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告白

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ある日の金曜日。学校にて。

「お…おお…お…!」

自分の手が震える。自分の持っているものが、信じられないほどに変化していたからだ。小刻みに身体が震え、ぶるぶると痙攣している。

「こ、これが俺の点数…!?」

「どうした…ってなんだその点!?お、お前何したんだよ…?」

「い、いや、少し勉強を…」

あの日以来、俺は谷日さんと他の四人と付きっきりで勉強に勤しんだ。嫉妬していた孤曉さんには、事情こそ伝えなかったが、申し訳ないなと思いつつ谷日さんの授業を受けた。そして、そのままテストに挑んだ。

「…お、お前、カンニングとかしてないよな?」

「するわけねぇだろ?…自分でも信じられねぇけどさ…」

ずらりと並んだ点数は、どれもこれも、平均点を大きく…いや。学年でもかなり上位に食い込めるくらいの点数になっていた。ドーピングでもしたのでは無いかと思われる程の伸び代だ。

「ど、どういう勉強をしたんだよ!僕にも教えてくれよ~!」

「…い、いやあ、内緒…かなあ?」

谷日さんを他の人に取られたくはない意志はあったけれど、これ以上生徒を増やしたら彼女も大変だろうと思って断っておいた。







俺は、学校帰りにポケットに忍ばせていた紙を取り出した。カンニング用紙ではない。先日、彼女がお守り代わりに、と包んでくれた紙だ。テストが終わったら開けるように、伝えられていた。

『テストお疲れ様!点数はどうだったかな?私は、高得点じゃないかなーって思ってるよ!学校が終わったら、玉川の川辺まで来て貰える?』

可愛らしい飾り文字で、お呼び出しの文字が書かれていた。紙にはご丁寧に『ここだよー!』と地図まで描かれていて、愛らしさについつい微笑んでしまった。

「…よし、行ってみるか。」

自転車にまたがって、下校ついでに川沿いへと向かう。この街は、近くに少し大きな川が流れていて、そこから水路を引いたりもしている。この時期は、川の草も伸びてきて、だいぶ夏らしくなってきたな…といった感じが楽しめる。

「この辺りだったかな?」

自転車を漕ぎ漕ぎ、地図と照らし合わせて進む。まるで宝探しだ。彼女が指定した場所へと赴くと、谷日さんが一人で佇んでいた。

「…あっ、きたきた!」

自転車を降りて、邪魔にならないよう路肩に停める。谷日さんは待ってました!と言わんばかりに出迎えて、こちらに来てくれた。

「すみません、遅くなりました。」

「大丈夫。テスト、どうだった?」

「バッチリです。谷日さんのお陰ですよ。」

「そっか。良かった。ちょっと、奥まで行こう?」

「あ、はい!」

谷日さんに連れられて、川のすぐ近くまで歩いていく。この辺は丸い石がゴロゴロしていて、少し歩きにくい。刑事ドラマなんかでは、よく撮影に使われそうな場所だ。

「んー、涼し~。やっぱり川は良いね。ちょっと遊んでかない?」

「えっ?い、良いですけど…スーツ姿のままで大丈夫なんですか?」

彼女は塾の先生。まさかぐしょぐしょに濡れたままの制服で授業に出る訳にはいかないだろう。

「あはは。入る訳じゃないよ。水きりって知ってる?」

「あ、はい。子供の頃によくやりましたよ。確か、平たい石を川に向かって投げるんですよね。」

「そうそう!それで、どこまで飛んだかー、とか何回跳ねたか、とかを見るんだよね。」

谷日さんはそう言って、ひょいっとその辺にあった石を拾い上げる。すべすべしていてよく跳ねそうだ。

「えいっ!」

ちゃぽん。

「あ、あらら…」

谷日さんが投げた石は、1回も跳ねずにアウト。水底に沈んで帰らぬ石となった…

「もう一回!見ててね、吉住君!」

「はい!」

「行くよー!それっ!」

ちゃぽん。

「なーっ!…ど、どうして入らないの…」

また沈む。なんと言うか、投げ方から違うのかもしれない。ぐぬぬぬぬ、と悔しがる谷日さんを横目に、自分も一回やってみる事にする。

「それっ。」

びしゃっ。びしゃっ。ちゃぷん。

おおっ、結構跳ねるものである。自分の腕に思わず感心していたが、ハッと我に返って谷日さんの方を見ると、完全に撃沈していた。

「私って駄目ね~…」

「そ、そんな事ありませんよ!投げ方を覚えれば、すぐできるようになります!」

「ほんと?…じゃあ、教えてくれる?吉住先生?」

久々に見た。谷日さんの可愛らしい上目遣い。お願いしてくる時は、決まってこうするのだ。そして俺は、毎度毎度ドキッとして了承する。

「良いですよ。もう一回、石拾ってみましょうか。」

「うん!…えーと、これで良い?」

ふんっと鼻息を荒げて、こちらに石を見せてくる彼女。ある程度平たければそんなに差異は無いと思うのだが、もしかしたら…という事もあるので一応専門的に鑑定。

「…大丈夫ですよ。じゃあ、まず俺の投げ方を真似てみてください。」

「ええ!」

水きりのコツは、フリスビーを投げるように水面と平行になる様に投げる事。フリスビーを縦にしてぶん投げればわかるが、そんな風に投げたんじゃ水を切り裂いて落ちるのがオチだ。

