マガイモノ

亜衣藍

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 強い意志を込めた声に、聖は困ったように溜め息をつく。

「……ああ、確かに、お前は最高の歌手だよ。でもな、ユウ……李医師から詳細な状態を聞いたが、通常の動作ならば影響も少ないだろうが、歌うとなると――」

 話は別だ、というセリフを先制するかのように、ユウが即座に言葉を返す。

『大丈夫です』

「――――ユウ、頼むから……これ以上ワガママを言わないでくれ」

 何でも、ユウが望むことは叶えたい。

 最高のスタッフに、最高のステージ。

 そして、素晴らしい環境を用意してやりたい。

 しかし、今のユウの身体の状態では、いつものように歌う事はかなり難しいハズだ。

 あばら骨にヒビが入っているのだ。

 聖もそれは経験したことがある。

 きっとユウも、まともな発声など不可能に近いに違いない。

 大きく息を吸おうものなら、それだけで激痛が走るだろう。

 4オクターブのセイレーンボイスと謳われる天上の声は、完璧な状態であってこその麗しい美声だ。

 今は無理をするべきではないし、第一そこまでの声量は出せないだろう。

「ユウ……朝――いいや、もう遅いか。そうだ、昼飯を一緒に食べないか? そこで、ゆっくりと今後の事を話そう」

 優しい声音でなだめるように語る聖に、ユウは電話向こうでハッキリと言い返してきた。

『オレはフェスに出ます。必ず出ます! 』

「ユウ……」

 誰よりも、その願いを叶えてやりたい聖だが。

 しかし、ユウを愛するが故に、余計にそれは受け入れられない。

「ダメと言ったら、ダメだ。無理をして大声で発声して、もしも肺に穴が開いたらどうするんだ? その可能性も、決して0じゃないんだ。リスクが少しでもある以上、幾らお前の願いでも許可できない。この話は、これで終わりだ」

『オレはその秘策を見つけたんです。そして――――オレを殴ったクウガ・・・の件も、これで片を付けます』
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