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65話 専属メイドちゃん

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フィン・ジェ・アウローラとの対決を決めた翌日。さっそくだが、自分を探りに来た探偵を迎え撃つ…

のではなく、先にもうひとつの案件を片付けなくてはならない。まずはそちらを終わらせる方からスタートする。いつものように着替えを済ませて、ルーチェを呼ぶ為のベルを鳴らした。

「お、おはようございます、セラフィーナ様…(裏声)」

「あら、アルヴェル子さん!どうしたんですか?可愛い格好で。試験は昨日で終わりでは無かったのですか?」

どことなく嬉しそうなセラフィーナに辟易しつつ、アルヴェル子はしぶしぶ伝えた。

「昨日だけだと短いとかなんとか言われて…今日も貴女の専属メイドとして…す、過ごせと言われたので……」

「なーるほどぉ!そうでしたか。ではお願い致しますね!」

「は、はい……(裏声)」

アルヴェル子ちゃん作戦二日目。ルーチェはセラフィーナが取り決めた探偵との対決の為に色々裏で手を回してくれているらしい。ので、その埋め合わせに今日はアルヴェル子が専属メイドをやるという訳だ。

「では行きましょうか!本日の予定はどうなっていますか?」

「ええと…午前が騎士団の視察で、午後が自由時間の様ですね」

「ありがとうございます。では、朝食を済ませたら騎士団へ参りましょう!」

「は、はい…(い、いやだぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!)」

アルヴェル子ちゃんにとって1番行きたくないであろう騎士団の視察。よりにもよってこの日にやる羽目になるなんて…と思っていたが、多分これもルーチェの罠の一つである。恐るべし。









騎士団は近いので、いつものように徒歩。メイドのアルヴェル子ちゃんを連れて、てくてくとセラフィーナは歩いていく。

「アルヴェル子さん、隣を歩いても大丈夫ですよ?」

「そ、そういう訳には……」

街の人々の視線は、いつもよりセラフィーナ達に集まっている。先日、セストがうっかり情報を漏らしてしまったせいだろう。皆、可愛いメイドを見ては色々な反応を示している。

「(あれがあのアルヴェルトなのか…?…なんか、すっかり牙を抜かれた子犬って感じだぞ……)」

「(流石はセラフィーナ様ね…あの猛犬をも飼い慣らして女の子にしちゃうなんて…)」

本人はバレないように必死に願っているが時すでに遅し。可哀想である。あっという間に騎士団へと辿り着き、門から中に入ろうとしたその時だった。

「せ、セラフィーナ様…俺外で待ってて良いかな…」

「それはちょっと困りますね…私一人だと騎士団の中はよく分かりませんし…」

「…ぐぬ…わ、わかりました……」

「大丈夫ですよ。アルヴェル子ちゃんは可愛いですから、皆気付きませんって」

むしろ逆である。騎士団の皆にこそ、彼女の存在はより深く知れ渡っている。中に入るなり、二人を見て騎士団全員がザワザワとざわめきたてる。

「せっ!セラフィーナ様!おはようございます!」

「はい、おはようございます」

騎士一人一人に、きちんと笑顔で対応。嬉しそうに挨拶しまくる彼女とは対称的に、誰かに会う度どんどん縮こまっていくメイドちゃん。

「アルヴェル子さんも挨拶して良いんですよ?」

「こ、こんな格好で挨拶出来っかよ恥ずかしい…!」

「そ、そうでしたか…」

セラフィーナは改めて、世間一般の女装に対するイメージの悪さを痛感した。彼はどちらかと言うと、女装している自分が恥ずかしくてたまらないようだ。騎士団を進んで行くと、見覚えのある人と鉢合わせた。

