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33話 美味しい試練
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「…ルーチェさん…つったっけ。試験って言うのは具体的には何をどうするんだ?」
「騎士に求められるのは、無論強さです。と言っても、単なる腕っぷしじゃなくて、肉体的な強さとか精神的な強さとか、総合しての強さです。猛犬でも、飼い慣らせないならただの駄犬ですしね」
「うぐ……」
アルヴェルトは単なる力仕事なら誰より得意だが、精神的な強さがあるかと問われると正直NOである。実際、問題児っぷりが乗じて騎士団で危険視されていたし、その通り問題起こして解雇されてしまったのだから。
「まずは精神的な強さを見ましょう。人として、貴方がどこまで誠実なのかを見ます」
「でもルーチェさん、具体的にどうやって誠意を見るんですか…?」
「簡単です。アルヴェルトさん、お腹すいてますよね?」
「…ああ、まだ朝食を入れてないしな。それが…?」
「では、私達の方で朝食を用意しましょう。そこでテストです」
「「朝食で……?」」
二人とも不思議に思いつつ、食堂へと足を運んでいく。アルヴェルトはルーチェに促されるまま、席に着く。少しして、彼の前に美味しそうな朝食が用意される。
「…えっと、食って良いのか?」
「いいえ、ダメです。ここからが試験内容ですから」
「試験って……これが!?」
「はい。どこまで我慢できるか選手権です。これからセラフィーナさんが貴方に待てと命令します。貴方は彼女のお許しを得るまでご飯を食べてはいけません。ちなみに、セラフィーナさんに命令するように強要した時点で失格です」
「な……なんという拷問……!」
目の前に並んでいるものは、どれも出来たてでとても美味しそうだ。それをひたすら眺め、空腹に耐えるというのは拷問というより他に無いだろう。
「(ご飯が冷めてしまいますから、長くても1時間ほどでお願いします)」
「(は、はい…)」
気の毒なアルヴェルトに哀れみの視線を向けつつ、セラフィーナは彼の横に立つことにした。彼は真剣だ。言われなければ、多分死ぬまで空腹に耐える事だろう。
「では始めましょう。セラフィーナさん、命令を」
「はい…アルヴェルトさん、まだ手をつけてはいけませんよ?」
「……ああ」
ごくりと喉を鳴らし、アルヴェルトは目の前に並べられた豪華な食事をじっと見つめる。朝食にしては豪勢な、肉汁したたるステーキ。空きっ腹に入り込んでくる温かな香りのシチュー。清々しい自然の風景が幻想される、フレッシュな野菜のサラダ。
「うぐ…ぐ……」
「アルヴェルトさん、我慢ですよ、我慢…」
「お、おおおう……」
セラフィーナも是非彼に合格して欲しいので、心の中で精一杯応援する。だが、試験は試験。限界のギリギリまで我慢して貰わねばならないだろう。
ぐるるるるるーぅ。腹の虫が元気よく鳴る。いくら元騎士団最強の騎士といえど、食への誘惑には勝てない。本能に訴えかけるように誘惑に、アルヴェルトは次第に追い詰められていく。
「うぐ……まだ…ダメか……」
「ダメです…我慢です…我慢……!」
10分経過。とりあえず20分耐えたら良いかな?とセラフィーナは思っていたが、目の前の騎士は既に死にそうである。腹の虫は早く食わせろと今にも襲いかかって来そうな程に鳴っている。だが、まだ食わせない。
15分が経過した。もうあと5分耐えさせれば良いのだが、アルヴェルトはもう限界である。よだれを必死に隠し、鳴り続ける胃の虫をぶち殺し、憤怒の表情で耐え続けている。
「ぐぎご…ごが…ががぁ……!!」
「(ひいいいいいい!?お、鬼の顔!?)」
「(耐えさせるのです…セラフィーナさん)」
その時だった。カチャ、と小さく金属音が鳴った。アルヴェルトが銀のナイフに手をつけてしまったのである。試験内容は食べなきゃOKなのでセーフだが、このままでは手をつけてしまう!
