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Worrisome person
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(これで、こいつが九条家の財産を要求するような厚かましいヤツだったら――オレも堂々と大義名分を得て、幾らでも罵る事が出来たんだが)
達実は、九条家の財産になど興味がない。
奏も同様だ。
――――采はいつも、拳を振り上げたくてもその先がいない。相手が、いない。
だが、今は。
「オレは、お前が昔から大嫌いだった! 叶うなら二度と会いたくなかった! でも今回は非常事態だから、仕方なしに呼んでやったんだ。それを一方的に被害者ぶって、気に入らないのはこっちの方だ!! 」
半ばケンカを売るように罵倒したところ、達実は眦を吊り上げて反応してきた。
固く握った拳を、采の顔面に向かって繰り出す。
しかしその動きを予期していた采は、逆に身体を横にスライドさせてその腕ごと押さえ込み、ソファーへと達実を引き倒す。
反動で姿勢を崩した達実は、ソファーの肘掛け部分へ思い切り頭をぶつけた。
「いっ――た……」
「大人を舐めるなよ、ガキ! こっちはそれなりに鍛えているんだ」
フンっと鼻で笑って留飲を下げ、得意気に達実を見下ろすが、側頭部を抑えたまま動きを止めている相手に今度はギョッとする。
(まずい! 頭を打ったのか……? )
このままでは、また恵美に説教を喰らってしまう。
采は動揺しながら、うずくまる達実へと声を掛けた。
「おい、大丈夫か!? 」
「……」
「脳震盪でも起こしたか? 少し待っていろ、医者を呼ぶ――」
そう言って立ち去ろうと背中を向けたところ、今度は後ろから膝裏をドンっと蹴られた。
人体の構造上、こうなると当然前方へと倒れる。
采は、勢いよく床へと転がった。
――――ドカッ!
「……う……こ、この――クソガキが……! 」
呻くように言うと、背後でせせら笑うような空気を感じた。
「バーカ。間抜けなオッサンだな」
「……」
「仕方がないから、僕はダディの法要には奏の代理として出席するけども――――それが終わったら、直ぐに北欧に帰らせてもらうからな」
「ま、まて……」
「僕は、自分で都内のホテルを取るから、もう構わないでくれよ。用件は電話かメールで知らせてくれ」
達実は冷たく言い捨てると、うずくまる采を長い脚でヒョイと跨いで出口へ向かおうとした。
だが、采も、20以上も年の離れた相手にここまで馬鹿にされて、これ以上黙っているつもりはない。
采は――――名門の家系に生まれたゆえに、勉学も武道も本格的に習得している。いつ何時も、自分の身は自分で守れるようにと叩き込まれたのだ。
こんな若造相手に、いつまでも譲歩してやる義理はない!
そう思うと同時に、采は反撃に出た。
「っ! 」
達実は突然足首を捕られて、受け身を取る間もなく転倒する。
間髪入れずに、采は自分のネクタイを毟り取るように外すと、達実の両手を捻り上げて背中で縛り上げた。
「痛って――!! なにすんだ、このハゲ! 」
(誰がハゲだ! )
ムッとしたが、達実の口から発せられる罵倒は無視して、縛り上げたネクタイの端をローテーブルの足に括りつける。
一連の動作が完了するまで、三分と掛かっていない。
いつでも、このように反撃する事はできた――が、今までは何とか堪えていた。
何故なら、義理とはいえ自分は達実の兄であるし、それなりに泰然とした態度で弟に接するのが常識だと思っていたからだ。
しかし、いい加減に堪忍袋の緒が切れた。
達実は、九条家の財産になど興味がない。
奏も同様だ。
――――采はいつも、拳を振り上げたくてもその先がいない。相手が、いない。
だが、今は。
「オレは、お前が昔から大嫌いだった! 叶うなら二度と会いたくなかった! でも今回は非常事態だから、仕方なしに呼んでやったんだ。それを一方的に被害者ぶって、気に入らないのはこっちの方だ!! 」
半ばケンカを売るように罵倒したところ、達実は眦を吊り上げて反応してきた。
固く握った拳を、采の顔面に向かって繰り出す。
しかしその動きを予期していた采は、逆に身体を横にスライドさせてその腕ごと押さえ込み、ソファーへと達実を引き倒す。
反動で姿勢を崩した達実は、ソファーの肘掛け部分へ思い切り頭をぶつけた。
「いっ――た……」
「大人を舐めるなよ、ガキ! こっちはそれなりに鍛えているんだ」
フンっと鼻で笑って留飲を下げ、得意気に達実を見下ろすが、側頭部を抑えたまま動きを止めている相手に今度はギョッとする。
(まずい! 頭を打ったのか……? )
このままでは、また恵美に説教を喰らってしまう。
采は動揺しながら、うずくまる達実へと声を掛けた。
「おい、大丈夫か!? 」
「……」
「脳震盪でも起こしたか? 少し待っていろ、医者を呼ぶ――」
そう言って立ち去ろうと背中を向けたところ、今度は後ろから膝裏をドンっと蹴られた。
人体の構造上、こうなると当然前方へと倒れる。
采は、勢いよく床へと転がった。
――――ドカッ!
「……う……こ、この――クソガキが……! 」
呻くように言うと、背後でせせら笑うような空気を感じた。
「バーカ。間抜けなオッサンだな」
「……」
「仕方がないから、僕はダディの法要には奏の代理として出席するけども――――それが終わったら、直ぐに北欧に帰らせてもらうからな」
「ま、まて……」
「僕は、自分で都内のホテルを取るから、もう構わないでくれよ。用件は電話かメールで知らせてくれ」
達実は冷たく言い捨てると、うずくまる采を長い脚でヒョイと跨いで出口へ向かおうとした。
だが、采も、20以上も年の離れた相手にここまで馬鹿にされて、これ以上黙っているつもりはない。
采は――――名門の家系に生まれたゆえに、勉学も武道も本格的に習得している。いつ何時も、自分の身は自分で守れるようにと叩き込まれたのだ。
こんな若造相手に、いつまでも譲歩してやる義理はない!
そう思うと同時に、采は反撃に出た。
「っ! 」
達実は突然足首を捕られて、受け身を取る間もなく転倒する。
間髪入れずに、采は自分のネクタイを毟り取るように外すと、達実の両手を捻り上げて背中で縛り上げた。
「痛って――!! なにすんだ、このハゲ! 」
(誰がハゲだ! )
ムッとしたが、達実の口から発せられる罵倒は無視して、縛り上げたネクタイの端をローテーブルの足に括りつける。
一連の動作が完了するまで、三分と掛かっていない。
いつでも、このように反撃する事はできた――が、今までは何とか堪えていた。
何故なら、義理とはいえ自分は達実の兄であるし、それなりに泰然とした態度で弟に接するのが常識だと思っていたからだ。
しかし、いい加減に堪忍袋の緒が切れた。
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