「おお、これはセラフィーナ様!」

「(げげっ!騎士団長のオッサン…!?)」

「ボルツィさん!今日は視察にやって参りました」

「おお!そうでしたか!それなら、どうぞ好きなだけ見てやって下さい。騎士達も喜びますゆえ!」

「ありがとうございます!」

「(…アルヴェルトの奴、向こうでも楽しくやれてるようだのう…)」

ボルツィは女装して顔真っ赤にしているアルヴェルトちゃんを見て、しみじみと感慨に耽るのだった。

王都騎士団は、部隊別に別れ、剣術の鍛錬と魔術の訓練を行っている。一般市民の就職先でもあるので、個々人の才能に合わせて配属先は振り分けられている。

魔術の才能が無ければ、剣の部隊。
剣の才能が無ければ、魔術の部隊。
どちらの才も無ければ、後方支援。

後方支援部隊は給料は安いが危険が少ないので、多くの人物が所属している。そこから才能を見出すか、努力を重ねることで配属部隊が変わり、給与も上昇するシステムとなっている。

聖女達が見学に来たのは魔術部隊。行っているのは、木偶の坊に向かって魔術をぶつける、シンプルな訓練だ。聖女が見に来たからか、騎士達もいつもより張り切って魔術の訓練を行っている。

「おおおっ!聖女様がこっちみてる!」

「聖女様ー!俺の魔術見ててくださーい!」

とまあ、大人気である。アルヴェル子ちゃんは納得いかないのか、むすーっと膨れながら聖女の前に立って野郎共にガンを飛ばしている。

「(…ぐ、ぐぬ……)」

「…すみません、少し失礼しますね~」

「あ、行っちゃうんですかー!?」

残念そうな騎士団の皆さんに背を向けて、一旦アルヴェル子ちゃんと二人きりになれる場所へと避難する。やってきたのは、二人が出会った訓練所近くの自然地区。

「大丈夫ですか?随分苦しそうですけど…」

「そりゃ、こんな格好してたらな…言いたいことも言いだせねえし辛ぇよ……」

彼はなんとか胸の内を吐露した。生き残るためとはいえ、かなりの恥を忍んでいるはずだ。

男らしい。女らしい。というのは本来、自己を確立するためのアイデンティティでもある。それを打ち砕かれれば、一般人は自己を抑圧され、凄まじい負荷がかかる。

女の子を目指していたセラフィーナにとっても、それは痛いほどよくわかる苦痛の一つであった。

「……そうですね。では、女装なんてやめてしまいましょう!」

「えっ!?い、いや…それは……」

「ルーチェさんには私が話をしておきます。貴方が嫌がってるのに、強要するなんて雇い主のする事ではありません」

けど……アルヴェルトは言い淀んだ。専属騎士になる為の最後の試験がこれなのだ。もし不合格判定を貰えばどうなるか。死にたくない。その想いが頭を駆け抜けた。

「…けど…俺は……」

「…なんでしょう?お聞きしますよ?」

「……いや、これは…」

「良いんですよ。私は誰も告げ口したりしません。言いたいこと、ハッキリ言ってください?」

「……わかった…」

アルヴェルトは、自身の思っていることを全て話した。専属騎士になる為、恥を忍んで任務を受けたこと。自分の凶暴性を抑える為に、この任務を続けている事。そして、専属騎士になれなければ、死刑が確定することを。

「……そう、だったんですね」

いつも死に見張られている。そんな事があったなんて、思いもしなかった。いつも元気で明るく振舞っていた彼に限って、そんな事は無いと思っていた。

「……ふふ。じゃあ、尚更女装なんて必要ありませんよ」

「え…?」

「ルーチェさんは貴方が、皆に怖がられないように女装させたんですよね」

「あ、ああ……」

「だったら、もう目的は充分果たせていると思いますよ。街の人々がどんな顔をしてこっちを見てたか、思い出してください?」

「顔を……?顔…まさか…?」

もんもんと顔を思い出す。そう言えば、皆珍妙なものでも見るかのような顔をしていたような…?ま、まさか……

「ええ。皆さん、とっくに気付いていたんですよ。アルヴェル子さんが女装していたってことに」

「う、嘘だろーっ!?///」

顔を真っ赤にして、ぼふんと煙を上げる。恥ずかしさに耐えきれなくなり、手で顔を隠してその場にうずくまってしまう。
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