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49話 探偵帽の少女
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「ところで、気になっていたんですけど…アルヴェルトさんはどうしたんでしょう?」
「…変ですね。セラフィーナ様の危機になれば、真っ先に駆けつけて来るはずですが」
いくら外に待機していたとはいえ、中で騒ぎが起こっていたなら様子見くらいはしに来るはずだ。音沙汰すらないと言うのは流石に変だ。
「…まさか、外で寝てるんじゃないでしょうね…」
「まさか、アルヴェルトさんに限ってそれはありませんよ。探しに行きましょうか」
とにかく探し出して事情を聞いてみなければ。というか、主人のピンチだってのに本当に寝てたんなら即刻解雇である。
「アルヴェルトさーん?」
「…ん?ああ、セラフィーナ様!」
いたいた。いつも通り元気なアルヴェルト君である。ところで、彼の隣で横になって伸びているのはどこの誰であろうか。
「ちょっと、探したのよ。中で大変なことが起こってたんだから…って、なにそれ」
「ああ、こいつの始末をしてたんだ。セラフィーナ様を狙うとか言ってたからな」
地面にぶっ倒れて伸びているのは、一風変わった教会の服を着込んだ怪しい男。この国の僧侶が着ている服を、上から赤黒く上塗りしたような風貌だ。
「アナタは…正教会の神官ではありませんか!?」
「……ぐ…」
「暴れんなって。やっぱり正教会か。って事は暗殺部隊だな」
正教会。名前は聖教会そっくりだが、実ははるか昔から存在する古風の宗教。信仰する神は聖教会と同一だが、信仰する際の内容が、生贄を毎週捧げるだとか、神の試練と称して信者を拷問するとか、過激派すぎて人が集まらず、正教会から内部分離した聖教会に信者の大半を奪われてしまった宗派である。
当然、そんな経緯もあってセラフィーナの所属している聖教会を憎んでいる信者も多数存在する。はるか昔に分離したのに、未だに粘着し続けている為、正直未だに所属していると異常者扱いされてしまう。
「あ、暗殺部隊…!?」
「ああ。聖教会狩りって奴だな。異教徒を弾圧する文化が強いんだ。正教会は。とりわけ聖教会は強く恨まれてるから、専属の暗殺部隊なんかも作るわけだな」
「じ、じゃあ、下手したら殺されてたって訳ですか…!?」
「いやー、それはないんじゃねえか?こいつら雑魚だし」
正直なところ、暗殺部隊と言っても素人に毛が生えた程度。アルヴェルトやルーチェはもちろん、下手したら杖を持った今のセラフィーナにだって勝つことは出来ないだろう。
「それにほら、探偵様や王都騎士団もやってきたみたいだしな。こうなりゃ、正教会は締め上げられて、聖女様に下手に手出しも出来なくなるだろ」
アルヴェルトがチラッと視線をやると、そこには探偵帽を被った少女に、もう一人、現騎士団最強の男、セスト・パリージが部下を連れてやってきていた。
「お久しぶりです、聖女様。ご無事なようで何より」
「あ、パリージさん。こちらこそ、お勤めご苦労様です」
「相変わらず礼儀正しい方だ。アルヴェルトはどうです?専属騎士として上手くやれていますか?」
「はい。彼はよくやってくれていますよ。この正教会の暗殺部隊?も彼がとっちめてくれましたから」
「それは良かった。アルヴェルト、引き続き、聖女様に無礼な事はするなよ」
「わあってるよ。って言うか、早くこいつら連れてってくれ。雑魚とはいえ押さえつけんの面倒だかんな」
「無論すぐに連行しよう。我々はその為にやってきたんだからな」
そんな訳で、正教会のメンバーは王都騎士団に連行されていく。一通り事が済んだところで、セラフィーナはちょっとしたことに気が付いた。
