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63話 恐るべき強敵

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「………」

アルヴェルトは憤慨していた。理由は言うまでも無いだろう。女の子の格好して、皆の前を馬でパッカパッカ歩いているからである。ましてや、セラフィーナ様は大人気の聖女様。馬車が通るだけで色んな人がこちらを見てくるのだ。

「あれ?いつもの騎士様じゃないねぇ。にしても、めんこい子じゃのう」

「あー見て見て!セラフィーナ様の所のメイドさん可愛いー!」

「うおっマジだ!イケメン女子って感じ!」

で、この皆の反応。自分がアルヴェルトだと気付いていないらしい。しかも、かわいいかわいい言われまくっている。もう彼の心は恥ずかしさと情けなさでパンパンであった。南無三。

「(くっそー…すげぇ恥ずかしい…せめて知り合いだけは来ないでくれよ…)」

しかし、そういう時に限って知り合いというものはやってくるものである。前方からやってくるのは、街の見回り中であろう、大親友のセスト・パリージくん。

「(げぇっ!?セスト!や、やべぇ、他に細道は……無い…!このまま通り過ぎるしかねぇ…!)」

「(おっと、聖女様の馬車か。道を譲らねばな……ん?)」

チラッと横を通り過ぎる時に、馬を引く見知らぬメイドに視線が向いた。黒のつややかな髪。鋭い目付き。まるで我が親友のような顔付き…

……に、見覚えのあるガチガチの筋肉質。

「(ん?お?え?…はァァァァ!?)」

────カラァーン!!

驚きのあまり、剣を手元から落とす、王都騎士団らしからぬ醜態を皆に晒してしまう。しかしそれよりも、彼の頭の中は今の筋肉メイドでいっぱいであった。

「団長!どうなさいましたか!」

「……い、今の……メイドだ」

「はっ、聖女様の馬車のメイドですか?それが如何なさいましたか?」

「…今のメイド……女装したアルヴェルトだ!!」

「「「「え……ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」」」」













街の人々がアルヴェル子ちゃんのことで大騒ぎしていた頃。聖なる泉からそこそこ離れたところにある本部に、馬車は到着した。本部は大聖堂であり、中には巨大な聖女の石像が祀られている。

「(評判はまずまずって所ね)…アルヴェル子ちゃん。馬車の見張りよろしくね?」

「お、おう……」

という訳で、セラフィーナ達が大聖堂へと入っていく。一人残されたアルヴェル子ちゃんは、誰にも見られないように隅っこの方で縮こまる事にした。

「(な、なんだよこれ…すげえ恥ずかしいぞ……///)」

どうか誰も来ませんように。必死にお祈りするアルヴェル子。しかし現実は非常である。軽やかな足取りで、大聖堂の前に一人の少女が姿を現した。

「ここなら、セラフィーナ様もいらっしゃいますかねぇ…」

「(ん?…あっ、この前の探偵様じゃないか…!?)」

これはまずい。探偵に正体を勘づかれたら、街に噂が流れまくって俺の人生終わるかもしれない。とっくにセストくんが広めちゃってるけどね。慌てて隠れようとするが、馬車番の手前、逃げる事も敵わない。やがて目に止まった彼に、流れるように声をかける。

「すみません。そこのメイドさ……メイドさん?」

「あっ、はっはいそうですが(裏声)」

「良かった。私はてっきり…あ、いえ。なんでもありません。セラフィーナ・ラガザハート様はこちらにいらっしゃいますか?」

「はい、私がおつきの人なので…今、中でお話してるますよ…(裏声)」

「そうでしたか。あの、ここで待たせて頂いてもよろしいですか?」

「あ、あー…良いと思いますよ多分(裏声)」

こういう客はおっぱらえとルーチェにしつこく言われていたのだが、女装して動揺していたのに加えて、セラフィーナ達も会うのを承諾していた探偵の少女であったので、仕方なしに横に座らせる事にした。

「ありがとうございます。よっこいしょ…」

彼女は座るなり、手に持っていた本を開いて読み始める。アルヴェル子は暇なので、どんな本を読んでいるのかチラッと横目で覗くことにした。

『ですから犯人は……女装して……』

「(なるほど、探偵らしく推理小説を読んでるって事か。仕事熱心だな…)」

しかしアルヴェル子は少し妙な単語が目に止まった。女装して、というのは今の自分にぴったりな言葉ではないだろうか。

「気になりますか?私の小説」

「えっ!?ぁ、は、はい…(裏声)」

一瞬、素の声色で返事をしてしまった。そして、目の前の探偵はそれを見逃さなかった。ふふっと得意げに笑って、けれど何も言わず、小説をこちらに傾けた。

「途中からですが、良ければご一緒にお読みください。私のペースで読みますが、そこはご了承ください」

「は、はい……」

それから、ペラペラと紙をめくる音だけが数分間続いた。読み物をしながら、唐突にフィンは彼に声をかけた。

「ドラゴラッジさん、推理ってお好きですか?」

「推理?いや、俺はそんなに考え事とか好きじゃな……あっ!?気付いてたのか…!?」

あっさりと見抜かれてしまった。フィンは静かに微笑むと、パタンと読んでいる本を閉じた。

「はい。ひと目見た時は確信が持てませんでしたが、先程の声を聞いて。わかりやすかったですよ」

「ぐ……凄いな…流石は探偵様だ……」

「貴方を知ってる人なら誰でも辿り着く結論ですよ。目の前の事実に疑問を抱き、事実を真実で照らす。パズルのように推理は楽しめるんですよ」

「ほぉー、そうなのか…パズルも苦手だなあ…俺…」

「あはは。向き不向きはありますからね。なにか知りたい事があった時、推理をすると面白い位に考えておくと良いですよ」

「おう……じゃあ、アレか?探偵様がセラフィーナ様に会いたがってるのも、その推理のためなのか…?」

探偵はピッと指を弾いた。

「鋭いですね。貴方の言う通りです。セラフィーナ様にひとつ、聞いてみたい事があるんですよ」

なーるほど。それであちこち聞いて回っていた訳か。アルヴェル子が納得すると同時に、大聖堂の扉が開いて、話を済ませたであろう二人が歩いて来た。

「お待たせしましたー。あれ?そちらの方はもしかして?」

「あっ、はい、ええと、探偵のアウローラさんです(裏声)」

「やっぱり!お元気でしたか?」

「はい。元気でしたよ。貴女を探していまして…大聖堂にいらっしゃるのではないかと思って来てみたのですが、見事ビンゴでした」

嬉しそうに、探偵は聖女と握手を交わす。クラウディアから聞いていた旨を伝えると、フィンはそれはそれは嬉しそうに笑った。

「本当ですか?良かった~…直接行って不審がられないか不安でしたが、クラウディア様に伝えて頂いたのなら何よりです」

「それで、どうして私に会おうと?」

「実は、セラフィーナ様にどうしても聞きたいことが一つあったんです」

聞きたいこと?と専属メイド共々に首を傾げる。果たしてどんなことを聞くのだろうか。楽しみ半分、不思議半分でいたセラフィーナに、とんでもない質問が投げかけられるのだった。






「凄い失礼なのですが……セラフィーナ様、実は男性なのではありませんか??」
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