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46話 この国の心臓
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聖杖シンフォニー。エヴァンジェリーナの使用していた杖の名前であり、二人の憧れの名前でもある。その名の通り、シンフォニア王国を由来にした名前で、この国を護る聖女に相応しい名だとしてエヴァンジェリーナが採用したのである。
「…でも、全く同じ名前って大丈夫なんでしょうか?」
「パクリとは言われるかもですね。同じ聖女ですからそんなに問題ないですけど」
「なるほど…では少し捻りを入れておきましょうか!全く同じだと、エヴァンジェリーナ様も困るかもしれませんからね」
「確かに、全く同じ見た目の全く同じ名前の武器とかあったらどっちがどっちかわからなくなりますもんね…」
二人は決して信じていない。「エヴァンジェリーナが戦場にて戦死した」という事実を。それを認めてしまったら、心が崩れてしまうと思うから。どこかで生き残っていて、いつか帰ってきてくれると信じているのだ。
「軽くアレンジしてみましょうか。セラフィーナさんの杖ですし、名前を少し混ぜてみるのはどうですか?」
「良いですね!でも、シンフォニーに上手く混ざりますかね?」
「シンフォニーだけで独立した単語ですからね。前か後ろに軽くポンと乗せるのが良いと思います」
セラフィーナのフルネームはセラフィーナ・ラガザハート。しっくり入るのは、やはりハートの部分だ。
「…では、シンフォニー・ハートでどうでしょうか、ルーチェさん!」
「…良いと思いますよ。貴女はこの国を護る結界を担う女性。心臓の名を冠するのに相応しいと思います」
「えへへ…ありがとうございます」
そんな訳で、割とあっさり二代目の名前が決まった所で、ジュスタが部屋から出てくる。美しい蒼の宝石をそのままはめ込んだ、聖属性の力を宿した杖がその手には握られていた。
「おまたせ。これが貴女の杖よ。素敵な名前は決まったかしら?」
「はい!…その杖はシンフォニー・ハートって名付ける事にしました!」
「…!…うふふ。素敵な名前ね」
「ジュスタさん。…エヴァンジェリーナ様も、貴女の前で名前を付けたんですか?」
「…ええそうよ。あの子の事も、私は今でもはっきり覚えてるわ。凄い特徴的な子だったもの」
特徴的、と言われると二人も確かに、と軽く苦笑いを浮かべる。とても快活で、自由な人で、よく周りを困らせていたものだ。
「ふふ、変わり者という点でしたら、セラフィーナさんも同じですよ」
「なっ!?そ、そんな事はありませんよ!ちょっと人より妄想が激しいだけです!」
「ちょっとなんて言って、いつも夢幻世界に潜り込んじゃうじゃないですか」
「ち、ちち違います!あ、あれはただ、ぼーっとしてるだけです!」
「ふふ。その掛け合いも本当にそっくり。なんだか、昔に戻ったみたい」
嬉しそうにジュスタは笑う。シンフォニーを受け継いで行く者たち。彼女らに幸多からん事を願って、彼女に静かに杖を託す。蒼の杖を持った彼女は、本当にエヴァンジェリーナにそっくりだった。
「…うふふ。似合ってるわ。それじゃ、お代を頂きましょうか」
「あ、そうですね!この杖、おいくらですか?」
「特注品だから、ちょっと高いわよ。普通なら五千万ゴールド取るところだけど、特別に三千万ゴールドで良いわ」
「さ、さ……三千万ゴールドぉ!?」
三千万ゴールド。並の冒険者が、若い頃から年老いるまで、しっかり働いて、ようやく三億ゴールド程稼ぐような世界。その生涯賃金の1/10も持っていくのだから、破格の値段だろう。
「ど、どうしましょう!私今3000ゴールドくらいしか持ってないです…!」
「大丈夫ですよ、私が持ちますから」
「ええっ!?わ、悪いですよルーチェさん、私の武器なんですから!」
「セラフィーナさん、私達には給料があります」
「え?給料?聖女に給料が出るんですか…?」
「もちろん。聖女っていうのは国を護る職務でもあるんですよ。仕事には賃金が発生する。なら、私達がその賃金をどう使ったって私達の勝手じゃないですか」
「そ、それもそうですが…私まだ一回も結界強化してませんよ?」
「これから強化するんですから、ただの前借りですよ、前借り」
結果を出していないのに給料前借りとはとんでもない奴である。だが、多少印象悪くなろうが死ぬより良いのである。そんな訳で、ルーチェに持って貰うことにする。
「決まりね。一括で払う?それとも、ローン組んじゃう?」
「一括にしましょう。私達の収入はあまり安定しませんから」
一括で払えるほど貰えるんだ…とセラフィーナは感心していたが、逆に言えば自分はそれほどまでに重大な任務を任せられているのである。そりゃあ嘘偽りで聖女になったりしたら処刑になりますわ。
「ありがと。じゃあ、請求は後日させて貰うわね。お待たせ、セラフィーナ様。これからこの杖が貴方の相棒よ」
「…はい、ありがとうございます!」
受け取った杖を持って、彼女は再びぺこりとお辞儀する。その謙虚さと誠実さに、ジュスタはやはり先代聖女に彼女を重ねていた。
「ありがとうございました。また何かあれば、お邪魔させていただきます」
「ええ。またいつでも遊びにいらっしゃい」
