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61話 女の子らしく

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クラウディアと楽しくお茶会したのももう先日、いつも通りの日常へと戻ってきたセラフィーナ。いつものように着替えを済ませ、ルーチェに本日の予定を伺う。

「今日は丸一日使って、女の子らしさを磨きましょう。結界を強化するのは、しばらくはシンフォニー・ハートで事足りるでしょうから」

「お、女の子らしさ?具体的にはどういう…?」

「率直に言っちゃうと、アンタは動作の一つ一つに男の雰囲気が残ってるのよ。私が言うのもなんだけど、女性として違和感を覚えるくらいにはね」

「えっ、そ、そうかな…自分では隠しきってるつもりなんだけど…」

「今の自分の座り方見てみたら?」

セラフィーナはそう言われて、ソファに腰掛ける自分を見てみた。言われてみれば、大股開いてドスンと力強く座っている。正面からパンツ丸見えなこの体勢は、確かに女の子のするような姿勢ではない。慌ててふとももぴちっとあわせるが、これが癖になってるのは流石にまずいだろう。

「ま、そういうわけです。端正プランは用意してありますから、練習していきましょう」

「は、はい…」







というわけで、女の子らしくなるための特訓その1。水がいっぱいに詰まった水瓶を用意して、セラフィーナの前にどーんと鎮座させる。

「ルーチェさん、これをどうするんですか?」

「持ち上げてみて下さい。勿論、めちゃ重いですから持ち上がらなくてもOKです」

「持ち上げる…って、女の子らしさに関係あるんですか…?」

「いいからやってください」

ニッコリ微笑む。この笑顔をされるとセラフィーナは辛い。やってみるかー、と軽く肩を回してから、ぐっと水瓶に両手をかける。

「ふんっ…!」

フルパワーで一気に引っ張る!…が、しかし、セラフィーナの筋力では満杯の水瓶は流石に持ち上がらない。こんなの無理だよー、と思っていたが、ルーチェが見ていたのはそこでは無い。

「セラフィーナさん、ここでストップです」

「はえ?は、はいっ!?」

石像のようにストップ。ルーチェはセラフィーナに近付くと、太ももに触れた。

「まずこちら、脚のポージングが完全に男ですね。ガニ股で物を持ち上げるなんて淑女としてはしたないですよ」

「た、確かに…!でも、どうやって持ち上げるのが良いんですか?」

「脚は肩幅くらいに閉じて…抱えるようにして持ちましょう。でもって、すっくと立ち上がります」

まるで風船でも掴んでいるかのように、満杯の水瓶をあっさりと持ち上げてしまう。確かにシュッとしていて女性っぽい気もするが、凄まじい怪力はなんかその説得力が損なわれている気がしないでもない。

「凄いですね…ルーチェさん、私より男らしいかも…」

「貴女のボディーガードも兼ねてますから、これくらいはね」

水瓶を床に置いて、セラフィーナの再チャレンジ。ルーチェのように足を閉じて、女の子っぽく持ち上げることに意識する。

「ふっ…!」

「その調子です。男らしいポーズから少しでも離れるように動きましょう」

「はいぃ…!」

持ち上がらないとはいえ、このポーズを持続させるのは難しい。息が上がってきた所で、ふらりと助け舟がやってきた。我等が専属騎士、アルヴェルト君である。

「お?なんだなんだ?セラフィーナ様が特訓なんてするのか?」

「あら、アルヴェルト君。ええ、セラフィーナ様が運動不足だと申すので」

「へえー。それで水瓶運びか。懐かしいな、騎士団の頃はよくやったぜ、これ」

「えっ?そうなんですか?」

「ああ。これをこうやって肩で持って、走る訓練だ。流石に辛いのか、俺以外は皆バテてたな」

今度はアルヴェルトが、それはそれは気楽そうに水瓶を肩で担いだ。おおーっ、と拍手を贈るが、セラフィーナは思った。この人達が当然のように持ち上げているそれを、自分はどんなに頑張っても、微塵も浮かびさえしないのだ。