「…そう言えば、あの方は何をしていらっしゃるんでしょうか?」
「ああ、探偵様か?事件が起こると必ず着いて回るんだよ。なんつったっけ。東場現象?ってやつか」
その言葉を聞いて、探偵帽を被った少女はぴくりと反応してこちらにすっ飛んでくる。ぷくーっと膨れ上がった顔で、アルヴェルトをビシッと叱りはじめる。
「違います!現場検証です!間違わないでくださいね、ドラゴラッジさん!」
「あ、お、おう、すまねえ…」
「まったく…間違えられては困ります…あ、自己紹介が遅れましたね。私、探偵のフィン・ジェ・アウローラと申します!」
そうして彼女は敬礼する。人懐っこそうな笑みを浮かべる彼女は、優秀な探偵と言うよりはその助手役が似合いそうな雰囲気である。
「はい、よろしくお願いします。それで、フィンさんはここで何をしてなさっているんですか?」
「先程も申し上げましたが、現場検証です。現場にある証拠なんかを集めて、犯人を特定したり、裁判に使う証拠にしたりします」
「なるほど…頑張って下さいね」
「はい!と言っても、今回はほぼ有罪確定なので私はいらないんですけどね~」
あはははは、と軽快に笑い飛ばす。陽気な雰囲気でとても接しやすいと思ったところで、チラッと時計を見たルーチェは顔を青くした。
「あっ、セラフィーナさん。もうすぐ夕食の時間ですよ!早めに戻らないと!」
「あっ!そ、そうでした!急がないと料理長さんが悲しみます!アルヴェルトさん、超特急で!」
「任された!んじゃ、頑張れよー」
「はーい。三人とも、お気をつけて~」
という訳で、大急ぎで屋敷へと走っていく三人組。探偵帽の少女は軽く手を振り振り、その姿が見えなくなるまで彼女達を見送った。
「……私、探偵として少し奇妙に思ってる所があるんですよ」
探偵帽を深く被り直して、静かに呟く。
「セラフィーナ様、貴方は何者なんですか?」
もう、夕陽で彼女の姿は見えない。
「…変ですね。セラフィーナ様の危機になれば、真っ先に駆けつけて来るはずですが」
いくら外に待機していたとはいえ、中で騒ぎが起こっていたなら様子見くらいはしに来るはずだ。音沙汰すらないと言うのは流石に変だ。
「…まさか、外で寝てるんじゃないでしょうね…」
「まさか、アルヴェルトさんに限ってそれはありませんよ。探しに行きましょうか」
とにかく探し出して事情を聞いてみなければ。というか、主人のピンチだってのに本当に寝てたんなら即刻解雇である。
「アルヴェルトさーん?」
「…ん?ああ、セラフィーナ様!」
いたいた。いつも通り元気なアルヴェルト君である。ところで、彼の隣で横になって伸びているのはどこの誰であろうか。
「ちょっと、探したのよ。中で大変なことが起こってたんだから…って、なにそれ」
「ああ、こいつの始末をしてたんだ。セラフィーナ様を狙うとか言ってたからな」
地面にぶっ倒れて伸びているのは、一風変わった教会の服を着込んだ怪しい男。この国の僧侶が着ている服を、上から赤黒く上塗りしたような風貌だ。
「アナタは…正教会の神官ではありませんか!?」
「……ぐ…」
「暴れんなって。やっぱり正教会か。って事は暗殺部隊だな」
正教会。名前は聖教会そっくりだが、実ははるか昔から存在する古風の宗教。信仰する神は聖教会と同一だが、信仰する際の内容が、生贄を毎週捧げるだとか、神の試練と称して信者を拷問するとか、過激派すぎて人が集まらず、正教会から内部分離した聖教会に信者の大半を奪われてしまった宗派である。
当然、そんな経緯もあってセラフィーナの所属している聖教会を憎んでいる信者も多数存在する。はるか昔に分離したのに、未だに粘着し続けている為、正直未だに所属していると異常者扱いされてしまう。
