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二章 士官学校
ベイルート④
しおりを挟む「ところで、彼がテオドールの息子か? 」
それまで可愛い弟を緩んだ顔で見つめていたベイルートが、唐突に後ろを振り返って口を開いた。
「そうです。友人ですが、今は従者として側にいてもらっています」
「ロンズデール地区の代官テオドール・ライエンの息子、セオドアと申します」
セオドアがベイルートに臣下の礼をとる。
隙のない身のこなしは美しく、ベイルートを見る眼差しは不躾といえるほど鋭い。
(この男がセオドアか)
ベイルートは間諜から聞いていたセオドアの素性を思い出しながら、長椅子の肘掛けにもたれかかった。
ロンズデール地区は北の辺境地の中でも、アバド山から元帝国領までの範囲に位置する、ロンダ砦や北の屋敷を含む重要地である。
数年前からその土地の代官を任せているテオドールは、有能だと王都でも評価が高い人物だ。
ベイルートとも、何度か顔を合わせたことがあった。
「謙遜するな。ロンズデールの代官を任せることがどういうことか、お前もわかっているだろう」
そう言いながらも、ベイルートはセオドアを値踏みするように見つめている。
その視線を真っ直ぐに受け止めて、セオドアは口元をにこりと緩めた。
ベイルートを前にすると萎縮してしまう者が多い中、余裕すら感じられる態度だった。
「過分なお引き立て、父と共に感謝しております」
テオドール・ライエンは前辺境騎士団長として名高い人物であったが、ロンズデールの代官をするには子爵家では少々格が足りない。
現に、ライエン家が任命される前は伯爵家が任されていた役職である。
しかし、前代官のバロワ伯爵が帝国派からの賄賂を受け取っていたことが明るみに出たため、清廉潔白なテオドールに白羽の矢が立った経緯がある。
ライエン家が建国時から代々続く古い家系であるというところも、帝国派を警戒するエルヴァインを安心させた。
「テオドール殿には、予備学校への手配や、北での後見など色々とお世話になりました」
ジェイデンが控えめに言い添えると、弟を安心させるように頷き、ベイルートはセオドアに礼を言った。
「ああ、父上から聞いている。テオドールもだが…、君が弟の側にいてくれて感謝している」
「恐れ多いことでございます」
セオドアは再度頭を下げ、臣下の礼を取りそう答えた。
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