男とバレたら即処刑！？聖女な僕が死亡フラグをへし折ります！

45話 聖杖シンフォニー

｢ぁ……ぁ……///｣

｢うふふ。よく頑張ったわ。魔力を調べてあげるから、少し待っててね｣

｢…はい……///｣

ごちそうさまでした。凄まじいテクニックによって頭の中は真っ白になり、力まですっかり抜けてしまった。ヘニョヘニョになった聖女は、情けない姿でベッドで横になるしか無いのであった。

実の所、セラフィーナはジュスタにキスはされていない。正確には彼女は食べられたのである。というのも、彼女の美しい唇テクニックにより、ドクターフィッシュのように唇を外側からパクパク甘噛みされたのである。

｢お疲れ様でした、セラフィーナさん…///｣

｢ぁ…ありがとうございます…///｣

しかし、それだけの行為で、セラフィーナは魔力を吸われ、力も奪われ、骨抜きにされてしまったのだ。驚異的とも言えるテクニックの持ち主である。横で見てたルーチェさえも、情熱的なキスに顔を真っ赤になってしまっている。

｢こ、これで…良い魔石が見つかるんですよね……///｣

｢ええ、きっと見つかりますよ｣

｢良かった…ふと気になったんですが…どうして魔力を調べるのにキスする必要があったんですか…？///｣

｢それは簡単ですよ。ルージュ・ストーンには制約があると説明しましたよね。その制約が、彼女とキスをする事で開放されるんですよ｣

｢えっ…！じゃあ、あの人とキスするだけで、普通より強力な魔石が使えるんですか？｣

｢そういう事ですね。ルージュ・ストーンはその制約があるから、普段より強力な魔術が行使できるんです｣

魔石は魔力を注げば注ぐほど強力になるというシンプルな特性を持っているが、逆に注げば注ぐほど扱いが難しくなる。魔力を暴走させて、味方を撃ってしまうことも多々ある。それゆえ、武器屋では並の魔石しか扱えないのだが、ルージュ・ストーンは別。

魔石自体に使用制限を設けることで、魔力が暴走するのを押さえ込み、その上で使用者をディープキスで調教…もとい魔力に順応させることで、暴走しない強力な魔石が生み出される。

｢魔力を多量に注いだ魔石を、キスするだけで完璧に扱えるようになる。そんな魔石を彼女は開発したんですよ｣

｢す、すごい…！天才じゃないですか！｣

｢そうですね。とても簡単な条件キスで暴走を抑え込むのですから｣

｢でも…なんでそんな素晴らしい魔石があるのに、誰も来ないんでしょうか？｣

誰でも気軽に強力な魔石を使えるなら、そっちの方が良いはずだ。なのに、彼女の魔石工房は自分たち以外誰もおらず、がらーんとしている。

｢まあ、やっぱりキスは難易度高いですし…｣

｢それもあるけど、私かわいい子としかキスしたくないのよね～｣

｢わわっ！？｣

突如として背後に現れたジュスタに、ぽんと肩を叩かれる。そのままひょいっと身体を持ち上げられ、ぽすんとベッドに座らせられる。そのまま、彼女もまるで誘うかのように隣に座った。

