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7話 婚約者
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それはそれは、あまりにも驚くべき事態だった。王子の婚約者となる、それが何を意味するのか分からないセラフィーナでは無い。彼のお嫁さんとなり、ゆくゆくは王妃としてこの国の頂点に立つということである。
「……こ、婚約者!?」
セラフィーナの心臓はバコンバコンである。それも、単に嬉しいからという訳では無い。というのも、この誘いに乗ったら死亡確定だからである。王子と結婚すれば当然跡継ぎを産まなくてはならない訳だし、男のセラフィーナにそれは無理である。下手したら初夜で王子にトラウマを植え付ける可能性すらある。
「ああ、すまない。驚かせてしまったね。婚約者と言っても、建前上の話だ」
「えっ!?…あ、形式上でしたか…なにゆえそのような事を……?」
ホッと、心底安堵の息を吐き出したセラフィーナは、落ち着いて王子の話を伺うことにする。
「実は、少し困った女に追いかけられていてな。彼女を諦めさせる為に、君に婚約者として振舞って欲しいのだ」
「なるほど…婚約者である事を示して、その人に諦めて貰うわけですね。ちなみに、どんな御方なんですか?」
「彼女の名はフランカ。フランカ・デュジャルダンと言うそうだ。とても強気な少女でね…君は知っているか?」
「ええと…デュジャルダンの名でしたら多少は存じております。確か、俳優の…」
「そう。この国随一の俳優、エドモンド・デュジャルダン。彼の娘に当たる人物がフランカだ。彼女も、俳優の卵らしい」
デュジャルダン一家。この王国に住まう貴族で、この国最大のコンサートホール、エドモンド・ダンスホールを建築した一族。この建物は、類まれなる演技力で大人気となり、俳優業で巨万の富を得たエドモンド・デュジャルダンによって建てられた。
彼は引退後も沢山の俳優を育て、その誰もが今や有名な俳優と成っている。俳優業を目指す者なら誰もが一度はその名を聞くような超大物。そのエドモンドの実娘がフランカ・デュジャルダンである。
「なるほど…何故陛下はその御方から逃げようと…?」
「ああ……」
大俳優の娘で、大金持ち、地位も陛下とほぼ対等に近いくらいだ。そんな悪い話では無かろうが、王子的には何か嫌な所があるのだろうか。
「単純に性格が苦手だ。…それと、散財が酷いらしくてな…」
ぬー、と可愛らしく困り顔を見せるパトリツィオ。まあ確かに、好きでもない人と付き合う上にお金まで散財させられたら王になった後もキリキリ胃が痛むだろう。
「そうでしたか…ですが、婚約者役が私である必要はあるのでしょうか?もっとこう、適任なお方が他にも……」
「いや、こんな事を頼める人は君しかいないんだ。実は、親しい女性の友人がいなくてな……この通りだ、頼む!」
そう言って、パトリツィオ陛下はいとも簡単にその頭を下げた。王子とは思えぬその行為に、驚き焦りまくるセラフィーナ。
「えええっ!?そ、そんな、頭をあげてください陛下!」
「では君の返事を聞かせて欲しい。…もちろん、初対面でこんな事を言われて困るだろうから、断ってくれても構わない」
えええええー!?断ってくれても良い、と言われても、王様に頭まで下げさせて、無理ですごめんなさい、なんて言ったら処刑されても文句無しである。こうなれば、セラフィーナが取るべき選択は一つだ。
「…わかりました。なります!私、陛下の婚約者役になります!」
「……こ、婚約者!?」
セラフィーナの心臓はバコンバコンである。それも、単に嬉しいからという訳では無い。というのも、この誘いに乗ったら死亡確定だからである。王子と結婚すれば当然跡継ぎを産まなくてはならない訳だし、男のセラフィーナにそれは無理である。下手したら初夜で王子にトラウマを植え付ける可能性すらある。
「ああ、すまない。驚かせてしまったね。婚約者と言っても、建前上の話だ」
「えっ!?…あ、形式上でしたか…なにゆえそのような事を……?」
ホッと、心底安堵の息を吐き出したセラフィーナは、落ち着いて王子の話を伺うことにする。
「実は、少し困った女に追いかけられていてな。彼女を諦めさせる為に、君に婚約者として振舞って欲しいのだ」
「なるほど…婚約者である事を示して、その人に諦めて貰うわけですね。ちなみに、どんな御方なんですか?」
「彼女の名はフランカ。フランカ・デュジャルダンと言うそうだ。とても強気な少女でね…君は知っているか?」
「ええと…デュジャルダンの名でしたら多少は存じております。確か、俳優の…」
「そう。この国随一の俳優、エドモンド・デュジャルダン。彼の娘に当たる人物がフランカだ。彼女も、俳優の卵らしい」
デュジャルダン一家。この王国に住まう貴族で、この国最大のコンサートホール、エドモンド・ダンスホールを建築した一族。この建物は、類まれなる演技力で大人気となり、俳優業で巨万の富を得たエドモンド・デュジャルダンによって建てられた。
彼は引退後も沢山の俳優を育て、その誰もが今や有名な俳優と成っている。俳優業を目指す者なら誰もが一度はその名を聞くような超大物。そのエドモンドの実娘がフランカ・デュジャルダンである。
「なるほど…何故陛下はその御方から逃げようと…?」
「ああ……」
大俳優の娘で、大金持ち、地位も陛下とほぼ対等に近いくらいだ。そんな悪い話では無かろうが、王子的には何か嫌な所があるのだろうか。
「単純に性格が苦手だ。…それと、散財が酷いらしくてな…」
ぬー、と可愛らしく困り顔を見せるパトリツィオ。まあ確かに、好きでもない人と付き合う上にお金まで散財させられたら王になった後もキリキリ胃が痛むだろう。
「そうでしたか…ですが、婚約者役が私である必要はあるのでしょうか?もっとこう、適任なお方が他にも……」
「いや、こんな事を頼める人は君しかいないんだ。実は、親しい女性の友人がいなくてな……この通りだ、頼む!」
そう言って、パトリツィオ陛下はいとも簡単にその頭を下げた。王子とは思えぬその行為に、驚き焦りまくるセラフィーナ。
「えええっ!?そ、そんな、頭をあげてください陛下!」
「では君の返事を聞かせて欲しい。…もちろん、初対面でこんな事を言われて困るだろうから、断ってくれても構わない」
えええええー!?断ってくれても良い、と言われても、王様に頭まで下げさせて、無理ですごめんなさい、なんて言ったら処刑されても文句無しである。こうなれば、セラフィーナが取るべき選択は一つだ。
「…わかりました。なります!私、陛下の婚約者役になります!」
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