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二章 士官学校
新学期⑧
しおりを挟む放課後、急いで寮に戻るとセオドアはすでに支度を終えていた。
部屋の入り口にベイルートへの手土産が綺麗に梱包されて積まれている。
「おかえり」
長椅子に座った彼は、手にブラシを持ち、仔犬サイズのギードを膝に乗せていた。
ギードは大人しく目を閉じて、ブラシで毛を梳かされながら気持ちよさそうにしている。
「ほら。お前はルーを梳かしてやれ」
ジェイデンの足元に擦り寄ってくるルーを一瞥し、もう一本のブラシを差し出してくる。
「なんで今? 」
「ベイルート様から、こいつらを連れてくるよう言われているんだ」
「ルー達を? なんでまた…」
「さぁな。噂でも聞いたんじゃないか? 」
一角狼を従えられることは珍しい。
そもそも一角狼の縄張りは、北の辺境地の中でも禁足地とされている森の中に限られる。そのためか今まで騎獣として契約した前例がなく、王都では珍しいもの好きの貴族の中で話題になっていた。
「中央寮の立ち入り許可も出たから、断る理由もないしな。少しでも見目よくしてやろうと思って」
そうやって念入りにブラシをかけられたギードのふさふさの長毛は、いつもよりふんわり艶々だ。磨き上げられ、少し得意げにしているように見えるのは気のせいか。
自分はやってもらえないの? と見上げてくるルーに、降参してジェイデンはブラシを手にとった。
長椅子に座り、膝に乗せた相棒の毛並みを優しく整え始める。
代わりにセオドアは服についたギードの毛を払って立ち上がった。
「お前、もうすっかり飼い犬だな」
王都にきて半月ほど経つが、北からの移動を終えて以来、この狼達はずっと仔犬姿のまま寮で暮らしている。
寮の管理人であるミアとその子供達に可愛がられ、たまに帰って来ない夜もあるほどだ。
「荷物は先に運んでもらうから、俺は下に降りてる。それが終わったらお前も来い」
馬車を使うほどの距離ではないが、北の屋敷から預かった荷物は多くセオドアだけで持って歩くことは難しい量だ。
ミアが手配してくれた荷運びの使用人に声をかけながら、セオドアは先に部屋を出ていった。
今日は放課後ということもあり、制服のままでの訪問になる。着替える必要がなくて良かったと安堵しながら、ジェイデンはルーの尻尾のブラッシングに再開する。
「こら、じっとしろ」
尻尾をいじられるのは苦手らしい。
ルーが顔だけで振り向いて抗議の視線をよこしてくる。
「お前、なんでここだけこんな毛玉つけてるんだ? 」
尻尾の一部が毛玉になっていたのを見つけ、念入りにブラシをかける。
「こら、もうあとは尻尾だけなんだ」
嫌がるように尻尾を引っ込めようとするルーを叱りながら、その様子に思わず笑ってしまう。
なだめるようにルーを撫でていると、ジェイデンは緊張していた気持ちが緩んでいくのがわかった。
「思ってたよりも緊張してたのかもな」
そう自嘲しながら、ジェイデンは嫌がって小さく唸る相棒の毛玉を丁寧に解してやった。
「できたぞ」
ブラッシングを終え、ルーが膝から飛び降りた。
そのまま部屋の入り口へと走っていき、ドアの前で振り向いて主人を待っている。
「わかった、待ってくれ」
長椅子から立ち上がり、ジェイデンはセオドアが待っている階下へと向かった。
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