「それっ。」

びしゃっ。びしゃっ。ちゃぽん。

そして、かるーく投げる事。あんまり力んでしまうと、石は向きが変わってしまい、海底に突っ込んで爆発する。

「えいっ!」

ばしゃっ。ばしゃっ。ばしゃっ。

「「えっ!?」」

二人して驚いた声を出す。谷日さんの投げた石は、綺麗な放物線を描いて飛び、川をぴょんぴょんと跳ねまくって見事に向こう岸まで着陸したのだった。

「わ、私が…投げたのよね?」

「は…はい…」

これじゃ先生としての面目丸潰れ…というのはともかく、上手く投げることが出来て良かった。彼女はくーっ!と大きくガッツポーズしてから、こちらに抱きついてきた。

「わっ!?た、谷日さん!?」

「ありがと、吉住せんせ!」

「ど、どういたしまひて…」








それから、しばらく川辺で二人きりで過ごした。もうすぐ、谷日さんの塾へと向かう時間だ。そろそろ出発した方が良いかな?と思って立ち上がった所で、谷日さんに呼び止められた。

「吉住君。」

「は、はい?」

「…今…二人きり…だよ?」

そう言って、かあっと顔を赤らめる谷日さん。いくら俺がニブチンでも、流石にこれくらいはわかる。俺は、どうするべきなのか。

「……そう…ですね。…谷日さん、伝えたい事があるので…少し、来て貰えますか?」

「……うん。」

俺が嫉妬したあの日。谷日さんにあることをうち耳された。それは、テストの点数が高得点であったら、ある事をしても良い、という事であった。

少し歩くと、人気の少ない公園へと出た。無造作に噴水とベンチが置かれた、小さな公園だ。高鳴る心臓を押さえながら、二人でその公園に立つ。

「それで…伝えたい事って…?」

谷日さんは、顔を赤らめていた。夕日に照らされて、赤くなっていたのかもしれないけど、それでも分かるくらいに赤くなっていた。

「………え、えええと…っ…俺は…」

「………」

谷日さんは、期待と興奮が入り交じった様な顔でこちらを見つめている。本当に可愛らしい。

「俺…っは…」

ドキドキと心臓が高鳴る。必死に言葉にしようとするが、恥ずかしいような照れくさいようなでなかなか言い出せない。

「俺は…!」


言えったら。言いだせ。俺。


「あな…たの……事が…!」



もう一押し。大きく息を整えて、ゆっくりと深呼吸する。もう、覚悟は出来た。あとは言い切るだけだ。


「…俺は…谷日さん。…あ…貴女の事が好きです!お…っ、おお、俺と付き合ってください!」

全身がかっかと火照るのを感じた。恥ずかしくて死にそうだけれど、自分の想いをはっきり伝えることが出来た。頭を下げて、必死に手を伸ばす。俺は彼女に遊ばれていたのか。それとも本気でいてくれたのか。これで分かる。













「………よろこんで。」


そっと優しく手を握り返される。びっくりして顔を上げると同時に、谷日さんにぎゅっと抱きつかれた。なんて言うべきか。嬉しさで満たされると同時に、心にあたたかい感覚が生まれてくる。俺は無我夢中で、を抱き寄せた。

「良いん…ですか…?俺で…」

「うん。…というか、君じゃなきゃ嫌かな。…ううん、君が良い!」

ニコッと微笑み、腕の中から俺の顔を覗き飲んでくる彼女。俺はこんな近くで彼女の顔を見れることに思わず興奮して、更にドキドキと胸を高鳴らせる。

「ふふ、ドキドキしてるね。」

「あ…は、はい…」

「私も…してるよ?ドキドキ。」

「…あ…」

彼女の鼓動音は、俺にも負けずにしっかりしていて、とても力強かった。けれど、その温かなリズムが更に俺の頭を惑わせて、気が付いたら、俺は吸い込まれる様に彼女に接吻していた。







「ねねね、自転車の後ろ、乗っても良い?」

「良いですけど…大丈夫ですか?」

「大丈夫。君に捕まってるから!」

「えっ…!…わ、わかりました。しっかり捕まってて下さいね。」

「うん!さあ、レッツゴー!」

しゃこしゃこと、自転車を漕ぎ始める。二人の道は、きっとこれからも続いて行くだろう。ちょうど、隣を流れている川のように。終わり無く、とめどなく。いつまでも。そんな未来を想像すると、なんだか胸がむず痒くなってしまうのだ。
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