「(や、やべぇ……耐えろ…耐えろ…!こんなんで…死んでたまるか……!)」
ガタガタと震えるアルヴェルト。テーブルも、その上にある料理も彼の震えに合わせてガタガタガクガク揺れ始める。右手に封印されし何かを抑えるが如くナイフを持つ手を押さえて、必死に耐え続ける。
「(やばい…だめだ…手をつけるな!)」
あと20秒。あと15秒。セラフィーナも怯えるような表情で彼を見つめ続ける。せめて、せめて合格ラインの20分まで耐えてくれと切に願い続ける。
あと10秒。ハァハァと吐息が溢れ、今にも喰らいつかんとばかりに逆の手がフォークを掴み取る。これはまずい。両腕が振り上げられ、ゆっくりとステーキの方に向かっていく。
「(ダメです!あと5秒!)」
「(やめろォォォッ!!止まれぇぇぇ!)」
「(アルヴェルト、敗れたり……)」
ガッチィィィイン!!
甲高く響く金属音。突き刺そうとするフォークを、ナイフでガッチリと受け止めた。両腕がガクガクと震え、今にも理性が崩壊してしまいそうだが、彼は耐えた。その精神力にセラフィーナは感激し、声を上げた。
「頑張りましたね、アルヴェルトさん。食べてもよろしいですよ」
「ッ……!よ、良かったッ!!いただきますッッッ!!!」
ガツガツモグモグバクバクムシャムシャ。様々な擬音を上げながら、アルヴェルトは一気に用意された食事を食べ始める。先程まで我慢していた為か、欲望が一気に解放されて凄まじいペースで胃に食物が流し込まれていく。
「う、美味い!美味すぎる…!」
「耐えきりましたね、ルーチェさん」
「そうですね、彼がここまで出来るとは思いませんでした」
ちょっと残念そうなルーチェと、なかなか嬉しそうなセラフィーナ。そして満足そうに腹を抱えるアルヴェルト。それぞれ思惑はあれど、ひとまず最初の試練はこれにて突破である。
「騎士に求められるのは、無論強さです。と言っても、単なる腕っぷしじゃなくて、肉体的な強さとか精神的な強さとか、総合しての強さです。猛犬でも、飼い慣らせないならただの駄犬ですしね」
「うぐ……」
アルヴェルトは単なる力仕事なら誰より得意だが、精神的な強さがあるかと問われると正直NOである。実際、問題児っぷりが乗じて騎士団で危険視されていたし、その通り問題起こして解雇されてしまったのだから。
「まずは精神的な強さを見ましょう。人として、貴方がどこまで誠実なのかを見ます」
「でもルーチェさん、具体的にどうやって誠意を見るんですか…?」
「簡単です。アルヴェルトさん、お腹すいてますよね?」
「…ああ、まだ朝食を入れてないしな。それが…?」
「では、私達の方で朝食を用意しましょう。そこでテストです」
「「朝食で……?」」
二人とも不思議に思いつつ、食堂へと足を運んでいく。アルヴェルトはルーチェに促されるまま、席に着く。少しして、彼の前に美味しそうな朝食が用意される。
「…えっと、食って良いのか?」
「いいえ、ダメです。ここからが試験内容ですから」
「試験って……これが!?」
「はい。どこまで我慢できるか選手権です。これからセラフィーナさんが貴方に待てと命令します。貴方は彼女のお許しを得るまでご飯を食べてはいけません。ちなみに、セラフィーナさんに命令するように強要した時点で失格です」
「な……なんという拷問……!」
目の前に並んでいるものは、どれも出来たてでとても美味しそうだ。それをひたすら眺め、空腹に耐えるというのは拷問というより他に無いだろう。
「(ご飯が冷めてしまいますから、長くても1時間ほどでお願いします)」
「(は、はい…)」
気の毒なアルヴェルトに哀れみの視線を向けつつ、セラフィーナは彼の横に立つことにした。彼は真剣だ。言われなければ、多分死ぬまで空腹に耐える事だろう。