｢驚かせちゃった？ごめんなさいね｣

｢だ、大丈夫です…あの、魔石は見つかりましたか？｣

｢見つかったわ。ほら、触ってみて？｣

彼女が取り出したのは、蒼色に輝く美しい宝石。指で摘めるほどのサイズのそれを、そっとセラフィーナの手のひらに落とす。透き通るような色に、思わず見とれてしまう。

｢わあ…魔力を流してみても？｣

｢構わないわ｣

｢わかりました…ふぅ……｣

大きく息を吹いて、意識を魔石に集中させる。聖属性の魔力がその身から石に流れて行き、石はポウッと淡い光を宿す。

｢セラフィーナさん！｣

｢…あっ！魔石が光ってる！｣

｢うふふ。見つかって良かったわね｣

｢はい！…けど、どうして魔力に合った魔石がわかるんですか…？｣

その問いに、今まで妖艶な笑みを見せていた彼女の顔に陰りが見えた。少し躊躇ってから、彼女は静かに答えた。

｢私の唇は、一度キスした相手から魔力を吸いだせるの。それで入手した魔力をストーンに流す事で、様々な属性に対応した魔石を作れる訳ね｣

｢なるほど…じゃあ、私の前に聖属性魔力を持った人が貴女の所に来たって事ですね｣

｢ええ。…貴女、聖女のセラフィーナ様でしょう？｣

｢えっ？…は、はい…｣

｢…やっぱりね。私のところに以前来た聖属性の魔力の持ち主も、聖女だったのよ｣

えっ？と二人揃って顔を見合わせる。セラフィーナもルーチェも、そのヒトには心当たりがあったのだ。セラフィーナは恐る恐る、尋ねてみる。

｢もしかして、その人って先代聖女の…｣

｢そう…エヴァンジェリーナ・アヴォレード嬢。彼女も奇遇にも、ここに来て貴女のように杖を作ったのよ｣

｢嘘……！？｣

｢エヴァンジェリーナ様も……ここに…！｣

｢その時に受け取った魔力で精錬した魔石がこの石よ。そして貴女のように…蒼の魔石を受け取って行ったわ｣

なんという偶然だろう。いや、ここまで来れば、もはや必然でさえある可能性すらある。例えようのない感動を受けたセラフィーナは、嬉しそうに胸に手を当てた。

｢もし良かったらだけど、貴女もエヴァンジェリーナ様と同じ杖にする？｣

｢えっ！そんな事ができるんですか！？｣

｢ええ。私の仕事は魔石をはめ込むのがメインで、杖のデザイン自体は依頼主の好きに出来るのよ｣

だったら、断る理由も無いだろう。ルーチェと二人で顔を見合わせ、即座に頷き合う。

｢だったら、是非それで！｣

即決で、そのデザインにしてもらう事にした。それはそれは嬉しそうな二人の反応に、ジュスタも嬉しそうに微笑んだ。実はジュスタは不安だった。先代聖女の事を話題に出して、二人が不快にならないかと。けれど、二人は恩師の死を乗り越えて、今も懸命に生きている。それに感銘を受けたのだった。

｢わかったわ。それじゃあ精錬しちゃうわね。少し時間がかかるけど、今日中に欲しいかしら｣

｢そうですね。出来れば本日中に｣

杖を貰ったからと言って、必ず魔力供与が成功するわけでは無い。杖を使いこなす感覚にも慣れなくてはならないだろう。多少割高になるだろうが、そこは我慢だ。

｢オッケー、大丈夫よ。それじゃあ、私が杖を作ってる間に、杖の名前を考えておいて｣

｢名前…ですか……｣

｢そ、名前。そこの彼女…ルーチェちゃんとも一緒に考えると良いわ。貴方が初めて握る杖だもの。素敵な名前をつけてあげて｣

｢…わかりました。杖の精錬、よろしくお願いします！｣

｢うふふ。ありがとう、任せて｣

そんな訳で、彼女は魔石を持って奥の工房に入り込む。完全に姿が見えなくなった所で、二人は胸の内に詰まりまくっていた思いを思い切りぶちまける。

｢……驚いた…エヴァンジェリーナ様もここに来てたなんて！｣

｢ぼ…私も信じられないです！しかも、同じ魔石で同じ杖を作って頂けるなんて！｣

｢本当に奇跡みたい…セラフィーナさん、ここまで来たら、名前はアレしか無いんじゃありませんか？｣

｢ふふ、ルーチェさんもわかっていますね。私もそれを考えていた所です！｣

二人が意気投合するのも当然。二人の頭に浮かんでいるのは、エヴァンジェリーナ様がいつも使っていたあの名前。その名前と共に杖を力強く掲げる事で、彼女は結界を強化していたのだから。

｢あの杖の名前は…｣

｢ええ、名前は……｣







｢｢聖杖シンフォニー！｣｣