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10話 危険回避スキル
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「あっ!ちょ!危ない!避けてー!!」
彼女は絶句した。目の前には、水がいっぱいに詰め込まれたバケツを持って、こちらに突っ込んでくるメイド。それも階段で転んだのであろう、勢いをつけて飛び込んでくる。プロの戦闘員でもない限り、こんなもん避けられるわけが無い。
「うわああああああああ!?!?」
どばっしゃああぁん!と水が散乱する音がして、それからセラフィーナの腹部にズシンとそのメイドが乗っかってくる。スケスケになった白のワンピースを覆い隠すように乗りあがったメイドは、いたたたと頭をさすりながら起き上がる。
「…ご、ごめん!大丈夫!?」
「あたた……だ、大丈夫ですよ…」
「よ、良かったー…ごめんなさい、いきなり人が来るとは思わなくて…」
「…いきなりではないだろう、ルーチェ・クールツィオ。今日は聖女ラガザハートが来るから先に掃除をしておけと命じられていただろうに。あと降りろ」
「げ、司祭のじいさん…ハイハイ、わかったわよ。…この人が聖女セラフィーナさん?」
メイドはそう言いながら、セラフィーナからゆっくり離れる。びしょびしょになったセラフィーナを気遣うように、司祭は優しく手を差し伸べた。
「その通りだ。…失礼した、聖女ラガザハート。怪我は無いか?」
「だ、大丈夫です……っ!?」
【WARNING!WARNING!】
突如として、セラフィーナの脳内にサイレンのような音が鳴り響く。ただならぬ危険を感じたセラフィーナは、何が起きているのかと慌てて状況を確認する。
「(な、なに…?この音……!?)」
混乱する頭を落ち着かせ、音に耳を済ませる。けたたましく鳴り響くこれは、恐らく身の危険を知らせる音。先代聖女、エヴァンジェリーナは言っていた。聖女には、他の人には聞こえない神の声が聞こえると。だとしたら、これは神様が教えてくれているピンチのはずだ。一体何が……?
「(あっ!ま、まずいっ!!)」
そして理解した。スケスケになってしまったワンピースの上に、セラフィーナの股間がうっすらと浮かんでしまっている事に。大慌てでセラフィーナは両足でイチモツを隠して、それからようやっと祭司の手を取って立ち上がった。
「(あ、危なかった……男だってバレるところだった……!)」
太ももでイチモツを必死に潰しながら、内股気味に立ち上がる。司祭様も、ルーチェと呼ばれたメイドも、恐らくまだ彼が男だとは気付いていないだろう。
「(今の音……二人には聞こえてないのかな……?)」
二人の反応を見るに、やはり二人には聞こえていない様子。となると、今の音は自分だけに聞こえる神の声なのだろうか。聖女は不思議に思っていたが、それを遮るようにメイドが語った。
「この人がセラフィーナさん…うんうん、聞いての通り、美しい御方ね。初めまして、貴女の下僕となります、ルーチェ・クールツィオです。どうぞよろしく」
「あ、よ、よろしくお願いします…」
緊張と興奮からやっと開放されたセラフィーナは、これから自分の配下になるであろう女性の方へと視線を向ける。短く纏まったロゼのショートヘアに、猛る炎のような瞳。聖女はこの顔に見覚えがあった。そうして、セラフィーナがそれに気付くと同時に、向こうもセラフィーナの「何か」に気が付いたのだった。
「立ち話もなんだし、お部屋に案内しますね。ほら、司祭さんの役目は終わったんだし帰った帰った」
しっしっ、と司祭を面倒くさそうに追っ払うルーチェ。まあ異存は無いし文句は無いのだが…と言った感じで、司祭様はすごすごと教会に帰っていく。
「さて…邪魔者がいなくなった所で…貴女も気付いているんでしょ?セラフィーナさん…いいえ、ジョット・バルハート君」
「……!」
それを聞いて、セラフィーナは心臓をドキリと高鳴らせた。ジョット・バルハート。それはセラフィーナが以前、男だった時の名前だ。それを知っているという事は、目の前の彼女は自分が男だと知っているという事になる。もしそれを告発されたら。セラフィーナは死への恐怖で、心臓がカンカンと高鳴っていくのを感じる。そんな動揺したセラフィーナを見て、目の前のメイドは怪しくフッと笑うのだった。
彼女は絶句した。目の前には、水がいっぱいに詰め込まれたバケツを持って、こちらに突っ込んでくるメイド。それも階段で転んだのであろう、勢いをつけて飛び込んでくる。プロの戦闘員でもない限り、こんなもん避けられるわけが無い。
「うわああああああああ!?!?」
どばっしゃああぁん!と水が散乱する音がして、それからセラフィーナの腹部にズシンとそのメイドが乗っかってくる。スケスケになった白のワンピースを覆い隠すように乗りあがったメイドは、いたたたと頭をさすりながら起き上がる。
「…ご、ごめん!大丈夫!?」
「あたた……だ、大丈夫ですよ…」
「よ、良かったー…ごめんなさい、いきなり人が来るとは思わなくて…」
「…いきなりではないだろう、ルーチェ・クールツィオ。今日は聖女ラガザハートが来るから先に掃除をしておけと命じられていただろうに。あと降りろ」
「げ、司祭のじいさん…ハイハイ、わかったわよ。…この人が聖女セラフィーナさん?」
メイドはそう言いながら、セラフィーナからゆっくり離れる。びしょびしょになったセラフィーナを気遣うように、司祭は優しく手を差し伸べた。
「その通りだ。…失礼した、聖女ラガザハート。怪我は無いか?」
「だ、大丈夫です……っ!?」
【WARNING!WARNING!】
突如として、セラフィーナの脳内にサイレンのような音が鳴り響く。ただならぬ危険を感じたセラフィーナは、何が起きているのかと慌てて状況を確認する。
「(な、なに…?この音……!?)」
混乱する頭を落ち着かせ、音に耳を済ませる。けたたましく鳴り響くこれは、恐らく身の危険を知らせる音。先代聖女、エヴァンジェリーナは言っていた。聖女には、他の人には聞こえない神の声が聞こえると。だとしたら、これは神様が教えてくれているピンチのはずだ。一体何が……?
「(あっ!ま、まずいっ!!)」
そして理解した。スケスケになってしまったワンピースの上に、セラフィーナの股間がうっすらと浮かんでしまっている事に。大慌てでセラフィーナは両足でイチモツを隠して、それからようやっと祭司の手を取って立ち上がった。
「(あ、危なかった……男だってバレるところだった……!)」
太ももでイチモツを必死に潰しながら、内股気味に立ち上がる。司祭様も、ルーチェと呼ばれたメイドも、恐らくまだ彼が男だとは気付いていないだろう。
「(今の音……二人には聞こえてないのかな……?)」
二人の反応を見るに、やはり二人には聞こえていない様子。となると、今の音は自分だけに聞こえる神の声なのだろうか。聖女は不思議に思っていたが、それを遮るようにメイドが語った。
「この人がセラフィーナさん…うんうん、聞いての通り、美しい御方ね。初めまして、貴女の下僕となります、ルーチェ・クールツィオです。どうぞよろしく」
「あ、よ、よろしくお願いします…」
緊張と興奮からやっと開放されたセラフィーナは、これから自分の配下になるであろう女性の方へと視線を向ける。短く纏まったロゼのショートヘアに、猛る炎のような瞳。聖女はこの顔に見覚えがあった。そうして、セラフィーナがそれに気付くと同時に、向こうもセラフィーナの「何か」に気が付いたのだった。
「立ち話もなんだし、お部屋に案内しますね。ほら、司祭さんの役目は終わったんだし帰った帰った」
しっしっ、と司祭を面倒くさそうに追っ払うルーチェ。まあ異存は無いし文句は無いのだが…と言った感じで、司祭様はすごすごと教会に帰っていく。
「さて…邪魔者がいなくなった所で…貴女も気付いているんでしょ?セラフィーナさん…いいえ、ジョット・バルハート君」
「……!」
それを聞いて、セラフィーナは心臓をドキリと高鳴らせた。ジョット・バルハート。それはセラフィーナが以前、男だった時の名前だ。それを知っているという事は、目の前の彼女は自分が男だと知っているという事になる。もしそれを告発されたら。セラフィーナは死への恐怖で、心臓がカンカンと高鳴っていくのを感じる。そんな動揺したセラフィーナを見て、目の前のメイドは怪しくフッと笑うのだった。
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