「では始めましょう。セラフィーナさん、命令を」
「はい…アルヴェルトさん、まだ手をつけてはいけませんよ?」
「……ああ」
ごくりと喉を鳴らし、アルヴェルトは目の前に並べられた豪華な食事をじっと見つめる。朝食にしては豪勢な、肉汁したたるステーキ。空きっ腹に入り込んでくる温かな香りのシチュー。清々しい自然の風景が幻想される、フレッシュな野菜のサラダ。
「うぐ…ぐ……」
「アルヴェルトさん、我慢ですよ、我慢…」
「お、おおおう……」
セラフィーナも是非彼に合格して欲しいので、心の中で精一杯応援する。だが、試験は試験。限界のギリギリまで我慢して貰わねばならないだろう。
ぐるるるるるーぅ。腹の虫が元気よく鳴る。いくら元騎士団最強の騎士といえど、食への誘惑には勝てない。本能に訴えかけるように誘惑に、アルヴェルトは次第に追い詰められていく。
「うぐ……まだ…ダメか……」
「ダメです…我慢です…我慢……!」
10分経過。とりあえず20分耐えたら良いかな?とセラフィーナは思っていたが、目の前の騎士は既に死にそうである。腹の虫は早く食わせろと今にも襲いかかって来そうな程に鳴っている。だが、まだ食わせない。
15分が経過した。もうあと5分耐えさせれば良いのだが、アルヴェルトはもう限界である。よだれを必死に隠し、鳴り続ける胃の虫をぶち殺し、憤怒の表情で耐え続けている。
「ぐぎご…ごが…ががぁ……!!」
「(ひいいいいいい!?お、鬼の顔!?)」
「(耐えさせるのです…セラフィーナさん)」
その時だった。カチャ、と小さく金属音が鳴った。アルヴェルトが銀のナイフに手をつけてしまったのである。試験内容は食べなきゃOKなのでセーフだが、このままでは手をつけてしまう!
「(や、やべぇ……耐えろ…耐えろ…!こんなんで…死んでたまるか……!)」
ガタガタと震えるアルヴェルト。テーブルも、その上にある料理も彼の震えに合わせてガタガタガクガク揺れ始める。右手に封印されし何かを抑えるが如くナイフを持つ手を押さえて、必死に耐え続ける。
「(やばい…だめだ…手をつけるな!)」
あと20秒。あと15秒。セラフィーナも怯えるような表情で彼を見つめ続ける。せめて、せめて合格ラインの20分まで耐えてくれと切に願い続ける。
あと10秒。ハァハァと吐息が溢れ、今にも喰らいつかんとばかりに逆の手がフォークを掴み取る。これはまずい。両腕が振り上げられ、ゆっくりとステーキの方に向かっていく。
「(ダメです!あと5秒!)」
「(やめろォォォッ!!止まれぇぇぇ!)」
「(アルヴェルト、敗れたり……)」
ガッチィィィイン!!
甲高く響く金属音。突き刺そうとするフォークを、ナイフでガッチリと受け止めた。両腕がガクガクと震え、今にも理性が崩壊してしまいそうだが、彼は耐えた。その精神力にセラフィーナは感激し、声を上げた。
「頑張りましたね、アルヴェルトさん。食べてもよろしいですよ」
「ッ……!よ、良かったッ!!いただきますッッッ!!!」
ガツガツモグモグバクバクムシャムシャ。様々な擬音を上げながら、アルヴェルトは一気に用意された食事を食べ始める。先程まで我慢していた為か、欲望が一気に解放されて凄まじいペースで胃に食物が流し込まれていく。
「う、美味い!美味すぎる…!」
「耐えきりましたね、ルーチェさん」
「そうですね、彼がここまで出来るとは思いませんでした」
ちょっと残念そうなルーチェと、なかなか嬉しそうなセラフィーナ。そして満足そうに腹を抱えるアルヴェルト。それぞれ思惑はあれど、ひとまず最初の試練はこれにて突破である。
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