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89話 不気味な来訪者
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「……どうでしたか?セラフィーナさん」
「…ルーチェさん…」
屋敷に戻って、僕は正直に全てを話した。
「…そうですか。言ってしまいましたか」
けれど、ルーチェはいつものように怒らなかった。静かに微笑んで、そっと僕を抱き寄せてくれた。
「よく頑張りましたね。…今までご苦労様でした」
「うぅっ…ルーチェ…」
王子様の前では、泣かないようにしていた。聖女として、死にたくないなんて無様に足掻く事は辞めようと誓っていた。けれど、ルーチェの前では別だ。顔をぐしゃぐしゃにして、情けない表情で必死に彼女の服にすがりついた。
「正直に謝るには……言うしか無かった……けど僕……死にたくないよ…!」
ズビズビと鼻水をすする。汚いしアホだし、いじめられっ子だった時の自分を思い出してしまった。
「…大丈夫。アンタは死なせない」
温かな温もりが、熱い鼓動を変わるのを感じた。熱くて火傷しそうで、でもとても温かい。炎のゆりかごに包まれているような感覚だった。
「いざとなったら、聖女の地位も。国も。何もかも捨てて。二人で逃げましょ。…あ、アルヴェルト君はそのまま連れて来ても良いかもね」
にしし、と嬉しそうに笑った。その顔は、いつも僕を助けてくれた、あの優しいルーチェの顔、そのままだった。
「…うん…!」
その頃、王城に一人の男が入ってきた。紳士的なスーツをその身に纏い、モノクル眼鏡が印象的な素敵なおじ様。…とでも表現すべきだろうか。優雅な足取りで、兵士達に見守られながら扉をノックした。
「入れ」
「失礼致します」
部屋に入るなり、男は静かに懐から金属製の、小さな板のような物を取り出した。港町アンダンディの商人だけが持つ事のできる身分証明書、商売金型である。
金型は三種類存在し、それぞれ金、銀、銅の色がついている。金ほどグレードの高い商人である証明であり、彼が取り出した金の金型は、複数の国から信頼を得ている商人だけが発行される品物。これを持っていれば、貴族相手でも商売を行う事が出来る。
「商金人か。王相手に直々に商売に来るとは、大した度胸だな」
「ヒヒ、ありがとうございます。本日持ってきたこの商品、王様も驚いて頂けると思いますよ」
「(どうせ買いはせぬが…見るだけ見ておくか…)」
パチン!と指を弾くと、そこに巨大な荷車が出現する。荷車には、何やら山積みになった荷物が詰められているが、布を被せられてその正体はよく分からない。
「本日ご紹介したいのは、こちらでございます。王様」
バサッ!
「なっ……!?」
ひらり、と布を広げたそこに積まれていたのは。
ボロボロになった、国の兵士達であった。
「…ルーチェさん…」
屋敷に戻って、僕は正直に全てを話した。
「…そうですか。言ってしまいましたか」
けれど、ルーチェはいつものように怒らなかった。静かに微笑んで、そっと僕を抱き寄せてくれた。
「よく頑張りましたね。…今までご苦労様でした」
「うぅっ…ルーチェ…」
王子様の前では、泣かないようにしていた。聖女として、死にたくないなんて無様に足掻く事は辞めようと誓っていた。けれど、ルーチェの前では別だ。顔をぐしゃぐしゃにして、情けない表情で必死に彼女の服にすがりついた。
「正直に謝るには……言うしか無かった……けど僕……死にたくないよ…!」
ズビズビと鼻水をすする。汚いしアホだし、いじめられっ子だった時の自分を思い出してしまった。
「…大丈夫。アンタは死なせない」
温かな温もりが、熱い鼓動を変わるのを感じた。熱くて火傷しそうで、でもとても温かい。炎のゆりかごに包まれているような感覚だった。
「いざとなったら、聖女の地位も。国も。何もかも捨てて。二人で逃げましょ。…あ、アルヴェルト君はそのまま連れて来ても良いかもね」
にしし、と嬉しそうに笑った。その顔は、いつも僕を助けてくれた、あの優しいルーチェの顔、そのままだった。
「…うん…!」
その頃、王城に一人の男が入ってきた。紳士的なスーツをその身に纏い、モノクル眼鏡が印象的な素敵なおじ様。…とでも表現すべきだろうか。優雅な足取りで、兵士達に見守られながら扉をノックした。
「入れ」
「失礼致します」
部屋に入るなり、男は静かに懐から金属製の、小さな板のような物を取り出した。港町アンダンディの商人だけが持つ事のできる身分証明書、商売金型である。
金型は三種類存在し、それぞれ金、銀、銅の色がついている。金ほどグレードの高い商人である証明であり、彼が取り出した金の金型は、複数の国から信頼を得ている商人だけが発行される品物。これを持っていれば、貴族相手でも商売を行う事が出来る。
「商金人か。王相手に直々に商売に来るとは、大した度胸だな」
「ヒヒ、ありがとうございます。本日持ってきたこの商品、王様も驚いて頂けると思いますよ」
「(どうせ買いはせぬが…見るだけ見ておくか…)」
パチン!と指を弾くと、そこに巨大な荷車が出現する。荷車には、何やら山積みになった荷物が詰められているが、布を被せられてその正体はよく分からない。
「本日ご紹介したいのは、こちらでございます。王様」
バサッ!
「なっ……!?」
ひらり、と布を広げたそこに積まれていたのは。
ボロボロになった、国の兵士達であった。
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