2 / 7
美しき彫刻達
しおりを挟む
彫刻館の中は広々としていて、白を基調とした美しい空間が、やってくる者達を温かく包んでいた。その素晴らしい空間故に、先程私が孕んでいた理不尽な怒りが腹の底でどろっと溶け去った事に気付いたのは、もう少し後のことである。
「ようこそいらっしゃいました。彫刻をご希望で御座いますか。それとも、見学をご希望で御座いますか。」
やたらと畏まった口調の女が話し掛けてくる。美術館と言えば美術品を眺めるより他にやる事など無かろうに。私は呆れながら、
「見学で。」
と答えると、女はその分かりきった自分の美貌を最大限活かすようにしてはにかんでから、「かしこまりました。」と答えた。その次の瞬間、私は呆気に取られた。がくん、と小さく世界が揺れたかと思うと、女と私だけを残して、全てが後方へと流れ去って行くのだ。女は平然としているが、私には何が何だかわからない。私は自分が田舎者である事を悟られまいと平静を装いながら、視界を彷徨わせる。
なるほど驚いた。なんと、床が前方へと進んでいるではないか。未来の文明とはこういう事なのだろう。
「間も無く、彫刻作品の展示場で御座います。」
女がそう言うと、目の前の門がゆっくりと自動で開き始める。私はそれだけでも驚愕したが、更に驚いたのは、その先の光景だった。
「…見事だ。」
幾千幾万にも及ぶ、木材石材からなる彫刻の数々。掌にポツンと乗りそうな物から、鎌倉に座する大仏を思わせる程の大きさのものまで、多種多様な彫刻が並んでいる。更に、それらは全て細部まで刻み込まれた大作なのだ。確かに、小作人共でさえ何度も来たくなるのは頷けよう。
「しかし、口惜しいな。これ程見事な彫刻をじっくり眺める事ができないのは。」
私は彫刻に集中しようとするが、自動で床が動くため立ち止まって見学できず、作品とまともに向き合う事が出来ない。これは真に不便だ。
「大丈夫で御座います。その場合は、こちらで彫刻をして頂ければ、四六時中作品を眺める事が可能です。」
彫刻をする、というのがどうも腑に落ちないが、これらの作品をじっくり眺められるなら儲けものだ。私は女に連れられて、彫刻をする場所とやらに向かった。
「ようこそいらっしゃいました。彫刻をご希望で御座いますか。それとも、見学をご希望で御座いますか。」
やたらと畏まった口調の女が話し掛けてくる。美術館と言えば美術品を眺めるより他にやる事など無かろうに。私は呆れながら、
「見学で。」
と答えると、女はその分かりきった自分の美貌を最大限活かすようにしてはにかんでから、「かしこまりました。」と答えた。その次の瞬間、私は呆気に取られた。がくん、と小さく世界が揺れたかと思うと、女と私だけを残して、全てが後方へと流れ去って行くのだ。女は平然としているが、私には何が何だかわからない。私は自分が田舎者である事を悟られまいと平静を装いながら、視界を彷徨わせる。
なるほど驚いた。なんと、床が前方へと進んでいるではないか。未来の文明とはこういう事なのだろう。
「間も無く、彫刻作品の展示場で御座います。」
女がそう言うと、目の前の門がゆっくりと自動で開き始める。私はそれだけでも驚愕したが、更に驚いたのは、その先の光景だった。
「…見事だ。」
幾千幾万にも及ぶ、木材石材からなる彫刻の数々。掌にポツンと乗りそうな物から、鎌倉に座する大仏を思わせる程の大きさのものまで、多種多様な彫刻が並んでいる。更に、それらは全て細部まで刻み込まれた大作なのだ。確かに、小作人共でさえ何度も来たくなるのは頷けよう。
「しかし、口惜しいな。これ程見事な彫刻をじっくり眺める事ができないのは。」
私は彫刻に集中しようとするが、自動で床が動くため立ち止まって見学できず、作品とまともに向き合う事が出来ない。これは真に不便だ。
「大丈夫で御座います。その場合は、こちらで彫刻をして頂ければ、四六時中作品を眺める事が可能です。」
彫刻をする、というのがどうも腑に落ちないが、これらの作品をじっくり眺められるなら儲けものだ。私は女に連れられて、彫刻をする場所とやらに向かった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
短編歴史小説集
永瀬 史乃
歴史・時代
徒然なるままに日暮らしスマホに向かひて書いた歴史物をまとめました。
一作品2000〜4000字程度。日本史・東洋史混ざっています。
以前、投稿済みの作品もまとめて短編集とすることにしました。
準中華風、遊郭、大奥ものが多くなるかと思います。
表紙は「かんたん表紙メーカー」様HP
にて作成しました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
幕府海軍戦艦大和
みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。
ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。
「大和に迎撃させよ!」と命令した。
戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
紀伊国屋文左衛門の白い玉
家紋武範
歴史・時代
紀州に文吉という少年がいた。彼は拾われっ子で、農家の下男だった。死ぬまで農家のどれいとなる運命の子だ。
そんな文吉は近所にすむ、同じく下女の“みつ”に恋をした。二人は将来を誓い合い、金を得て農地を買って共に暮らすことを約束した。それを糧に生きたのだ。
しかし“みつ”は人買いに買われていった。将来は遊女になるのであろう。文吉はそれを悔しがって見つめることしか出来ない。
金さえあれば──。それが文吉を突き動かす。
下男を辞め、醤油問屋に奉公に出て使いに出される。その帰り、稲荷神社のお社で休憩していると不思議な白い玉に“出会った”。
超貧乏奴隷が日本一の大金持ちになる成り上がりストーリー!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる