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22話 アドリブ力
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「はじめまして!聖女となりました、セラフィーナ・ラガザハートです!…こ、この度は、私の宣誓に付き合って頂きありがとうございます!私としても、王都騎士団の皆様と共に、この国を守れる事を誇りに思います!」
緊張で足がガックガクに震えているが、壇裏なので見えてません。顔を真っ赤にして、必死にアドリブでこの場を凌ごうとしている彼女に釘付けになっている男がいた。
「どうだアルヴェルト。実物を見てみて」
「……素敵だ…まるで天使のようだ……」
セラフィーナに恋してしまった騎士、アルヴェルト・ドラゴラッジである。普段ならこんな集会には絶対顔を出さないのだが、セラフィーナを見たい一心で今回は珍しく参加しているのだった。
「ああ…やっぱり恋しちまってるな…どうするんだアルヴェルト、まさか告白しに行くつもりじゃないよな?」
「…いいや、男は当たって砕けろだ。これから彼女にアプローチしてくる!」
「やっぱりそうなるか…止めはしないが、あまり期待するなよ」
身分差はもちろんだが、それより彼の問題点は性格の粗暴さにある。特訓が嫌だからと言って上官をぶっ飛ばして気絶させる様なやつが、聖女に気に入られるとは到底思えないのが正直な所である。
「わあってるよ。…ああ…可愛い…」
恋は盲目とはよく言ったものだ…と呆れつつ、セストも彼女の宣誓に聞き入ることにした。彼女の宣誓は拙いものでこそあるが、勢いは感じられる男気溢れるようなものであった。
「(なるほど、こいつが好き好むのもわかるような気がするな。女性でありながら、女性に対する「壁」のようなものを彼女からは微塵も感じない…)」
まあ男同士だから当たり前なのだが。焦りからか、緊張からか、セラフィーナの演説は段々とヒートアップし、会場の騎士達さえ彼女に鼓舞されるような感覚に陥る。
「そしてここに、私達聖教会と王都騎士団との、共闘宣言を宣言いたしますッ!」
バンッ!!とセラフィーナはマイクを置き、力強く拳を真上に突き立てた。もうヤケクソだ。笑うなら笑え、と言わんばかりに汗だくだくで彼女は騎士団の方を見た。
「うおおおおおっ!聖女様カッコイイ!!」
「最高の宣誓でしたよ!!」
「俺、聖女様に一生ついていくッス!」
「(あ、あれ……?)」
笑われる所か、騎士団の皆さんは立ち上がって熱烈に拍手を送ってくれている。それどころか、一緒になって拳を突き上げてる者さえいるでは無いか。想定外の自体にセラフィーナは混乱していたが、遠目に見えたルーチェのグッドサインに気付き、なんとかなったと安堵する事にした。
「で、では、これにて失礼致します」
ペコリと頭を下げて、いそいそとルーチェの元へ帰って行く。入れ替わるように騎士団長様が前に出て行き、騎士団の面前へと立ち上がった。これから彼の説明が始まるのだが、セラフィーナはもうやりきったという事で頭がいっぱいだった。
「お見事でした、セラフィーナさん」
「お、お見事じゃありませんよ……なんなんですかこのカンペは!」
「すみません、本当は演説用のカンペもあったのですが、貴女を試したのですよ」
「え?試した…?」
「はい。貴女はこれから何度も、アドリブで窮地を乗り切る必要が必ず出てきます。その為に貴女がどこまでやれるか、調べておきたかったのですよ」
「……そうですね…」
聖女として、皆を守って行くという選択は同時に皆を嘘で騙して騙し通すという選択にもなる。その為には、事前に用意したプランだけでは絶対に防ぎきれない事態が発生する。そこでどれだけアドリブで凌ぎきれるかでセラフィーナの未来は決定するのだ。
「でも、あれだけ喋れるなら十分です。私も安心して、貴女の身の回りの世話ができそうです」
「本当ですか?ふふ、良かったです。…で、でも、出来ればもうあんな事しないで下さいね!?」
「はい、なるべくもう試す様なマネはしません。ご安心ください」
ほんとかなぁー、とセラフィーナは疑いの瞳を向けるが、彼女は協力者。これも自分を思ってやってくれた事だ。彼女は自分の為に頑張ってくれるんだし、自分も彼女を信じて行動すべきなのだろう。
「えー、で、あるからしてぇ……」
そして騎士団長が壇上で話をしているが、騎士団の皆はそんなに話を聞いてない…半分寝ている様な騎士団の影から、一人の男がセラフィーナ達の方へと近付いてきた。
「ん?」
「悪い、ちょっと外に来てくれないか?」
「え?わ、私ですか……?」
「ああ。…アンタと話がしたいんだ」
近付いてきた男こそが、先程まで惚けてセラフィーナの事を見つめていたアルヴェルト。聖女に恋した騎士団長最強の騎士が、ついにセラフィーナへと声をかけたのだ────
緊張で足がガックガクに震えているが、壇裏なので見えてません。顔を真っ赤にして、必死にアドリブでこの場を凌ごうとしている彼女に釘付けになっている男がいた。
「どうだアルヴェルト。実物を見てみて」
「……素敵だ…まるで天使のようだ……」
セラフィーナに恋してしまった騎士、アルヴェルト・ドラゴラッジである。普段ならこんな集会には絶対顔を出さないのだが、セラフィーナを見たい一心で今回は珍しく参加しているのだった。
「ああ…やっぱり恋しちまってるな…どうするんだアルヴェルト、まさか告白しに行くつもりじゃないよな?」
「…いいや、男は当たって砕けろだ。これから彼女にアプローチしてくる!」
「やっぱりそうなるか…止めはしないが、あまり期待するなよ」
身分差はもちろんだが、それより彼の問題点は性格の粗暴さにある。特訓が嫌だからと言って上官をぶっ飛ばして気絶させる様なやつが、聖女に気に入られるとは到底思えないのが正直な所である。
「わあってるよ。…ああ…可愛い…」
恋は盲目とはよく言ったものだ…と呆れつつ、セストも彼女の宣誓に聞き入ることにした。彼女の宣誓は拙いものでこそあるが、勢いは感じられる男気溢れるようなものであった。
「(なるほど、こいつが好き好むのもわかるような気がするな。女性でありながら、女性に対する「壁」のようなものを彼女からは微塵も感じない…)」
まあ男同士だから当たり前なのだが。焦りからか、緊張からか、セラフィーナの演説は段々とヒートアップし、会場の騎士達さえ彼女に鼓舞されるような感覚に陥る。
「そしてここに、私達聖教会と王都騎士団との、共闘宣言を宣言いたしますッ!」
バンッ!!とセラフィーナはマイクを置き、力強く拳を真上に突き立てた。もうヤケクソだ。笑うなら笑え、と言わんばかりに汗だくだくで彼女は騎士団の方を見た。
「うおおおおおっ!聖女様カッコイイ!!」
「最高の宣誓でしたよ!!」
「俺、聖女様に一生ついていくッス!」
「(あ、あれ……?)」
笑われる所か、騎士団の皆さんは立ち上がって熱烈に拍手を送ってくれている。それどころか、一緒になって拳を突き上げてる者さえいるでは無いか。想定外の自体にセラフィーナは混乱していたが、遠目に見えたルーチェのグッドサインに気付き、なんとかなったと安堵する事にした。
「で、では、これにて失礼致します」
ペコリと頭を下げて、いそいそとルーチェの元へ帰って行く。入れ替わるように騎士団長様が前に出て行き、騎士団の面前へと立ち上がった。これから彼の説明が始まるのだが、セラフィーナはもうやりきったという事で頭がいっぱいだった。
「お見事でした、セラフィーナさん」
「お、お見事じゃありませんよ……なんなんですかこのカンペは!」
「すみません、本当は演説用のカンペもあったのですが、貴女を試したのですよ」
「え?試した…?」
「はい。貴女はこれから何度も、アドリブで窮地を乗り切る必要が必ず出てきます。その為に貴女がどこまでやれるか、調べておきたかったのですよ」
「……そうですね…」
聖女として、皆を守って行くという選択は同時に皆を嘘で騙して騙し通すという選択にもなる。その為には、事前に用意したプランだけでは絶対に防ぎきれない事態が発生する。そこでどれだけアドリブで凌ぎきれるかでセラフィーナの未来は決定するのだ。
「でも、あれだけ喋れるなら十分です。私も安心して、貴女の身の回りの世話ができそうです」
「本当ですか?ふふ、良かったです。…で、でも、出来ればもうあんな事しないで下さいね!?」
「はい、なるべくもう試す様なマネはしません。ご安心ください」
ほんとかなぁー、とセラフィーナは疑いの瞳を向けるが、彼女は協力者。これも自分を思ってやってくれた事だ。彼女は自分の為に頑張ってくれるんだし、自分も彼女を信じて行動すべきなのだろう。
「えー、で、あるからしてぇ……」
そして騎士団長が壇上で話をしているが、騎士団の皆はそんなに話を聞いてない…半分寝ている様な騎士団の影から、一人の男がセラフィーナ達の方へと近付いてきた。
「ん?」
「悪い、ちょっと外に来てくれないか?」
「え?わ、私ですか……?」
「ああ。…アンタと話がしたいんだ」
近付いてきた男こそが、先程まで惚けてセラフィーナの事を見つめていたアルヴェルト。聖女に恋した騎士団長最強の騎士が、ついにセラフィーナへと声をかけたのだ────
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