34 / 92
32話 そこは痛い
しおりを挟む
それから夜は明け、聖女は三日目の朝を迎えた。いつものように支度を整え、ルーチェを呼び出して部屋に招いた。二人きりになってから、彼女はようやく口を開いた。
「おはようございます、ルーチェさん。本日の予定はなんですか?」
「おはようございます。午前は聖騎士アルヴェルトの試験を行い、午後はパトリツィオ陛下の茶会に呼ばれております」
「陛下の……わかりました。ありがとうございます」
パトリツィオから呼ばれるという事は、婚約者としての件だろう。当然、フランカもそこにいるという事になる。相手は卵と言えど、いっぱしの演者。下手に演技すれば、偽りの婚約者である事はもちろん、男とバレる可能性もある。最大限に警戒すべき相手の一人だろう。
「では参りましょう。朝食後、アルヴェルトとの約束通り門に参ります。彼がいなければ自由時間にしましょう。私としてはそっちの方が気楽で良いですが…」
「あはは、ルーチェさんらしいですね。でも彼は来ますよ、きっと」
「そうですか…?」
彼の真剣な目を見たからこそ、彼女は断言できる。アルヴェルト・ドラゴラッジは必ず来る。そう信じて、彼女は朝食を済ませてから門の前へと足を運ぶ。そして二人の前に、彼は現れた。
「し……」
「死んでる……!?」
彼は死んでいた。いや、正確には死んでるんじゃなくて倒れていたのだが。どこぞの人工生命体に自爆された後の戦士の如く、地面に凄まじいヒビを入れて倒れていたのである。
「あ、アルヴェルトさーん…?」
「んご……」
つんつん、とセラフィーナがつっつくと、彼は一応生きているらしく寝息で返事をした。生きてて何よりだが、そこに寝られると屋敷の皆が困るのである。
「どうやって起こしましょうか…?」
「では、ここは私が」
サッと腕をまくり、ルーチェは一歩前へと歩み出る。何をどうするのか、とセラフィーナが見守る中、彼女はアルヴェルトの両足をぐいっと持ち上げて、自身が股の間に挟まる形になる。それから、腋でガシッと脚を挟むと、ゆっくりと自分の足を上に持ってきた。
「∑(゚д゚;)」
「……ふんっ!!!!」
ゴッキーーーーン!!!
「……〇×△□~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
言葉にならない悲鳴と共に、アルヴェルトはぴょーんとギャグ漫画のごとく飛び上がる。それを見たセラフィーナもキュッと何かが縮こまるような気がして、顔を真っ青にして股を抑えて震えていた。やがて落下してきたアルヴェルトは、地面にぶっ倒れて、死にそうな顔で必死に股間を押さえていた。
「ぁ…ご…が…な…な……なんてことするんじゃこの野郎~~!!!」
「こんな所で倒れられては困るから起こしたのですよ、ねえセラフィーナさん?」
「ア、ハ、ハイソウデスネ」
「…どうしたんです?」
「あ、いえちょっと股間が…じゃなくてアルヴェルトさんが気の毒で……」
あんなんやられたら、起きるどころかもう一度失神する自信がある。セラフィーナは彼女の前では絶対に寝坊しないと固く誓うのであった。
「(男ってのは大変なのね……)…さてアルヴェルトさん。わざわざ来て頂いたという事は、約束通り専属騎士になりに来たという事ですね?」
「うご…ぁ…ああ。約束通り、専属騎士になりに来た!俺を雇ってくれ!」
と、地面に蹲って股間を抑えながら頼み込む王国最強の騎士。嗚呼、なんと情けない。セラフィーナじゃなかったら問答無用でお払い箱である。それはそれとして、彼は約束通り来た。ならば、こちらも誠意を見せる必要があるだろう。
「はい。その代わり、私達の方で決めた試験を受けていただきます。そうですね、ルーチェさん?」
「ええ。その試験に受からなければ、もちろん雇用は無しです。文句はありませんね?」
「……ああ。どんな訓練でも受ける。その為に俺はここに来たんだ」
さっきまでの激痛モードから一転、なんとかシリアスモードを取り戻し、アルヴェルトは立ち上がる。これに合格しなければ死。絶体絶命の崖に立ち、彼は今試験へと突入していく。
