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85話 フランカ訪問
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そして、その日がやってきた。セラフィーナはいつも通り、気品に溢れる優雅な顔で彼女を迎え入れた。
「こんにちは、デュジャルダンさん」
「ええ、こんにちは。セラフィーナ様」
彼女は居間に入るなり、いつものように力強い足取りでずんずんと押し入った。セラフィーナが座るように促すなり、どかっと叩きつけるように席についた。
「髪をお切りになったのね?」
「はい。少々伸びすぎてしまったものですから」
「ふーん…」
まあなんでも良いけど…と言った具合に、出されたお茶をぐいとひと息に飲み干した。それから、偉そうに足を組んでセラフィーナの方を向いた。
「今日はお話があって来たの。聞いてくださいます?」
「もちろん。それも聖女の務めですから」
「では…率直に聞くけど……貴方、あのバカ騎士…アルヴェルトとデートしていたわよね?」
「…ええ…それが……?」
「貴方、パトリツィオ様の婚約者じゃなかったの?」
「……っ!」
迂闊だった。パトリツィオの婚約者という身分でありながら、アルヴェルトとデートを行う。それが何を意味するのか、セラフィーナは全く考えていなかったのだ。
言うなれば、浮気。パトリツィオを誰よりも想っているフランカには、一番許せない不貞行為だ。呆気に取られたセラフィーナに、フランカは力強く畳み掛ける。
「おかしいでしょう?パトリツィオ様は本気でセラフィーナ様を愛してた!だから私も身を引こうと思ってた!…それなのに貴女は、他の男と遊びに行く女だったの!」
「……そ、それは…」
「ハッ、どの口で私にご高説垂れてたのかしら。淫らな女の方がどうとか?貴女の方がよっぽどじゃない!」
フランカの怒りの声は、屋敷の中にいる従者達にも聞こえていた。特に近くで聞いていたアルヴェルトは、顔を下げて、黙り込むより他に無かった。
「……そ、その、フランカさん。アルヴェルトさんと行ったのはデートではなく…ちょっとした街の視察だったんですよ!」
「へぇ?」
「聖女たるもの、街の様子を見て人々の声に耳を傾けるのも仕事ですからね」
なんとか乗り切った!これは素晴らしい言い訳だろう。小手先の嘘を吐ききって安心したセラフィーナに、フランカは容赦なく言葉のナイフを突き立てた。
「…セラフィーナ様、これはなんですか?」
パラパラと、モノクロの写真が映し出された。そこに写っていたのは、手を恋人繋ぎにして歩いているセラフィーナ達。記憶をビジョンにする魔術で生み出された映像を撮ったものだ。
「……これは……!」
「紛れもない証拠写真よ。パパに私の記憶をビジョンにして貰って撮ったもの。街の人からも証拠を集めてるし、私の言いがかりなんて言わせないわよ」
鋭く、的確にセラフィーナの嘘を叩き割った。嘘が破られた聖女は、今にも泣き出しそうな程に涙目になっていた。彼女の性格というかなんというか、嘘がバレた時のショックがとてつもなく大きいタイプなのである。
「……認めます。貴女の言う通り…視察ではなく、アルヴェルトさんとデートに行っていました」
「そう。…それが聞けて安心したわ」
フランカは父から受け取った写真を懐に戻すと、ふん、と軽く鼻息を上げて席から立ち上がった。それから、軽く手のひらをパーに開いて、思いっきり振り下ろした。
バシンッ!!