そんな訳で、ジュスタと別れて二人は帰路を辿っていく。念願の杖を手に入れて嬉しそうな聖女を眺めながら、ジュスタは誰に言うでもなく、静かに呟いた。
「頑張ってね、聖女ちゃん。…いや、聖女くん」
「…でも、全く同じ名前って大丈夫なんでしょうか?」
「パクリとは言われるかもですね。同じ聖女ですからそんなに問題ないですけど」
「なるほど…では少し捻りを入れておきましょうか!全く同じだと、エヴァンジェリーナ様も困るかもしれませんからね」
「確かに、全く同じ見た目の全く同じ名前の武器とかあったらどっちがどっちかわからなくなりますもんね…」
二人は決して信じていない。「エヴァンジェリーナが戦場にて戦死した」という事実を。それを認めてしまったら、心が崩れてしまうと思うから。どこかで生き残っていて、いつか帰ってきてくれると信じているのだ。
「軽くアレンジしてみましょうか。セラフィーナさんの杖ですし、名前を少し混ぜてみるのはどうですか?」
「良いですね!でも、シンフォニーに上手く混ざりますかね?」
「シンフォニーだけで独立した単語ですからね。前か後ろに軽くポンと乗せるのが良いと思います」
セラフィーナのフルネームはセラフィーナ・ラガザハート。しっくり入るのは、やはりハートの部分だ。
「…では、シンフォニー・ハートでどうでしょうか、ルーチェさん!」
「…良いと思いますよ。貴女はこの国を護る結界を担う女性。心臓の名を冠するのに相応しいと思います」
「えへへ…ありがとうございます」
そんな訳で、割とあっさり二代目の名前が決まった所で、ジュスタが部屋から出てくる。美しい蒼の宝石をそのままはめ込んだ、聖属性の力を宿した杖がその手には握られていた。
「おまたせ。これが貴女の杖よ。素敵な名前は決まったかしら?」
「はい!…その杖はシンフォニー・ハートって名付ける事にしました!」
「…!…うふふ。素敵な名前ね」
「ジュスタさん。…エヴァンジェリーナ様も、貴女の前で名前を付けたんですか?」
「…ええそうよ。あの子の事も、私は今でもはっきり覚えてるわ。凄い特徴的な子だったもの」
特徴的、と言われると二人も確かに、と軽く苦笑いを浮かべる。とても快活で、自由な人で、よく周りを困らせていたものだ。
「ふふ、変わり者という点でしたら、セラフィーナさんも同じですよ」
「なっ!?そ、そんな事はありませんよ!ちょっと人より妄想が激しいだけです!」
「ちょっとなんて言って、いつも夢幻世界に潜り込んじゃうじゃないですか」
「ち、ちち違います!あ、あれはただ、ぼーっとしてるだけです!」
「ふふ。その掛け合いも本当にそっくり。なんだか、昔に戻ったみたい」
嬉しそうにジュスタは笑う。シンフォニーを受け継いで行く者たち。彼女らに幸多からん事を願って、彼女に静かに杖を託す。蒼の杖を持った彼女は、本当にエヴァンジェリーナにそっくりだった。
「…うふふ。似合ってるわ。それじゃ、お代を頂きましょうか」
「あ、そうですね!この杖、おいくらですか?」
「特注品だから、ちょっと高いわよ。普通なら五千万ゴールド取るところだけど、特別に三千万ゴールドで良いわ」
「さ、さ……三千万ゴールドぉ!?」
三千万ゴールド。並の冒険者が、若い頃から年老いるまで、しっかり働いて、ようやく三億ゴールド程稼ぐような世界。その生涯賃金の1/10も持っていくのだから、破格の値段だろう。
「ど、どうしましょう!私今3000ゴールドくらいしか持ってないです…!」
「大丈夫ですよ、私が持ちますから」
「ええっ!?わ、悪いですよルーチェさん、私の武器なんですから!」
「セラフィーナさん、私達には給料があります」
「え?給料?聖女に給料が出るんですか…?」
「もちろん。聖女っていうのは国を護る職務でもあるんですよ。仕事には賃金が発生する。なら、私達がその賃金をどう使ったって私達の勝手じゃないですか」
「そ、それもそうですが…私まだ一回も結界強化してませんよ?」
「これから強化するんですから、ただの前借りですよ、前借り」
結果を出していないのに給料前借りとはとんでもない奴である。だが、多少印象悪くなろうが死ぬより良いのである。そんな訳で、ルーチェに持って貰うことにする。
「決まりね。一括で払う?それとも、ローン組んじゃう?」
「一括にしましょう。私達の収入はあまり安定しませんから」
一括で払えるほど貰えるんだ…とセラフィーナは感心していたが、逆に言えば自分はそれほどまでに重大な任務を任せられているのである。そりゃあ嘘偽りで聖女になったりしたら処刑になりますわ。
「ありがと。じゃあ、請求は後日させて貰うわね。お待たせ、セラフィーナ様。これからこの杖が貴方の相棒よ」
「…はい、ありがとうございます!」
受け取った杖を持って、彼女は再びぺこりとお辞儀する。その謙虚さと誠実さに、ジュスタはやはり先代聖女に彼女を重ねていた。
「ありがとうございました。また何かあれば、お邪魔させていただきます」
「ええ。またいつでも遊びにいらっしゃい」
そんな訳で、ジュスタと別れて二人は帰路を辿っていく。念願の杖を手に入れて嬉しそうな聖女を眺めながら、ジュスタは誰に言うでもなく、静かに呟いた。
「頑張ってね、聖女ちゃん。…いや、聖女くん」
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