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55話 クラウディア・ペッロッティ

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「知らないのかセラフィーナ様!?」

「あ、は、はい、知らないです…」

「知らないってアンタ……良いですかセラフィーナさん。クラウディア・ペッロッティと言うのは、この国に駐在する七聖闘の一人ですよ?」

「しちせいと………え、ええええええええええええええええええええええええ!?」

七聖闘。この世界に存在する七つの大きな国に一人ずつ駐在している、聖教会の回し者。国の治安維持に貢献し、重犯罪者に対して国外逃亡ないし暴走への抑止力として働く、間違いなく国内最強の強さを持つ人物の一人だ。

「道理でこんな魔術が構成できる訳ですね……」

「驚かれたようですね。よろしければご案内しましょうか?クラウディア様の所へ」

「え?良いんですか…?」

「工場長はお暇らしくて。本日セラフィーナ様が見学に来ると言ったら是非案内してくれと」

「な、なんと……どうしましょう?」

「(少々不安はあるけど…同業者だし、断るのも悪いわね…)…行って挨拶しておきましょうか。同じ聖教会の仲間ですから」

「……行ってくれ、セラフィーナさん。俺も一つ、確かめたい事がある」

そこでセラフィーナは感じ取った。アルヴェルトが、何か深刻な様子で眉を顰めている事に。何か、覚悟を決めたような様子だったが、それでも行くと決めたかの様な。

「……わかりました。ご案内、お願い致します」

「かしこまりました。こちらに」











案内されて辿り着いたのは、至って普通の、シンプルな木製の扉。これと言って異質な雰囲気がある訳でもなく、工場長のいる部屋と言った感じだ。

「クラウディア様。セラフィーナ様がご到着なされましたよ」

「あいあーい、今でまーす」

フッと小さく物音がしたかと思うと、突然セラフィーナ達の背後に気配が現れる。何かと思って三人が振り返ると同時に、空から思いっきり誰かが飛びかかってきた。

「えええっ!?」

「いらっしゃーい!私の工場にようこそ来てくださいましたー!」

むぎゅっ、という擬音がしそうな程に、三人を背中から思いっきり抱きしめる。それから、とてつもなく巨大な胸部が、むにむにとセラフィーナに押し当たっていた。

「わわっ!?///」

「い、いつの間に……!?」

「うりうり、可愛いのう可愛いのう。聖女様は美人って聞いてたけど、噂以上に可愛いねぇ~」

げへげへげへと笑いながらだらしない顔で三人を抱き寄せるこの者こそ、七聖闘の一人、クラウディア・ペッロッティである。少々露出の高い服と、魔法使いらしい、黒の帽子を携えて、透き通るような橙の髪と瞳で、とてつもなく美人である。

「あ、自己紹介してなかった。私はクラウディアでーす!気軽にクラちゃんって呼んでね!」

「クラウディア様、皆さん困ってますのでまず離れてください」

「はーい…それでそれで!貴女達が聖女様御一行よね!」

「は、はい!聖女のセラフィーナ・ラガザハートです!お付きのルーチェさんに、専属騎士のアルヴェルトさんです!」

「オッケー!覚えた覚えた。…ふーん、君が例のアルヴェルトくん?」

「……ああ」

きらりと、彼女の瞳が魔性の如く光った。たったそれだけで、アルヴェルトは理解した。この女は間違いなく強い。それを完璧に隠しているだけだと。

「…ふむふむ。ま、今はそんな堅苦しい話はどうでも良いんだよね!今の私は工場長、貴方達をご案内するのが先決でーす!」

さあ入った入った、と言わんばかりにグイグイ三人を工場長室に押し込んでいく。さっきまで案内してくれたコック帽の案内人が中に入るなり、扉はひとりでにバターンと閉じる。

「散らかってるけど気にしないでね~」

「は、はい…(気にしないでと言われましても…)」

綺麗な外見とは打って変わって、中はめちゃくちゃに散らかっている。書類が床に散乱し、どこからか届いたのだろう荷包箱が何段も重なっており、そこから溢れ出た書類がまた部屋中に地雷の如く広がっている。もはや足の踏み場さえ無い。流石に不愉快なのか、なんか不満そうなルーチェがくってかかった。

「あの、クラウディアさん。この書類は片さないのですか?」

「あー、うん。私って面倒臭がりでねー、片してもすぐ散らかっちゃうのよ。だから片さない事にしたの」

「(うっ)」

胸を痛めたのは、その台詞を聞いていたセラフィーナ。今は端正したが、彼も小さい頃、よく部屋を散らかしてルーチェに叱られていたのだ。そして全く同じ台詞を吐いた覚えがある。

「ダメじゃないですか。それじゃいざ必要なものが欲しい時に見つからないですよ」

「およよ、そ、そんなに怒らないで欲しいなー、私ってホラ、傷つきやすいから…」

「まさか。いきなりは怒りませんよ。ですが、この部屋はセラフィーナ様を迎えるにはあまりにも品が無いと申しているのです」

それは暗に『片付けろこの野郎』と言ってるのと同義なのだが、もちろんそんな事はその場にいる誰もが即座に理解している。

「うぅ…それを言われると弱い……」

「あ、あの!クラウディアさん!私達もお手伝いしますから、お掃除しませんか!?」

「セラフィーナちゃん……」

セラフィーナもこんな書類まみれではいつどの書類をぶち破るか不安で仕方ないだろう。ここは片付けを提案させて貰うことにする。とはいえ、まだなんかゴネそうな感じがする。そこで、アルヴェルトがとどめの一撃。

「…あーあ…まさか俺の憧れだった七聖闘がこんなズボラ女だったとはな~…」

「…カッチーン!」

スイッチオン。ズボラ女と言われ、図星でブチ切れてしまったようだ。完全にやる気を見せたクラウディアは、ガバッと顔を上げて目を光らせた。それから力強く、バーンと机に片足を乗せる。

「や、やってやろうじゃないかー!私だってこの部屋くらいパパーッと綺麗にしたるわ!」

「決まりですね、じゃあ頑張りましょう」

「うわわっ!?ちょ、ちょっとルーチェちゃん!?私をそんな物みたいに引っ張っ」

そんなわけで、まずは工場長のお部屋掃除から始まるのだった。
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