譲の思いと反比例するように冬司は彼を溺愛し、過剰なスキンシップをやめようとしない。それが異常なものだと徐々に気づき始めた譲は冬司から離れて行くことをおぼろげに考えるのだが……。
※オメガバース。
※性的表現あり。
【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎
亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡
「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。
そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格!
更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。
これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。
友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき……
椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。
.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇
※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。
※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。
楽しんで頂けると幸いです(^^)
今後ともどうぞ宜しくお願いします♪
※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)
【完結】もう一度恋に落ちる運命
grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。
そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…?
【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】
※攻め視点で1話完結の短い話です。
※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。
恋のキューピットは歪な愛に招かれる
春於
BL
〈あらすじ〉
ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。
それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。
そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。
〈キャラクター設定〉
美坂(松雪) 秀斗
・ベータ
・30歳
・会社員(総合商社勤務)
・物静かで穏やか
・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる
・自分に自信がなく、消極的
・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子
・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている
養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった
・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能
二見 蒼
・アルファ
・30歳
・御曹司(二見不動産)
・明るくて面倒見が良い
・一途
・独占欲が強い
・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく
・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる
・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った
二見(筒井) 日向
・オメガ
・28歳
・フリーランスのSE(今は育児休業中)
・人懐っこくて甘え上手
・猪突猛進なところがある
・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい
・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた
・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている
・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している
・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた
※他サイトにも掲載しています
ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる