上 下
6 / 116
Worrisome person

5

しおりを挟む
(これで、こいつが九条家の財産を要求するような厚かましいヤツだったら――オレも堂々と大義名分を得て、幾らでも罵る事が出来たんだが)

 達実は、九条家の財産になど興味がない。

 奏も同様だ。

――――采はいつも、拳を振り上げたくてもその先がいない。相手が、いない。

 だが、今は。

「オレは、お前が昔から大嫌いだった! 叶うなら二度と会いたくなかった! でも今回は非常事態だから、仕方なしに呼んでやったんだ。それを一方的に被害者ぶって、気に入らないのはこっちの方だ!! 」

 半ばケンカを売るように罵倒したところ、達実は眦を吊り上げて反応してきた。

 固く握った拳を、采の顔面に向かって繰り出す。

 しかしその動きを予期していた采は、逆に身体を横にスライドさせてその腕ごと押さえ込み、ソファーへと達実を引き倒す。

 反動で姿勢を崩した達実は、ソファーの肘掛け部分へ思い切り頭をぶつけた。

「いっ――た……」

「大人を舐めるなよ、ガキ! こっちはそれなりに鍛えているんだ」

 フンっと鼻で笑って留飲を下げ、得意気に達実を見下ろすが、側頭部を抑えたまま動きを止めている相手に今度はギョッとする。

(まずい! 頭を打ったのか……? )

 このままでは、また恵美に説教を喰らってしまう。

 采は動揺しながら、うずくまる達実へと声を掛けた。

「おい、大丈夫か!? 」

「……」

「脳震盪でも起こしたか? 少し待っていろ、医者を呼ぶ――」

 そう言って立ち去ろうと背中を向けたところ、今度は後ろから膝裏をドンっと蹴られた。

 人体の構造上、こうなると当然前方へと倒れる。

 采は、勢いよく床へと転がった。


――――ドカッ!


「……う……こ、この――クソガキが……! 」

 呻くように言うと、背後でせせら笑うような空気を感じた。

「バーカ。間抜けなオッサンだな」

「……」

「仕方がないから、僕はダディの法要には奏の代理として出席するけども――――それが終わったら、直ぐに北欧に帰らせてもらうからな」

「ま、まて……」

「僕は、自分で都内のホテルを取るから、もう構わないでくれよ。用件は電話かメールで知らせてくれ」

 達実は冷たく言い捨てると、うずくまる采を長い脚でヒョイとまたいで出口へ向かおうとした。

 だが、采も、20以上も年の離れた相手にここまで馬鹿にされて、これ以上黙っているつもりはない。

 采は――――名門の家系に生まれたゆえに、勉学も武道も本格的に習得している。いつ何時も、自分の身は自分で守れるようにと叩き込まれたのだ。

 こんな若造相手に、いつまでも譲歩してやる義理はない!

 そう思うと同時に、采は反撃に出た。

「っ! 」

 達実は突然足首を捕られて、受け身を取る間もなく転倒する。

 間髪入れずに、采は自分のネクタイを毟り取るように外すと、達実の両手を捻り上げて背中で縛り上げた。

「痛って――!! なにすんだ、このハゲ! 」

(誰がハゲだ! )

 ムッとしたが、達実の口から発せられる罵倒は無視して、縛り上げたネクタイの端をローテーブルの足に括りつける。

 一連の動作が完了するまで、三分と掛かっていない。

 いつでも、このように反撃する事はできた――が、今までは何とかこらえていた。

 何故なら、義理とはいえ自分は達実のであるし、それなりに泰然たいぜんとした態度で弟に接するのが常識だと思っていたからだ。


 しかし、いい加減に堪忍袋の緒が切れた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

処理中です...