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38話 キス

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「ああ……俺としては、君とキスする事は全然構わない。だが、君が困るだろうからね……」

「は…はひ……困りましゅ……///」

身も心も女の子のセラフィーナ的には、男の王子様とキスすることも構わないのだが、それでもやっぱりキスというのは照れるものである。

本当に婚約者だったら、それくらいはしたって構わないだろう、というのがフランカ側の推理のはずだ。もしキスが出来ないなら、偽物の婚約者だと疑われる事になる。

「でも…しないとパトリツィオ様も困りますよね……///」

「そうだな……君さえ許してくれるのなら、是非とも頼みたい。俺で良ければ…だが」

そう言って、パトリツィオは顔を薄紅色に染めていく。その愛らしさと美しさに、セラフィーナの胸はドキドキと高鳴っていく。

「わ、私は……///」

「ちょっと待ったァー!!」

どばぁーん!と扉が開かれ、一人の男が飛び込んでくる。専属騎士、アルヴェルト君である。さっきまで隠れていたのだが、キスだの婚約者だのの話を聞いて我慢できずに飛び出して来たのである。

「うわっ!誰だ君は!?」

「あっ!す、すみません!アルヴェルト・ドラゴラッジと言って、私の専属騎士です!」

「黙って聞いてりゃ、婚約者だのキスだの一体どういう事なんだ!まさか、既に二人は出来上がってるって言うのか!?」

「専属騎士…落ち着いてくれアルヴェルト君!これには深い訳がある!」

専属騎士を宥めるが、彼はプンプン怒っていて話を聞いてくれそうにない。今にも襲いかかってしまいそうなアルヴェルトの前に、セラフィーナが止めに入る。

「落ち着いて下さい、アルヴェルトさん。これは演技なんですよ」

「…演技?」

かくかくしかじか、事情を説明する。全てを聞いて納得したのか、アルヴェルトはようやくしゅーんと大人しくなった。

「……す、すんません…早とちりしてしまって……」

「はは、気にしないで欲しい。傍から見たら誤解されるような関係だったからね。専属騎士として、彼女の事をよろしく頼むよ」

「はい…失礼します」

そんな訳で、アルヴェルトは再び護衛係に専任する事に。寛大な王子様に感謝しつつ、話を戻す。聖女セラフィーナは、キスするかどうかの分水嶺に立たされてしまったのである。

「もし…キスしてくれるのなら、お礼に何か君に差し上げよう。嘘偽りで乙女の純情を奪うなど、男としてとても情けない…」

「ありがとうございます…ですが、もう少し考えさせて下さい…///」

嘘偽りなら正直自分もお互い様だが。それでも、そんな簡単に答えを出せるような問題では無い。

「そうだな…君にも考える時間が必要だろう、無理なら無理と言ってほしい。それで君に怒ったりはしない」

王子様と口と口でちゅーなんてされたら興奮しすぎてセラフィーナがぶっ倒れる可能性がある。彼とキスをして、その上で自分が倒れない方法を考えねばならない。

「(考えろ…考えろ僕…キスをしないで…キスをする方法……)」

ぽくぽくぽくぽく。どうにか上手くフランカを誤魔化さなくてはならない。必死に頭をぽてくりこかし、案を必死に練り込んでいく。彼女に浅はかな嘘は通用しない。ならば…

「…思いつきました!パトリツィオ様、どうか私の作戦にご助力願えませんか?」

「…なにか思いついたのか!わかった、協力しよう。して、その作戦とは…?」

「はい…ごにょごにょ……」

「……なるほど、それならフランカも諦めてくれそうだ。試してみるとしよう!」

パトリツィオも彼女の作戦を聞いて、納得してくれた様子だ。果たして、セラフィーナの思いついた作戦とはなんなのか。耳打ちしていて聞こえなかったアルヴェルトは不思議そうに首を傾げるしか無かった。
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