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30話 魔術のスタイル
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「おまたせしました、ルーチェさん。貴女に治療魔術を教えます。…タメ口でも良いですか?」
「部屋で二人きりだし、それで構わないわ。それにしても、部屋に本を持ち込んで何を教えるの?」
「治療魔術は別に外でドンパチしなくても覚えられるからね…」
というか、攻撃魔法とかその辺の学び方が異常なのである。もっとも、実戦形式でガンガン経験を積んだ方が扱いが上手くなるというのも事実なので、効率的な覚え方であるのだが。
「ルーチェは、魔術の型については聞いたことある?」
「それくらいはね。魔術に精通するなら最低限習うことでしょ」
魔術には、基本的に二つの「型」というものが存在する。肉体を使う事で呪文の詠唱を無視して放つベーススタイル、呪文を唱える事によって、様々な効果を自在に引き出すスペルスタイルの二つに分かれる。
ベーススタイルの利点は、発動まで時間がかからない事である。故に、戦闘に魔術を用いる人間の大半は詠唱無しで放てるベーススタイルを主流とする。
対して、スペルスタイルは時間がかかるが、確実に一つの効果を発動させる事ができる。回復魔術や治療魔術は似たような効果の中にも様々な意味合いや効果が含まれる為、ベーススタイルでの発動が非常に難しい。スペルスタイルでの発動が好まれる事が多いのだ。
「良かった。そしたらルーチェには、スペルスタイルの魔術を覚えて欲しいんだ。ベーススタイルに慣れた君だと難しいと思うけど…」
「えー…私文字書くのめんどくて嫌いなんだけど…なんかさ、ベーススタイルで使えるようにならないの?」
「難しいかな…ルーチェって、炎の魔術をどうやって発動させてる?」
「そりゃもちろん、炎を出せ!って感じで命令してるわね」
「そうだよね…治療魔術を使うにはそれがダメなんだ。例えば、僕がルーチェに炎で怪我させられるでしょ?そこで『回復しろ!』って命令したら、どうなると思う?」
「え?パッパッと回復するんじゃないの?」
「答えは『回復しない』なんだ。炎を受けた僕は『火傷』と『ダメージ』の両方を受けている。だから、ただ単に回復しろ、だとどちらにも十分な作用が得られない事になる」
「なるほどね…道理で私も覚えられないわけだわ…って言うか、めんどくさいのね。治療魔術って……」
そういう訳なんで、回復魔術が使えるやつは重宝されたりする。呪文さえ覚えれば誰でも扱える事には扱えるが、戦闘で扱うには加えて他の魔術も出来なくてはならないのだから。
「大丈夫だよ。ルーチェなら覚えられる。難しいけど、コツさえ覚えれば君でも完璧に扱える」
「…ありがとう。やってやろうじゃない。スペルスタイルなら、まずは呪文を覚える所からよね?」
「そうだね、本の12ページをひら」
セラフィーナが説明するより早く、ルーチェは本を開いて全力で凝視する。その姿に彼女はびっくり驚くが、同時にその真剣ぶりにも感心していた。
「…そこは基本的な傷を癒す魔術用の呪文だよ。覚えれば、簡単な切り傷くらいなら治療できるはずだよ」
「なるほどね……よし、覚えたわ!早速だけど、試せないかしら?」
「さ、さすがルーチェだね…じゃあ、僕でテストしてみよう。軽く薄皮を切ってみるから、そこを再生させてみて?」
「任せなさい。ちゃちゃーっと治しちゃうんだから!」
セラフィーナは封切り用の小型ナイフを取り出し、すーっと器用に自身の薄皮を切り裂いてみせる。メイドさんはその器用さに、思わず喉を鳴らす。
「よ、よくそれできるわね…怖くないの……?」
「治療魔術を覚えるために練習したからね。あんまりやりたくないけど…」
痕も残らないとはいえ、やっぱり自分の身体を傷付けるのは嫌なものである。万が一大きな傷になった時の為、痕が見えないようにいつも太ももに切り傷を入れているので、今回もそこに。スカートをめくり、ルーチェにが魔術を唱えやすいようにする。
「よし、OKだよ」
「…行くわね。…」
魔法陣が開かれ、文字がそこへと記されていく。記述式の魔術。問題なく発動したそれに、ゆっくりと魔力が注がれていく。実に順調、問題なく進むと思ったその時、またも嫌な予感がセラフィーナの背筋を伝った。
「(こ、この感じって……)」
「…記述完了、治療せよ!」
清々しいほど順調に、魔術は完成する。魔法陣に力がみなぎり、エネルギーが駆動する。そして、完成した魔法陣から魔力が解き放たれる。魔力は淡い光を放ち始め、やがて温かな熱が体に伝わっていく。
