マガイモノ

亜衣藍

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 ミヤビと似ているかどうか何てことは一切感じなかったが、あの時は、芸能人っぽい男だと――――そう思った。

 だが、それがあんな地味なユニフォームを着て、清掃業者の名前の入った帽子を目深にかぶって現れるとは。

 さすがに、台湾で遭遇した男とはギャップがあり過ぎて、そのままでは正体に気付かなかっただろう。

 そう、あいつの『声』を聴かなければ、ユウは絶対に見破れなかったハズだ。

 ユウは周囲を見渡して、ポツリと呟く。

「ここはどうやら、局の空いている楽屋か……それとも――」

 ユウがそう言うと、美央はすうっと息を吸って、大声を発した。

「おーい! 誰かー!! 助けてくれーっ! 」

「美央っ」

「ここだー! 誰か来てくれー!! 」

「……無理だ、あきらめろ」

 尚も声を張り上げようとする美央に、ユウは溜め息をつきながら首を振った。

「両手両足を拘束しているのに、自由に声が出せるだなんてオカシイ」

 そう言えば、そうだ。

 今のように叫ばれたら、すぐに人に知られるだろう。

 と、いうことは――――

「ここはスタジオ内に設けられた、楽屋のセットだろうな」

 ユウの推測に、美央は『うぅ……』と、一瞬押し黙った。

 芸能人も頻繁に利用する楽屋や控室ならともかく、スタジオの方は完全防音になっている。

 どんなに大きな音が鳴っても、絶対に外には漏れない造りだ。

 つまりここに放り込まれている以上、大声を出して助けを呼んでも無駄なのだ。

 だから犯人は、ユウと美央の両手足を拘束しておきながら、口は自由になる状態のまま放置したのだろう。

「ユウさんは――意外に冷静ですよね……」

 美央は、少し悔し気にそう呟いた。

 焦って助けを呼ぼうとした自分とは違って、ユウは落ち着いて見える。
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