「おはようございます、ルーチェさん。本日の予定はなんですか?」
「おはようございます。午前は聖騎士アルヴェルトの試験を行い、午後はパトリツィオ陛下の茶会に呼ばれております」
「陛下の……わかりました。ありがとうございます」
パトリツィオから呼ばれるという事は、婚約者としての件だろう。当然、フランカもそこにいるという事になる。相手は卵と言えど、いっぱしの演者。下手に演技すれば、偽りの婚約者である事はもちろん、男とバレる可能性もある。最大限に警戒すべき相手の一人だろう。
「では参りましょう。朝食後、アルヴェルトとの約束通り門に参ります。彼がいなければ自由時間にしましょう。私としてはそっちの方が気楽で良いですが…」
「あはは、ルーチェさんらしいですね。でも彼は来ますよ、きっと」
「そうですか…?」
彼の真剣な目を見たからこそ、彼女は断言できる。アルヴェルト・ドラゴラッジは必ず来る。そう信じて、彼女は朝食を済ませてから門の前へと足を運ぶ。そして二人の前に、彼は現れた。
「し……」
「死んでる……!?」
彼は死んでいた。いや、正確には死んでるんじゃなくて倒れていたのだが。どこぞの人工生命体に自爆された後の戦士の如く、地面に凄まじいヒビを入れて倒れていたのである。
「あ、アルヴェルトさーん…?」
「んご……」
つんつん、とセラフィーナがつっつくと、彼は一応生きているらしく寝息で返事をした。生きてて何よりだが、そこに寝られると屋敷の皆が困るのである。
「どうやって起こしましょうか…?」
「では、ここは私が」
サッと腕をまくり、ルーチェは一歩前へと歩み出る。何をどうするのか、とセラフィーナが見守る中、彼女はアルヴェルトの両足をぐいっと持ち上げて、自身が股の間に挟まる形になる。それから、腋でガシッと脚を挟むと、ゆっくりと自分の足を上に持ってきた。
「∑(゚д゚;)」
「……ふんっ!!!!」
ゴッキーーーーン!!!
「……〇×△□~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
言葉にならない悲鳴と共に、アルヴェルトはぴょーんとギャグ漫画のごとく飛び上がる。それを見たセラフィーナもキュッと何かが縮こまるような気がして、顔を真っ青にして股を抑えて震えていた。やがて落下してきたアルヴェルトは、地面にぶっ倒れて、死にそうな顔で必死に股間を押さえていた。
「ぁ…ご…が…な…な……なんてことするんじゃこの野郎~~!!!」
「こんな所で倒れられては困るから起こしたのですよ、ねえセラフィーナさん?」
「ア、ハ、ハイソウデスネ」
「…どうしたんです?」
「あ、いえちょっと股間が…じゃなくてアルヴェルトさんが気の毒で……」
あんなんやられたら、起きるどころかもう一度失神する自信がある。セラフィーナは彼女の前では絶対に寝坊しないと固く誓うのであった。
「(男ってのは大変なのね……)…さてアルヴェルトさん。わざわざ来て頂いたという事は、約束通り専属騎士になりに来たという事ですね?」
「うご…ぁ…ああ。約束通り、専属騎士になりに来た!俺を雇ってくれ!」
と、地面に蹲って股間を抑えながら頼み込む王国最強の騎士。嗚呼、なんと情けない。セラフィーナじゃなかったら問答無用でお払い箱である。それはそれとして、彼は約束通り来た。ならば、こちらも誠意を見せる必要があるだろう。
「はい。その代わり、私達の方で決めた試験を受けていただきます。そうですね、ルーチェさん?」
「ええ。その試験に受からなければ、もちろん雇用は無しです。文句はありませんね?」
「……ああ。どんな訓練でも受ける。その為に俺はここに来たんだ」
さっきまでの激痛モードから一転、なんとかシリアスモードを取り戻し、アルヴェルトは立ち上がる。これに合格しなければ死。絶体絶命の崖に立ち、彼は今試験へと突入していく。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
転生したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる