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53話 八日目の朝
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「ショコラ~、ショコラ~、美味しいショコラ~♪」
嬉しそうに歌いながら、召し物の準備をするセラフィーナ。八日目の朝、本来なら生き残れなかったはずの日を、彼女はじつに清々しそうに過ごしていた。
「カフェ・ド・ショコラの美味しいショコラ~♪」
ひらひらとした薄布で作られたドレスに身を包み、お出かけ用の化粧を済ませたら、お出かけセラフィーナは完成。子供の頃から店頭でよく聞いていた、カフェ・ド・ショコラのテーマソングを歌いながら、ベルを鳴らす。
「おはよう。あら、もうすっかりお出かけムードね。楽しみにしてた?」
「うん、凄い楽しみ!子供の頃からの憧れだからね。ルーチェも楽しみでしょ?」
「そうね。私も楽しみ。あのお菓子がズラっと並んでるなんて想像するだけで…ごくり……」
二人揃って、顔をうっとりさせる。彼女達がカフェ・ド・ショコラの菓子を食べたのは、孤児院に暮らしていた頃。教会を管理する司祭様が買ってくれたのが、このお菓子だったのだ。
『わぁ!司祭様!この綺麗な箱は何!?』
『頂き物だよ。この国で一番美味しい…いや、一番を争うくらい美味しいお菓子さ』
『お菓子ー!?』
『ああ。皆で仲良く分けなさい』
『はーい!』
『あむっ…うわぁ!美味しいー!』
『ジョットのそれちょーだい!』
『あー!ダメ!僕の僕の僕のー!』
「…美味しかったよね~」
「美味しかったわねー…」
またまた二人揃って、よだれをじゅるりと垂らす。ハッとなって、慌ててそれを拭き取り、いつものように取り繕ってから、コホン小さく咳払い。
「す、すみません、貴女の前で粗相を…」
「いえいえ、私こそ油断していました…」
そんな訳で、すっかりお菓子の夢の虜である。夢見心地のまま、ぼちぼち朝食を済ませ、外出の為にアルヴェルトと合流する。
「おはようございます…っと、どうした?セラフィーナ様。随分ご機嫌だな?」
「はい。今日はカフェ・ド・ショコラに向かいますから!」
「あそこに行くのか…!?聖女様ってのは金持ちだなぁ……」
「ふふ、特別な御祝いの日だからですよ。アルヴェルトさんも、向こうで美味しいお菓子を食べましょうね」
「お、お、おう……!?///」
セラフィーナがそれはそれは嬉しそうに笑顔を作るもんだから、彼はまた顔を真っ赤にしてしまっていた。結局なんのお祝いなのか聞きそびれたまま、彼女は馬車に乗り込んでしまった。
「あら、顔真っ赤じゃない。セラフィーナさんになんかされた?」
「あ…ああいや、笑顔で挨拶されただけ……」
「それでそんな顔赤くするなんて、本当にぞっこんなのね…アルヴェルト君、先日の件だけれど」
「……ああ、正教会の件だろ。大丈夫だ、あれからセラフィーナ様に近付いてやろうって考えそうな輩は近くにはいねえよ」
「…良かったわ。彼女の平穏を乱されたらたまらないもの。他にも怪しい奴がいないか、引き続き警戒を頼むわ」
「任せてくれ。…ちっと気になったんだが、なんでアンタ、セラフィーナ様の前だと敬語なんだ?」
「色々あんのよ。理由はまあ…まだアンタには言えないわね」
「そうか……」
アルヴェルトとて、まだ正式に専属騎士に内定した事が決まった訳では無い。クビにした腹いせにセラフィーナを襲うかもしれない。そう言ったリスクを考えると、下手にセラフィーナの事情を教えるわけにはいかないのだ。
「それじゃあ、カフェ・ド・ショコラまでよろしくね」
「おうとも!」
馬車を走らせ、セラフィーナ達はこの国で一番大きな、そして一番高級なお菓子工房、カフェ・ド・ショコラへと向かうのだった。聖女として生き残れた記念の、素敵なお祝いの日。問題の魔力供与も済ませたし、今日一日くらいは平穏に過ごせるだろう。
そう思っていたのが、間違いだったのかもしれない。
嬉しそうに歌いながら、召し物の準備をするセラフィーナ。八日目の朝、本来なら生き残れなかったはずの日を、彼女はじつに清々しそうに過ごしていた。
「カフェ・ド・ショコラの美味しいショコラ~♪」
ひらひらとした薄布で作られたドレスに身を包み、お出かけ用の化粧を済ませたら、お出かけセラフィーナは完成。子供の頃から店頭でよく聞いていた、カフェ・ド・ショコラのテーマソングを歌いながら、ベルを鳴らす。
「おはよう。あら、もうすっかりお出かけムードね。楽しみにしてた?」
「うん、凄い楽しみ!子供の頃からの憧れだからね。ルーチェも楽しみでしょ?」
「そうね。私も楽しみ。あのお菓子がズラっと並んでるなんて想像するだけで…ごくり……」
二人揃って、顔をうっとりさせる。彼女達がカフェ・ド・ショコラの菓子を食べたのは、孤児院に暮らしていた頃。教会を管理する司祭様が買ってくれたのが、このお菓子だったのだ。
『わぁ!司祭様!この綺麗な箱は何!?』
『頂き物だよ。この国で一番美味しい…いや、一番を争うくらい美味しいお菓子さ』
『お菓子ー!?』
『ああ。皆で仲良く分けなさい』
『はーい!』
『あむっ…うわぁ!美味しいー!』
『ジョットのそれちょーだい!』
『あー!ダメ!僕の僕の僕のー!』
「…美味しかったよね~」
「美味しかったわねー…」
またまた二人揃って、よだれをじゅるりと垂らす。ハッとなって、慌ててそれを拭き取り、いつものように取り繕ってから、コホン小さく咳払い。
「す、すみません、貴女の前で粗相を…」
「いえいえ、私こそ油断していました…」
そんな訳で、すっかりお菓子の夢の虜である。夢見心地のまま、ぼちぼち朝食を済ませ、外出の為にアルヴェルトと合流する。
「おはようございます…っと、どうした?セラフィーナ様。随分ご機嫌だな?」
「はい。今日はカフェ・ド・ショコラに向かいますから!」
「あそこに行くのか…!?聖女様ってのは金持ちだなぁ……」
「ふふ、特別な御祝いの日だからですよ。アルヴェルトさんも、向こうで美味しいお菓子を食べましょうね」
「お、お、おう……!?///」
セラフィーナがそれはそれは嬉しそうに笑顔を作るもんだから、彼はまた顔を真っ赤にしてしまっていた。結局なんのお祝いなのか聞きそびれたまま、彼女は馬車に乗り込んでしまった。
「あら、顔真っ赤じゃない。セラフィーナさんになんかされた?」
「あ…ああいや、笑顔で挨拶されただけ……」
「それでそんな顔赤くするなんて、本当にぞっこんなのね…アルヴェルト君、先日の件だけれど」
「……ああ、正教会の件だろ。大丈夫だ、あれからセラフィーナ様に近付いてやろうって考えそうな輩は近くにはいねえよ」
「…良かったわ。彼女の平穏を乱されたらたまらないもの。他にも怪しい奴がいないか、引き続き警戒を頼むわ」
「任せてくれ。…ちっと気になったんだが、なんでアンタ、セラフィーナ様の前だと敬語なんだ?」
「色々あんのよ。理由はまあ…まだアンタには言えないわね」
「そうか……」
アルヴェルトとて、まだ正式に専属騎士に内定した事が決まった訳では無い。クビにした腹いせにセラフィーナを襲うかもしれない。そう言ったリスクを考えると、下手にセラフィーナの事情を教えるわけにはいかないのだ。
「それじゃあ、カフェ・ド・ショコラまでよろしくね」
「おうとも!」
馬車を走らせ、セラフィーナ達はこの国で一番大きな、そして一番高級なお菓子工房、カフェ・ド・ショコラへと向かうのだった。聖女として生き残れた記念の、素敵なお祝いの日。問題の魔力供与も済ませたし、今日一日くらいは平穏に過ごせるだろう。
そう思っていたのが、間違いだったのかもしれない。
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