「や、やった…!」
そうして、ボッ!という音が、突然膝上から聞こえた。
「あっ」
「あっ」
「部屋で二人きりだし、それで構わないわ。それにしても、部屋に本を持ち込んで何を教えるの?」
「治療魔術は別に外でドンパチしなくても覚えられるからね…」
というか、攻撃魔法とかその辺の学び方が異常なのである。もっとも、実戦形式でガンガン経験を積んだ方が扱いが上手くなるというのも事実なので、効率的な覚え方であるのだが。
「ルーチェは、魔術の型については聞いたことある?」
「それくらいはね。魔術に精通するなら最低限習うことでしょ」
魔術には、基本的に二つの「型」というものが存在する。肉体を使う事で呪文の詠唱を無視して放つベーススタイル、呪文を唱える事によって、様々な効果を自在に引き出すスペルスタイルの二つに分かれる。
ベーススタイルの利点は、発動まで時間がかからない事である。故に、戦闘に魔術を用いる人間の大半は詠唱無しで放てるベーススタイルを主流とする。
対して、スペルスタイルは時間がかかるが、確実に一つの効果を発動させる事ができる。回復魔術や治療魔術は似たような効果の中にも様々な意味合いや効果が含まれる為、ベーススタイルでの発動が非常に難しい。スペルスタイルでの発動が好まれる事が多いのだ。
「良かった。そしたらルーチェには、スペルスタイルの魔術を覚えて欲しいんだ。ベーススタイルに慣れた君だと難しいと思うけど…」
「えー…私文字書くのめんどくて嫌いなんだけど…なんかさ、ベーススタイルで使えるようにならないの?」
「難しいかな…ルーチェって、炎の魔術をどうやって発動させてる?」
「そりゃもちろん、炎を出せ!って感じで命令してるわね」
「そうだよね…治療魔術を使うにはそれがダメなんだ。例えば、僕がルーチェに炎で怪我させられるでしょ?そこで『回復しろ!』って命令したら、どうなると思う?」
「え?パッパッと回復するんじゃないの?」
「答えは『回復しない』なんだ。炎を受けた僕は『火傷』と『ダメージ』の両方を受けている。だから、ただ単に回復しろ、だとどちらにも十分な作用が得られない事になる」
「なるほどね…道理で私も覚えられないわけだわ…って言うか、めんどくさいのね。治療魔術って……」
そういう訳なんで、回復魔術が使えるやつは重宝されたりする。呪文さえ覚えれば誰でも扱える事には扱えるが、戦闘で扱うには加えて他の魔術も出来なくてはならないのだから。
「大丈夫だよ。ルーチェなら覚えられる。難しいけど、コツさえ覚えれば君でも完璧に扱える」
「…ありがとう。やってやろうじゃない。スペルスタイルなら、まずは呪文を覚える所からよね?」
「そうだね、本の12ページをひら」
セラフィーナが説明するより早く、ルーチェは本を開いて全力で凝視する。その姿に彼女はびっくり驚くが、同時にその真剣ぶりにも感心していた。
「…そこは基本的な傷を癒す魔術用の呪文だよ。覚えれば、簡単な切り傷くらいなら治療できるはずだよ」
「なるほどね……よし、覚えたわ!早速だけど、試せないかしら?」
「さ、さすがルーチェだね…じゃあ、僕でテストしてみよう。軽く薄皮を切ってみるから、そこを再生させてみて?」
「任せなさい。ちゃちゃーっと治しちゃうんだから!」
セラフィーナは封切り用の小型ナイフを取り出し、すーっと器用に自身の薄皮を切り裂いてみせる。メイドさんはその器用さに、思わず喉を鳴らす。
「よ、よくそれできるわね…怖くないの……?」
「治療魔術を覚えるために練習したからね。あんまりやりたくないけど…」
痕も残らないとはいえ、やっぱり自分の身体を傷付けるのは嫌なものである。万が一大きな傷になった時の為、痕が見えないようにいつも太ももに切り傷を入れているので、今回もそこに。スカートをめくり、ルーチェにが魔術を唱えやすいようにする。
「よし、OKだよ」
「…行くわね。…」
魔法陣が開かれ、文字がそこへと記されていく。記述式の魔術。問題なく発動したそれに、ゆっくりと魔力が注がれていく。実に順調、問題なく進むと思ったその時、またも嫌な予感がセラフィーナの背筋を伝った。
「(こ、この感じって……)」
「…記述完了、治療せよ!」
清々しいほど順調に、魔術は完成する。魔法陣に力がみなぎり、エネルギーが駆動する。そして、完成した魔法陣から魔力が解き放たれる。魔力は淡い光を放ち始め、やがて温かな熱が体に伝わっていく。
「や、やった…!」
そうして、ボッ!という音が、突然膝上から聞こえた。
「あっ」
「あっ」
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