「(な、なんだか男として情けない気がしてきたなぁ……)」

男の子として情けなさを感じ、セラフィーナの女の子力が相対的に1上がった。












でもって二つ目。今度は女の子らしさを鍛えるべく、厨房へとやって来る。料理人の皆さんの許可を得て、昼食の調理のお手伝いをすることになった。

「セラフィーナ様が直々に料理をなさるなんて…」

「助かるわねー!流石は私達の聖女様だわ!」

とまあ、なんやかんや言われているが、セラフィーナはそんなに料理が出来ない。不安そうな彼女を宥めるように、ルーチェは柔らかい口調で言った。

「大丈夫です。貴女の癖を見るだけですから。料理の出来不出来自体は問いません」

「わ、わかりました…普通に料理すれば良いんですよね?」

「はい。調理の仕方は私が指示します。貴女は言われた通り、お願いします」

「わかりました!」

というわけで、ハチマキ締めて料理にチャレンジ。トントンと気味の良い音を立てながら、包丁で野菜を刻んでいく。ここまでは順調だが、問題は硬い部分に当たった時だ。

「ふんぬぬっ…」

ずどん。

「ぐぬっ…!」

ずどん。

重々しい音を立てながら、包丁を力任せに叩きつけるセラフィーナ。これでは、淑女としての威厳も何処吹く風である。

「セラフィーナさん、お気付きですか?」

「は、はいっ…その、どうしても力んじゃって…」

「大丈夫です。力を入れることは間違っていません。ですが、貴女は動作が大きいんですよ。パワータイプの男性みたいに」

「ぱ、パワータイプッ!?」

言われてみれば確かに、パワータイプな動きしてる。根本的な「男性」が抜けきれていない証拠だろう。

「これでは、疑われても仕方ないですね。ですから、この動作の端整を頑張りましょう。入れる力は軽く、引いて斬る感じです」

「わかりました。ふっ…!」

すとん。綺麗に刃が下まで通る。なるほど、なんとなくルーチェの言いたいこともわかった気がする。

「ふふ、その調子ですよ」

そんな訳で、パワータイプな動作の端整を頑張っていく。形だけでも、可愛い女の子に近付いていかなくては。ルーチェとの特訓は続き、彼女はどんどん女の子らしさポイントを高めて行った。






「はぁ…はぁ……」

「お疲れ様です。これで今日のプランは全ておしまいですよ」

「はい…お疲れ様でした…どうですか、ルーチェさん。私、女の子らしくなれましたか?」

「ええ、相当。頑張りましたね、セラフィーナさん」

部屋に戻って、二人で休憩。特訓の甲斐あってか、男性らしい仕草はだいぶ改善され、だいぶ女性らしい仕草になっていた。なかなかの結果に、ルーチェもひとまず安堵する。

「ですが、せっかく覚えた事も、忘れたら意味がありません。これが癖になるよう、定期的にこの特訓はしていきましょう」

「はいっ、ルーチェさん!えへへ、本物の女の子に教えてもらうと、近付けて来たんだなって実感湧きますね」

そう言って微笑むセラフィーナは、いつもの彼女よりとても可愛らしく見えた。従者はドキリと胸が高鳴るのを感じ取ったが、それを表に出すことは無かった。頑張った彼女を褒めるように、優しく頭を撫でて、じっと顔を見つめた。

「そうね。ジョット君、本当に可愛い」

「ななっ!?は、は、恥ずかしいよルーチェ…///」

「あら。ちょっと動揺したら素が出ちゃう癖は相変わらずね。まだまだ特訓が必要ね。セラフィーナちゃん」

「も、もー!からかわないでよー!///」


ぷんすこぷんすこ。そんな訳で、女の子らしさを手に入れるための特訓をこれからも行っていくのだった。
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