「っ……」
「アンタ、サイテーの女ね」
強烈なビンタ。聖女に危害を加えようとすれば、即座に守りに来る従者二人も、この攻撃だけは防ぐ事が出来なかった。防ごうと思えば防げただろう。けど、精神がそうはさせなかった。
「……申し訳…ありません…」
「別に良いわよ。私はもうスッキリした。…アンタのこと、パトリツィオ様がどう思うかは知らないけど」
そう言って、フランカは元きた道を優雅につかつかと歩いて行った。セラフィーナは、そんな彼女の背中を呆然としながら見つめ続けるしか無かったのだった。きっとフランカは、これからパトリツィオの所に浮気の旨を伝えるだろう。彼は、どう思うだろうか。セラフィーナは胸が恐怖で詰まるのを、感じるのだった。
「こんにちは、デュジャルダンさん」
「ええ、こんにちは。セラフィーナ様」
彼女は居間に入るなり、いつものように力強い足取りでずんずんと押し入った。セラフィーナが座るように促すなり、どかっと叩きつけるように席についた。
「髪をお切りになったのね?」
「はい。少々伸びすぎてしまったものですから」
「ふーん…」
まあなんでも良いけど…と言った具合に、出されたお茶をぐいとひと息に飲み干した。それから、偉そうに足を組んでセラフィーナの方を向いた。
「今日はお話があって来たの。聞いてくださいます?」
「もちろん。それも聖女の務めですから」
「では…率直に聞くけど……貴方、あのバカ騎士…アルヴェルトとデートしていたわよね?」
「…ええ…それが……?」
「貴方、パトリツィオ様の婚約者じゃなかったの?」
「……っ!」
迂闊だった。パトリツィオの婚約者という身分でありながら、アルヴェルトとデートを行う。それが何を意味するのか、セラフィーナは全く考えていなかったのだ。
言うなれば、浮気。パトリツィオを誰よりも想っているフランカには、一番許せない不貞行為だ。呆気に取られたセラフィーナに、フランカは力強く畳み掛ける。
「おかしいでしょう?パトリツィオ様は本気でセラフィーナ様を愛してた!だから私も身を引こうと思ってた!…それなのに貴女は、他の男と遊びに行く女だったの!」
「……そ、それは…」
「ハッ、どの口で私にご高説垂れてたのかしら。淫らな女の方がどうとか?貴女の方がよっぽどじゃない!」
フランカの怒りの声は、屋敷の中にいる従者達にも聞こえていた。特に近くで聞いていたアルヴェルトは、顔を下げて、黙り込むより他に無かった。
「……そ、その、フランカさん。アルヴェルトさんと行ったのはデートではなく…ちょっとした街の視察だったんですよ!」
「へぇ?」
「聖女たるもの、街の様子を見て人々の声に耳を傾けるのも仕事ですからね」
なんとか乗り切った!これは素晴らしい言い訳だろう。小手先の嘘を吐ききって安心したセラフィーナに、フランカは容赦なく言葉のナイフを突き立てた。
「…セラフィーナ様、これはなんですか?」
パラパラと、モノクロの写真が映し出された。そこに写っていたのは、手を恋人繋ぎにして歩いているセラフィーナ達。記憶をビジョンにする魔術で生み出された映像を撮ったものだ。
「……これは……!」
「紛れもない証拠写真よ。パパに私の記憶をビジョンにして貰って撮ったもの。街の人からも証拠を集めてるし、私の言いがかりなんて言わせないわよ」
鋭く、的確にセラフィーナの嘘を叩き割った。嘘が破られた聖女は、今にも泣き出しそうな程に涙目になっていた。彼女の性格というかなんというか、嘘がバレた時のショックがとてつもなく大きいタイプなのである。
「……認めます。貴女の言う通り…視察ではなく、アルヴェルトさんとデートに行っていました」
「そう。…それが聞けて安心したわ」
フランカは父から受け取った写真を懐に戻すと、ふん、と軽く鼻息を上げて席から立ち上がった。それから、軽く手のひらをパーに開いて、思いっきり振り下ろした。
バシンッ!!
「っ……」
「アンタ、サイテーの女ね」
強烈なビンタ。聖女に危害を加えようとすれば、即座に守りに来る従者二人も、この攻撃だけは防ぐ事が出来なかった。防ごうと思えば防げただろう。けど、精神がそうはさせなかった。
「……申し訳…ありません…」
「別に良いわよ。私はもうスッキリした。…アンタのこと、パトリツィオ様がどう思うかは知らないけど」
そう言って、フランカは元きた道を優雅につかつかと歩いて行った。セラフィーナは、そんな彼女の背中を呆然としながら見つめ続けるしか無かったのだった。きっとフランカは、これからパトリツィオの所に浮気の旨を伝えるだろう。彼は、どう思うだろうか。セラフィーナは胸が恐怖で詰まるのを、感じるのだった。
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