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一章 旅路
再会①
しおりを挟む「あー!!やっぱりジェイデンだあぁー」
「・・・ぶっ」
静かな食堂に、場違いな声が響く。
夕食をとっていた所に勢いよく後ろから飛びつかれて、ジェイデンが変な声を出した。
座っているジェイデンに、後ろから首に両腕を回した小柄な男が抱きついている。
「離れろ!ディア!!」
「ええー、やだ。・・・セオドアさんも久しぶり!」
そのまま、ぎゅうっと腕に力を込めるディアに、ジェイデンの向かいに座っていたセオドアが笑いながら久しぶりだな、と返事をする。
「何やってるの、ディア。離してあげなさい」
ディアに遅れて、長身の女と体格のいい男が食堂に入ってきた。
「えー、久しぶりに会えたんだから少しくらいいいでしょ!・・・やめてよ、アマーリエ」
アマーリエと呼ばれた女は、容赦なくディアの首根っこを掴むとジェイデンから引き離した。
暴れるディアを制しながら、ひらひらと2人に手を振る。
「久しぶりねぇ、元気だった?」
「ジェイデンも士官学校にくるなんて思わなかったぞ」
「俺もだよ、アマーリエ。メイソンも久しぶり」
アマーリエは褐色の肌に蜂蜜色の金髪をした美女だ。素晴らしく魅力的な身体つきをした女性であるが、身体強化が得意で、その細腕で魔熊を一撃で仕留めるほどの戦士である。
仲間内では一番恐れられている姉御だ。
その隣にいる人の良さそうな顔をしたメイソンは彼女の婚約者で、長身なアマーリエよりもさらに頭ひとつ背が高く、体格も大きい。無骨な剣士だが、人当たりの良さでは群を抜いて好印象な男だった。
ディアとアマーリエ、メイソンはジェイデンの予備学校の同期の三人だ。
優秀な三人は騎士団から推薦を受けて、秋から士官学校に入学していた。
三人は自分たちも食事を取ってきて、ジェイデンたちと同じテーブルについた。
久しぶりの再会に喜んでいるのはジェイデンも同じである。
三人は同期の中でも特にジェイデンと仲が良かったので、セオドアも見知った顔であった。
「冬季休みは帰省しなかったのか?」
三人とも王都に残っていたとは知らなかったジェイデンである。年越し前に王都に向かった為、すれ違いになったものと思っていたのだ。
「帰ってもよかったんだけど、こっちに戻ってくる時の雪が面倒でさ。今は日雇いの仕事で小遣い稼ぎ中」
三人で組んで護衛の仕事を請け負っているらしい。
今日も王都からキヴェまで商人の護衛をして往復してきたとディアが説明した。
「ディアがいるなら冬の魔物も関係ないだろう?」
不思議そうにジェイデンが言う。
ディアは魔術師だ。童顔で、同い年のジェイデンよりも幼い印象の男だが、火や爆裂系の魔法を得意とした稀有な魔術師である。
小柄で可愛い印象を持たれる事が多いが、その頭脳は同期一で、士官学校では軍師としての特別教育も受けており、将来を期待されている。
「冬の魔物はね、大丈夫だけど。雪が積もった北の山越えなんて面倒でしかないよ。馬車だってすぐに足止めされるし。騎獣を借りるのも高くつくし」
「そうよねぇ。年末は稼ぎ時だし、色々面倒だから。夏季休みに帰省することにして残ったのよ」
「ここに残ってる奴らは、俺らみたいに帰省せずに稼いでる奴らが大半だ」
士官学校の生徒は、それだけでその強さが保証されており仕事には困らない。
特に平民の生徒は週末に護衛や採取依頼などの仕事をこなして日銭を稼いでいた。
士官学校は学費は免除されているが、必要な薬草や魔道具などを調達するのに意外と金がかかるのだ。
「昼間は誰もいなかったから、みんな帰省したと思ってたよ」
昼間は仕事に行っていた生徒が戻ってきて、食堂にはちらほらと食事をとる姿がある。
「貴族の子はみんな帰省してるわよ。北の連中以外は」
「北から来てる奴は他に誰がいるんだ?」
食堂を見渡しながらそう言うアマーリエに、セオドアが聞いた。
「一学年は私たちだけね。二年と三年にそれぞれ三人ずついるわ。セオドアさんの予備学校の同期が一人だけ三学年にいたはずよ」
確か家庭の事情で一年入学が遅れたはず、とアマーリエが口にした名前にセオドアが驚いた表情を浮かべる。
「知ってる奴か?」
「ああ。弓が得意な男で、予備学校時代はよく一緒に狩りに行った」
セオドアの「狩り」とは、魔物狩りである。
それをよく知るジェイデンは、初めて聞く名前に少し困惑した。
これまでお互いの友人は大体見知っていたが、魔物狩りにはこだわりのあるこの男が、自分以外の相棒と組んでいた過去があったなどとは今まで聞いた事がなかったからだ。
「あいつは山の民の出で、狩りがうまいんだ。特に飛翔する魔物とは相性がいい」
タオというその男は、小遣い稼ぎ目的でセオドアと組んでいたらしい。
「確か兄が亡くなって卒業後は山に戻ったはずだったけどな・・・その後士官学校へ入っていたとは知らなかった」
「へぇ?ずいぶん薄情な友人だねぇ」
少し歯切れの悪い物言いに、ディアが意地悪く揶揄う。
セオドアは少し困ったように笑いながら、ジェイデンを見た。
「卒業後は俺も騎士団に慣れるまで忙しかったからな。こいつの面倒もみなきゃいけなかったことだし」
卒業後は連絡が途絶えていた間柄であるらしい。
どうやら何か理由が他にあるようだったが、セオドアはジェイデンに説明する気はないようだ。話題をはぐらかされた気がしたが、ジェイデンは素っ気ない風を装って言った。
「お前の狩りに付き合える友人がいたとはな。会うのが楽しみだ」
そう告げられ、セオドアは苦い笑いを噛み殺したような表情になった。
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