「あ、暗殺部隊…!?」
「ああ。聖教会狩りって奴だな。異教徒を弾圧する文化が強いんだ。正教会は。とりわけ聖教会は強く恨まれてるから、専属の暗殺部隊なんかも作るわけだな」
「じ、じゃあ、下手したら殺されてたって訳ですか…!?」
「いやー、それはないんじゃねえか?こいつら雑魚だし」
正直なところ、暗殺部隊と言っても素人に毛が生えた程度。アルヴェルトやルーチェはもちろん、下手したら杖を持った今のセラフィーナにだって勝つことは出来ないだろう。
「それにほら、探偵様や王都騎士団もやってきたみたいだしな。こうなりゃ、正教会は締め上げられて、聖女様に下手に手出しも出来なくなるだろ」
アルヴェルトがチラッと視線をやると、そこには探偵帽を被った少女に、もう一人、現騎士団最強の男、セスト・パリージが部下を連れてやってきていた。
「お久しぶりです、聖女様。ご無事なようで何より」
「あ、パリージさん。こちらこそ、お勤めご苦労様です」
「相変わらず礼儀正しい方だ。アルヴェルトはどうです?専属騎士として上手くやれていますか?」
「はい。彼はよくやってくれていますよ。この正教会の暗殺部隊?も彼がとっちめてくれましたから」
「それは良かった。アルヴェルト、引き続き、聖女様に無礼な事はするなよ」
「わあってるよ。って言うか、早くこいつら連れてってくれ。雑魚とはいえ押さえつけんの面倒だかんな」
「無論すぐに連行しよう。我々はその為にやってきたんだからな」
そんな訳で、正教会のメンバーは王都騎士団に連行されていく。一通り事が済んだところで、セラフィーナはちょっとしたことに気が付いた。
「…そう言えば、あの方は何をしていらっしゃるんでしょうか?」
「ああ、探偵様か?事件が起こると必ず着いて回るんだよ。なんつったっけ。東場現象?ってやつか」
その言葉を聞いて、探偵帽を被った少女はぴくりと反応してこちらにすっ飛んでくる。ぷくーっと膨れ上がった顔で、アルヴェルトをビシッと叱りはじめる。
「違います!現場検証です!間違わないでくださいね、ドラゴラッジさん!」
「あ、お、おう、すまねえ…」
「まったく…間違えられては困ります…あ、自己紹介が遅れましたね。私、探偵のフィン・ジェ・アウローラと申します!」
そうして彼女は敬礼する。人懐っこそうな笑みを浮かべる彼女は、優秀な探偵と言うよりはその助手役が似合いそうな雰囲気である。
「はい、よろしくお願いします。それで、フィンさんはここで何をしてなさっているんですか?」
「先程も申し上げましたが、現場検証です。現場にある証拠なんかを集めて、犯人を特定したり、裁判に使う証拠にしたりします」
「なるほど…頑張って下さいね」
「はい!と言っても、今回はほぼ有罪確定なので私はいらないんですけどね~」
あはははは、と軽快に笑い飛ばす。陽気な雰囲気でとても接しやすいと思ったところで、チラッと時計を見たルーチェは顔を青くした。
「あっ、セラフィーナさん。もうすぐ夕食の時間ですよ!早めに戻らないと!」
「あっ!そ、そうでした!急がないと料理長さんが悲しみます!アルヴェルトさん、超特急で!」
「任された!んじゃ、頑張れよー」
「はーい。三人とも、お気をつけて~」
という訳で、大急ぎで屋敷へと走っていく三人組。探偵帽の少女は軽く手を振り振り、その姿が見えなくなるまで彼女達を見送った。
「……私、探偵として少し奇妙に思ってる所があるんですよ」
探偵帽を深く被り直して、静かに呟く。
「セラフィーナ様、貴方は何者なんですか?」
もう、夕陽で彼女の姿は見えない。
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