84 / 92
82話 不思議な古本屋
しおりを挟む
「ごめんなさい。アルヴェルトさんの買いたいものを買う事が出来なくて…」
「良いって。チャールズを連れて来なかった俺が悪い」
マーケットのベンチに座って、ひと休みするセラフィーナ達。平日でも人通りが止むことは無く、多くの人があちこち行き交って買い物や仕事に勤しんでいる。
「ですが……」
「気にすんなって。チャールズの買い物はついでだしな。今はセラフィーナ様と一緒にいられるだけで満足さ」
ふいに、アルヴェルトの手が、セラフィーナの手に軽く触れた。優しく重ねられた手を、聖女は嬉しそうに重ね返した。
「…ありがとうございます。気を取り直して、次に行きましょうか」
「おう!…さて、次は何するんだったかな」
デートプランは一応決まってこそいるが、パトリツィオのそれに比べると割と大ざっぱに決められている。というのも、どこで何をする…と決めているといつもの勤務時と同じ状態になってしまって、気が休まらないのである。
次のプランは、適当にマーケットでお買い物。つまるところ、商店街の散歩である。
「買い物か…さっきは俺のしたい買い物に付き合ってもらったし、次はセラフィーナ様のしたい買い物に付き合うぞ」
「良いんですか?」
「ああ。アクセサリでもなんでも、好きな物を買いに行こう」
「…ふふ、わかりました」
でもって、いい感じのムードのまま、セラフィーナのお買い物に付き合う事になる。マーケットを二人で歩き、やってきたのは、とても綺麗とは言い難い古い本屋。
「本屋…だよな。良いのか?図書館に大体の本は置いてあるだろ?」
「はい。確かに殆どの本はあの図書館にありますが…私は私で、自分用の本が欲しいんです」
「なるほど……」
セラフィーナが読書大好きなのは知っていたが、自分用の本が欲しいとはかなりの読書好きである。まあ、セラフィーナの部屋から図書館まで結構遠いというのもあるだろうが。
「いらっしゃい…」
店内は薄暗く、いかにもな老舗だった。綺麗に掃除されてこそいるが、材質自体は今にも限界を迎えようと言わんばかりに古ぼけた木材で作られていた。
「こんにちは!魔道本を探したいのですが、置かれていますか?」
「ええ、置いていますよ…」
店主であろう老婆に連れられるまま、店の奥へと案内される。古い本ともなると皮はだいぶボロボロで、手に取るだけでパラパラと皮の一部が剥がれ落ちてしまう程だ。
「こちらの魔道本などいかがでしょう…」
「ありがとうございます。…どれどれ」
本を開いてみると、書いてあるのはまさかの古代文字。
古代文字が使われていたのは、およそ三百年前、シンフォニア王国が建国された頃の時代。当時は魔物との抗争が激しく、ほとんどの書物が消失してしまった。更に当時生きていた人達も正確な読み方を後世に伝えられなかったため、
文学にある程度精通しているセラフィーナも、流石に古代文字で書かれた代物はお手上げである。
「おおおっ…こ、古代文字の本…!」
「なんて書いてあるんだ…?全く読めないぞ…?」
「すみません…僕…私も読めません…」
「ま、マジかよ……」
「うちにある魔導本はそれくらいでしてねぇ…」
老婆は辛そうに腰をさすりながら、ぎっちらと音を立てる木の椅子に座った。そして値踏みするかのように、二人の背中を鋭い視線で見つめた。
「それでよろしければ、購入なさいますかい?」
「ど、どうしましょう…」
読めないものを買ったって仕方ないのだが、彼女が魔道本を欲しがったのにはもちろん理由がある。その理由は、もちろんアルヴェルトも理解している。
「その本に例の強化方法が載ってるかもしれないし…解読してみる価値はあるんじゃないか?」
「そう…ですよね。もしかしたら古代の魔法の中には方法が残ってるかもしれません。これ、買います!」
「ふぉふぉふぉ、そうかい?毎度あり…」
「ところで…お値段は?」
「まぁ、そんなふるっちい本なんて使い道が無いし10ゴールドで良いかねえ」
「え?そ、それで良いんですか……?」
確かに、解読できなければ使い道のない本なのだが、10ゴールドというのは流石に安すぎである。これでは処分レベルの値段だ。二人が戸惑っていると、老婆はトントンと机を叩いた。
「ほら、買うなら早くお金置きな。私ゃ気が短いんでね」
「あ、は、はい!」
「ほい、毎度あり」
慌ててお金を置くと、それをすーっと自分のポケットに突っ込む。不思議な雰囲気を感じる女性を後目に、セラフィーナ達は店を後にすることにした。
「あ、ありがとうございました!」
「ほいほい」
はよいけー、と言った感じで手を振る老婆。二人は本を持ったまま、再びマーケットの道へと繰り出して行くのだった。
「良いって。チャールズを連れて来なかった俺が悪い」
マーケットのベンチに座って、ひと休みするセラフィーナ達。平日でも人通りが止むことは無く、多くの人があちこち行き交って買い物や仕事に勤しんでいる。
「ですが……」
「気にすんなって。チャールズの買い物はついでだしな。今はセラフィーナ様と一緒にいられるだけで満足さ」
ふいに、アルヴェルトの手が、セラフィーナの手に軽く触れた。優しく重ねられた手を、聖女は嬉しそうに重ね返した。
「…ありがとうございます。気を取り直して、次に行きましょうか」
「おう!…さて、次は何するんだったかな」
デートプランは一応決まってこそいるが、パトリツィオのそれに比べると割と大ざっぱに決められている。というのも、どこで何をする…と決めているといつもの勤務時と同じ状態になってしまって、気が休まらないのである。
次のプランは、適当にマーケットでお買い物。つまるところ、商店街の散歩である。
「買い物か…さっきは俺のしたい買い物に付き合ってもらったし、次はセラフィーナ様のしたい買い物に付き合うぞ」
「良いんですか?」
「ああ。アクセサリでもなんでも、好きな物を買いに行こう」
「…ふふ、わかりました」
でもって、いい感じのムードのまま、セラフィーナのお買い物に付き合う事になる。マーケットを二人で歩き、やってきたのは、とても綺麗とは言い難い古い本屋。
「本屋…だよな。良いのか?図書館に大体の本は置いてあるだろ?」
「はい。確かに殆どの本はあの図書館にありますが…私は私で、自分用の本が欲しいんです」
「なるほど……」
セラフィーナが読書大好きなのは知っていたが、自分用の本が欲しいとはかなりの読書好きである。まあ、セラフィーナの部屋から図書館まで結構遠いというのもあるだろうが。
「いらっしゃい…」
店内は薄暗く、いかにもな老舗だった。綺麗に掃除されてこそいるが、材質自体は今にも限界を迎えようと言わんばかりに古ぼけた木材で作られていた。
「こんにちは!魔道本を探したいのですが、置かれていますか?」
「ええ、置いていますよ…」
店主であろう老婆に連れられるまま、店の奥へと案内される。古い本ともなると皮はだいぶボロボロで、手に取るだけでパラパラと皮の一部が剥がれ落ちてしまう程だ。
「こちらの魔道本などいかがでしょう…」
「ありがとうございます。…どれどれ」
本を開いてみると、書いてあるのはまさかの古代文字。
古代文字が使われていたのは、およそ三百年前、シンフォニア王国が建国された頃の時代。当時は魔物との抗争が激しく、ほとんどの書物が消失してしまった。更に当時生きていた人達も正確な読み方を後世に伝えられなかったため、
文学にある程度精通しているセラフィーナも、流石に古代文字で書かれた代物はお手上げである。
「おおおっ…こ、古代文字の本…!」
「なんて書いてあるんだ…?全く読めないぞ…?」
「すみません…僕…私も読めません…」
「ま、マジかよ……」
「うちにある魔導本はそれくらいでしてねぇ…」
老婆は辛そうに腰をさすりながら、ぎっちらと音を立てる木の椅子に座った。そして値踏みするかのように、二人の背中を鋭い視線で見つめた。
「それでよろしければ、購入なさいますかい?」
「ど、どうしましょう…」
読めないものを買ったって仕方ないのだが、彼女が魔道本を欲しがったのにはもちろん理由がある。その理由は、もちろんアルヴェルトも理解している。
「その本に例の強化方法が載ってるかもしれないし…解読してみる価値はあるんじゃないか?」
「そう…ですよね。もしかしたら古代の魔法の中には方法が残ってるかもしれません。これ、買います!」
「ふぉふぉふぉ、そうかい?毎度あり…」
「ところで…お値段は?」
「まぁ、そんなふるっちい本なんて使い道が無いし10ゴールドで良いかねえ」
「え?そ、それで良いんですか……?」
確かに、解読できなければ使い道のない本なのだが、10ゴールドというのは流石に安すぎである。これでは処分レベルの値段だ。二人が戸惑っていると、老婆はトントンと机を叩いた。
「ほら、買うなら早くお金置きな。私ゃ気が短いんでね」
「あ、は、はい!」
「ほい、毎度あり」
慌ててお金を置くと、それをすーっと自分のポケットに突っ込む。不思議な雰囲気を感じる女性を後目に、セラフィーナ達は店を後にすることにした。
「あ、ありがとうございました!」
「ほいほい」
はよいけー、と言った感じで手を振る老婆。二人は本を持ったまま、再びマーケットの道へと繰り出して行くのだった。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる